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『誤魔化しはよくありませんよ』

「師匠、これからどうするんですか?」

「もう大した予定はない。少しヒカリ達のところへ顔をだしにいくくらいだな。二人は普通に観光してくれればいいから」


 もう結構長い時間観光しているとは言えない。


 静かーに互いに目を逸らす。黙っていればバレはしない。人の感情に疎い白亜だからこそある程度の誤魔化しは通用するのだ。ただし嘘はバレるが。


「じゃあ時間が立ったら連絡するから」


 二人のやけに静かな反応に一瞬首を傾げつつも別に追求する必要もないと思ったらしくそのままスルーした。


 最近大分人の顔色を読むようになってきた白亜。まだまだ甘い。


 当然のごとくシアンは気付いていたらしく、二人にだけ念話で話しかけてきた。


『誤魔化しはよくありませんよ』


 と。シアンが居ると白亜の死角がなくなるので厄介である。


「「すみません……」」


 ぼそりと謝って、反対方向に歩き始めた。白亜について行くのは結構大変だからである。


 白亜から手解きを受けているジュードでさえ苦戦する道程。いったいどんな悪路なのか、というと最早道ですらない。


 移動速度が電車とかより走った方が早いという出鱈目な運動センスがあるので目的地まで全部突き抜けて行こうとする。


 山を五つほど突っ切るのだが、中々標高が高い上に登山道すらないので酷い山登りになるのだ。


 結構遠いのも拍車をかけている。とりあえず車でも移動は不可能だといっておこう。行けたとしても一日どころの距離ではないし。


「シアン、ルートの最適化を」

『お任せを』


 目に白亜だけが見える地図が浮かぶ。赤い線が山々を突っ切っているのをみるとこれがルートらしい。


 白亜がここまで回りくどいことをしているのは以前移動が面倒で空を飛んだら飛行機の操縦士が偶々発見して大騒ぎになったことがあったのだ。


 新型亜人戦闘機の偵察機かもしれないとの報告があったので白亜にも連絡が回り「……あ、これ俺だ」と発覚した。


 当然周囲は揃って大きなため息をついていた。ちなみに白亜が飛んだ理由は、出勤に遅れそうだったという酷く私的なものだったとも付け加えておく。


 山の中を爆走するならもし見つかっても多分そこまで大事にはならないだろう。多分。


 トントン、と地面を軽く蹴ってから木々を足場にしつつ跳躍と前進を繰り返す。


 シアンのルートは正確で、大きな岩や川を迂回しつつも最短ルートで進めている。それと、なるべく開けていない場所を選んでいた。


 もしも登山客とかいても一瞬見えただけでは人だとは判断されにくくなるだろうとの配慮のことだ。


 木の間を一瞬で駆け抜けていくのと草原をとんでもないスピードで爆走していくの、どっちがばれないかと聞かれたら絶対前者だ。


 最悪バレても写真などの物的証拠は残しにくい。だってめちゃくちゃ早いから。


「ここも、動物が少ないな」

『大型のものは数が殆どありませんね』


 山育ちだった白亜。獣道の足跡や動物が食事をした跡などを見て何がどのくらいの数いるのかをなんとなく理解できる。


 だが見たところいるとしても雑食の狸や狐程度だ。


 鹿が木の皮を剥いで食べたりした跡なんかが全然見つからない。見える限りの足跡も大きくても拳程度のものばかりだ。


 熊や鹿、猪なんかが急激に数を減らしているのは知っていたが、予想以上だった。


 ……だからといってなにかできるわけでもないのだが。


 タンタンと木から木に飛び移り、数メートルの崖を二秒で登り、数十メートルの崖を平然と飛び降りる。


 これは確かにジュードでもキツいだろう。それを真顔で走り続けることができる人などほぼいない。


『見つけました。偵察機のレーカです』

「どこだ」

『転写します』


 浮かぶ地図に青い点が追加された。白亜はそれに向かってほんの少し進路を変更する。


 進路を変えて十秒後、白い狐の姿をした対亜人戦闘機兵器の一つ、液体水素放射機の『零下』の目の前に足元の土を削りながら登場した。


 土埃がぼわっと立ち込めて、中々派手な演出である。演出というより、急に進路を変えたため減速位置を間違えて突っ込みそうになったので慌てて片足でブレーキをかけただけだったのだが。


『ひぇっ⁉ あ、ああ……白亜様……脅かさないでください……』

「ごめん。入り口を教えて欲しくて」

『こ、こちらです……』


 囁くような声で案内を開始する零下。気性は相当大人しく気が弱いのだが、戦闘時では恐ろしい対多数戦闘兵器となる。


 触れさえすれば一瞬で凍らされる液体水素を広範囲に噴射する。亜人戦闘機を壊すにはあまり有功ではなかったが、足止めには最適だった。


『今日は……なんのご予定で?』

「ヒカリに話があるんだ。今日は零下が見張りだったんだな」

『はい……。もし人間を見つけてしまったら、うまく対応できるかわかりませんが……』


 瞬間冷却は人間にはかなり効果的な殺戮方法である。低温やけどを負わせることも簡単だし、なによりかなり離れた位置から攻撃できるのが大きい。


 火炎放射機と違って延焼の心配もない。


 わざわざ白亜が零下のところまで来た理由は、白亜の昔の秘密基地の構造にある。


 かなりヤバイ兵器の数々が作られたここは、絶対に死ぬまで他人に見せるつもりがなかった。


 安全策として【人工知能を一つずつプログラムする】のと【ものを作り出すことの禁止】は命じてあるが、なにか不慮の事故が起こる場合だって十分ある。


 だからここの入り口は日によって変わる。


 違う入り口から入ろうとするとその日一日は白亜の許可なしでは絶対に入り込むことができないよう扉に仕掛けが施してある。


 やはり白亜は昔から用心深い性格だ。


 今日の入り口からなかに入ると、今日仕事がない兵器たちが思い思いに過ごしていた。


 眠っていたり、会話していたり、ゲームをしていたりとかなり自由である。


 そのなかにヒカリがいないことに気付き、白亜がキョロキョロと辺りを見回していると、柴犬……連絡用通信機である連が話しかけてきた。


『ヒカリさんですか?』

「ああ、連。そうなんだけど今どこにいる?」

『今少し外で仕事を。ですがすぐに呼び戻せるので、呼びますか?』

「頼む」


 柴犬が尻尾を何度か振ると、こくりと頷いた。


『すぐ来るそうです』


 ……尻尾で電波でも飛ばしているのだろうか?

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