「……俺にはわかりかねる」
「それで白亜さんは犯人の場合と第三者の場合、それと練習目的。どれの可能性が高いと?」
「俺は三つ目かも、と思っている」
やはりそうか、と全員がため息をつく。いや、全員ではなくジュードとリンだけは理解できていなかったが。
白亜だけがそれほど考えていない顔をしていた。結構深刻な話題のはずなのだが、いつも通りの様子である。
「師匠? なにかあるんですか?」
白亜の表情に関しては誰よりも詳しいジュードがその様子にすぐ気づいて訊ねる。皆が真剣な雰囲気なので微妙な違いが余計に際立っていたのもある。
白亜の表情は昔ほどではないにしても未だに解りづらい。
「いや……まぁ……なんとなく……だからまだ言うつもりもないんだけど」
まだ確証がないらしく、目を何度も瞑ったり開けたりしながら首を捻っていた。
「とりあえず、今爆弾が仕掛けられているかだけは調べておくか」
「今この場で出来るんですか?」
「ああ。窓を開けてくれ」
その言葉に窓際に一番近かった賢人がすぐ反応した。
賢人が窓を開けている間に白亜はいつも使っているキセルに魔法で火をつけた。
殆ど害のない半透明の白い煙が立ち上る。
白亜はそれを吸い込んでから軽く息を吹いた。白い煙がまっすぐに窓に向かっていったと思ったら霧散してしまった。
「えっと、今なにをしたんですか? まさか吸いたかったからとか無いですよね?」
「ない。これで探す」
「へ?」
……明らかに言葉が足りない。
「師匠、それでは魔法使えない人にはわからないですよ」
「今の魔法だったんですか? ただ煙吹いただけにしか見えなかったんですけど」
「魔法ですよ。口の中で煙を誘導し、目的のものが見つかったら視覚情報が自動的に届くように編まれた魔法術式です」
勿論師匠のオリジナルです、と何故かジュードが誇らしげに語る。
たった一瞬でそれだけの魔法行使は普通不可能だ。そもそも無言で魔法を使う事自体成功している人は相当少ない。
白亜は無詠唱の方法をある程度の人間に教えているが、その中でも使いこなせているのはレイゴットとリン、ジュードあたりだろう。地味にこの二人は世界最高峰だった。
召喚獣であるダイ達は人とはカウントしない。
「で、どうなんです?」
「そんなすぐにわかるか。ちょっと待て」
魔法で気流をつくって早く運ばせるという方法もないわけではないが、あまりそれはしたくなかった。
魔法とは世界を改編する力である。自分の望んだ通りに世界を作り変える、自分勝手な力だ。
それ故に下手に扱えば事故を起こすし、どこかでおかしな辻褄合わせが働いてしまう。
転移魔法がいい例だ。自分の座標と飛ぶ場所の座標からどれ程の魔力が必要か、またその威力の制御等もしなくてはならない。
その計算が完璧でなければ最悪な場所に転移しかねない。
初心者が下手に飛ぼうとしてマグマに転移とか洒落にならない。
それに上級者であっても世界の辻褄合わせを止めるすべはない。止めたとしてもどこか別の場所でなにかが変わってしまう。
雷を落とせば雲は散らされ、どこかで降るはずだった雨が降らなくなるかもしれない。常にそういう【何かを変えてしまう責任】を背負っているのが魔法使いなのだ。
なにも考えずにポンポン使っているわけではない。恐らく。
「魔法なんて、無いのなら無くていい。なくてもこっちは動いているんだから無くたって世界はちゃんと動く。様々なインフラが止められても、この世界もあっちの世界も動くように世界はできているからな」
電気が無くなって、魔法がなくなって困るのは人間だけだ。
動物達はそんなこと気にもせずいつも通り過ごす力がある。人間はそれを捨ててしまったのだ。
「案外世界はタフだからな。ちょっとやそっとではどうにもならない。だから好き勝手する人間がいるし、馬鹿馬鹿しく摂理をねじ曲げる人間がいる」
後者は白亜自身だ。復讐に取り憑かれた、愚かな子供。
白亜はそう言うけれど、誰も白亜が悪いなんて思ってもいない。寧ろその復讐心を行動に移したことが評価されている。それでも白亜は自分自身を許さない。愚かだと罵り続ける。
「誰にでもなにかを憎む心はあると思うけど……一人になれば、間違いに気づけないから。……お前らは、今のままでいろよ」
その言葉は本当に全員に向けて言った言葉なのだろうか。
もしかしたら独り言だったのかもしれないし、答えて欲しいと思って話した訳でもなさそうだ。
だが、その意味を聞く前に白亜が辺りを見回し始め、数秒後に肩を竦めた。
「なにもなかった。少なくとも駅までの半径十キロ圏内には不審物は見つからなかったよ」
どうやら煙が到達したらしい。なにもなかったのは良いことだが、話は振り出しに戻ってしまった。
「とりあえず爆弾が仕掛けられるかもしれないってことは置いておくとして、三番目に話していた【練習】が目的の場合どうしたらいいんでしょうか?」
対策部隊の一人がおずおずと問いかけた。白亜は首を軽くかしげ、
「……俺にはわかりかねる」
ボソッと即答した。
表現が勿体振っている様子に見えたため全員が一瞬気が抜けそうになったが、白亜がなにも言えないのも仕方ないことなのである。
全知全能の存在であるわけではない。ただ人より異常に頭の回転が早くて身体能力が馬鹿みたいに高いだけである。
忘れかけているだろうが、白亜は一般人だ。ただの執事だ。
その一般人がこの警察署が狙われる理由を知っているわけがない。大抵そういうのは機密事項なので探ろうとしなければ探れないのだ。
そして白亜は全く探る気がない。
潜り込もうと思えば警察署でも皇居でもどこにでも入り込めるので白亜に警備などただの案山子である。
だからもし白亜が酷く好戦的な性格であったら数日で世界は滅んでいただろう。断言できるほど白亜は異常だ。
だが幸いと言うべきか、白亜は全く興味がない。
戦闘狂のところもあるが、戦ってるときよりもギター弾いてる方が楽しいからこっちやる。と言い切る人物だ。
白亜の興味が音楽に向いてくれるので今のところ人類の危機には至っていない。
そういうことで、得ようと思えば得られる情報も、白亜はガン無視で過ごしてきたのだ。
……なにも知らないのは無理もない。多分。




