「……脆そう」
「あれで大丈夫なんですか……?」
「師匠が大丈夫っていうんですから最終的には大丈夫になりますよ」
……要するにそれまでの経緯は大丈夫じゃない可能性がある。
最後になんとかするのは白亜の役目だが、そのやり方はたまに問題がある。……というより問題が起こることを前提で計画を立てる。
いつも襲われ拐われては皆が心配し疲れた頃にひょっこり帰ってくる。
そう、いつもやり方が酷い。一回相手の懐に入りこんでから敵を圧倒するのはいいが、自己犠牲が過ぎる方法をとる。しかも自分が関わらないと決めた方法でも結構ギリギリのラインを保ってくる。
他人にこうしろああしろと言うと大抵なんとか越えられる課題を与えてくる。頑張ればできないことはない、っていうレベルの。
「まぁ、多分なんとかなるよ。ハクア君の言ってることだし。……頑張れば、だけど」
リンもぼそっと言う。皆白亜の性格と考え方を知っているからこそもうどうにもならないとわかっている。
そして微妙に文句を言われている白亜自身は現在別行動をしている。本人は「とりあえず罠張ってみるからなんかあったら対処しといて」と言い残して。
「対処しといて」とは酷い丸投げ様である。
「なにやるつもりなんでしょうね、師匠」
「白亜さんのことだからなぁ……」
「そもそもどこに罠張るつもりなんだろう? ハクア君お店に入っていったけど」
「「さぁ……?」」
欠伸をしながら電化製品を取り扱う店に入っていった白亜のことを思い出す。
明らかになにか企んでる顔だった。三人揃って苦々しい表情になる。
「「「何もなければいいなぁ……」」」
勿論そんなことあり得ないだろうが。
その頃、白亜はパソコンが大量に並べられているコーナーで顎に手をやっていた。さらっと見るだけでも十分解説くらい見れるのだが、無駄なほど凝視していた。
そしてぼそっと呟く。
「……脆そう」
近くを通りすぎた店員が怪訝な顔をして白亜の様子をちらと見ていった。当たり前である。パソコン見て「脆そう」とか何に使うつもりなんだこいつと思われても仕方ない。
『そもそもここで買う必要はないと思うのですが』
「……まぁ、それもそうなんだが」
パソコンなら、この世界に居る白亜配下のヒカリ達が改造したであろうそれを持っているだろうからそれを使えばいいのだが。
ちなみに、ヒカリ達は『新しくものをつくる』ことは出来ない。そうしないように白亜が設定した。
その代わりに『元からあるものを改造すること』は許されている。そうしないとこの世界の流行や技術に置いていかれてしまうからである。
久しぶりに会って、全機が自己改造しまくっていて武器以上のものになっていた事は白亜も驚いたが、これが白亜のプログラムの狙いである。
ヒカリ達に物を無制限に作り出すことを許してしまうと、武器を白亜なしで永遠に生産可能になってしまう。そんな危険指定されることは避けたかった。
だから機械の特権である『作り替える』ことだけを許し、人の特権である『作り出す』ことは禁止した。
ヒカリ達にパソコンを借りると、一体どんな風に改造されているか解ったものではないのでちょっと躊躇している。
「どちらにせよ、一回使ったらもう使えなくなる可能性あるからな」
『パソコン一台を使い捨てとは。勿体無いですね』
「仕方ないだろ」
カチャカチャとディスプレイされているパソコンを弄りつつ、小さくため息をつく。
期待している性能に届いてるものがなかったのだ。
「……これでいいか。耐えてくれるだろ。多分」
消音タイプの最新式ノートパソコンだ。この中では二番目に高額な商品である。
レジで金を払い、近くの喫茶店に入ってコーヒーを頼む。一番端のカウンターに座って買ったばかりのパソコンを起動する。
手首をならして眼鏡をかける。別に目が悪くなったとかそう言うわけではない。むしろ逆でじっと見続けていると細かく見えすぎてしまい、今からやる作業には向かないのだ。
一つのものに集中しないように、わざと眼鏡のレンズを通してぼやけさせている。
だて眼鏡で、度はない。
「……やるか」
何度か瞬きをしてからポケットに入っていた五センチ程の機器を取り出してパソコンの横に空いている穴に差し込む。
カチッと軽やかな音がして真っ青だった画面上に幾つかのソフトが表示された。
白亜はそれのひとつをクリックし、キーボードに手を置く。
直後、恐ろしい速度で指先がキーボードの上を滑っていく。こんな速度で指が動くのかと周囲にいた客が一斉に白亜の手元をみる。
そして画面にはただひたすら謎の文字列が大量に並んでいっている。
めちゃくちゃに打ち込んでいるわけではないのは、指の動きを見ても明らかだった。
「よし、第一段階終了。次入るぞ」
『はい。ファイルは229です』
「わかった」
保存を押してから一旦画面を閉じて別のソフトを起動し、同じことをもう一度始める。突然パソコンをもって入って来た人が恐ろしい勢いで謎の文字列を打ち続けるという、明らかに異常な光景に白亜の回りには客が来なくなっていた。
まるで近づいたら呪われるというジンクスが流行っているのかと思うほどである。トイレに近い席なのでたまに人は通っていくのだが何故か皆一切白亜を見ずに走り去っていく。
その後一時間ほどそんな状況が続いた。白亜は一度コーヒーをもう一杯頼むために席を立ったのだが、定員すら怖がって中々店の奥から人が出てこなかった。
数分して店長らしき人が恐る恐る対応してくれた。
コーヒー頼めただけで十分ラッキーである。
普通あんな異常な人に話しかけたいとは思わない。打っているだけならまだしも独り言が激しいのだ。
シアンと会話しているだけなのだが、そんなの他人にはわからない。
小一時間ひたすら恐れられて白亜は去っていった。それも怖がられていることに一ミリも気づくことなく。
白亜はやはり白亜だった。




