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『出来たと言えばわかる』

「おはよう……。徹夜してなにやってたんだ?」

「いえ……気づいたら朝になっていただけです」


 それが徹夜である。


 白亜はあの後直ぐに寝たらしい。そしてどこで聞いてきたのか、夜のうちにラメルの部屋に肘当てを置いてきたらしく立派にサンタクロースの役目を果たしていた。


 ついでに言えば、肘当てだけでなく使い捨ての魔法具も置いてきたらしい。勿論白亜の作ったものだとバレない工夫もしてある。


「あ、そうだ。師匠は美織さんにどんな物を?」

「お嬢様にか? 一緒に買い物行って、洋服とか選んできたけど」

「一緒に買いにいったんですか」

「サンタなんていないって知ってるからな。別に表だって行動しても問題ない」

「へぇ……。師匠は服とかもらったら嬉しい人ですか?」


 さりげなく聞いてみる。


「ん? ……ぁあ、まぁ、もらって嬉しくない人はいないと思うが……俺の場合自分で作れるからな。無くても困ることないし」

「そうですよね」


 色々な案が出たものの、まだ纏まらないので服の案も流れていっている。


 白亜と別れてどうしようかとまた頭を悩ませていると、通信機が反応した。


「はい、ジュードです」

『ダイだ。白亜はいるか?』

「さっきすれ違いましたけどどうしました?」

『出来たと伝えてくれ』

「なにがです?」

『出来たと言えばわかる』


 疑問符を浮かべながら白亜の部屋に向かうと、白亜が着替えていた。


「ごごごめんなさっ⁉」

「いや、いいけど……。なにかあったか?」

「だ、ダイさんができたって」

「ああ。わかった。ありがとう」


 どうやらダイがジュードに連絡してきたのは白亜が着替え中で通信機を嵌めていなかったかららしい。


 そして着替えの途中でジュードが入ってきても全く動じない白亜。平常運転だが、異性として見られないのがちょっと辛いジュードである。


「なにが出来たんですか?」

「……見てみる?」








 白亜に連れられて着いたのはダイのいる工房だった。


 結構意外だがダイは手先が器用で簡単な武器とかならほぼ手元を見なくても作れるくらいには鍛冶が上手い。


 ここ数年で特に腕をあげただろう。


「おお、白亜。来たか」

「出来たって聞いたけど」

「これだ。試作だがな」


 ダイが指差したのは金色の取手。ドアのやつそのままである。要するにどうみてもただのドアノブなのだ。


 白亜はそれをくるくると回転させたりしながら確認し、魔眼を発動させて何かを確認する。


「早速やってみるか」


 数秒眺めてからそれを握り、近くにあった用具いれのドアにそれを押し付けつつ捻った。


 用具いれの扉にも元々ドアノブがあるので変な感じである。


「お、悪くないね」


 グッと引っ張ると、白亜の自室だった。


「えっ? へ?」


 困惑しているジュードを他所に、もう一度扉を閉めてから開けると元の用具いれに戻っていた。


「どういう事ですか、それ」

「俺の転移を応用して扉と扉を繋げる器具の開発をしているんだ。最初は反対側が見える作りになってたんだけど、それやると何故か消費魔力が数倍になってね。ドアのほうが実用性があるってんで、こっちを使ってるんだ」

「これ使ったらあらゆる場所に師匠なしで飛べるってことですか?」

「扉という媒体は必要だけどな。それと犯罪が起こらないようにひとつの道具につき一ヶ所の扉しか開かない仕組みになってる。これは俺の部屋だな」


 距離が離れれば離れるほど消費魔力が増える上に飛べる場所が限られているので、普通の転移魔法の方が圧倒的に便利であるが一般人にはとてつもなく便利な品だろう。


 行き先が固定されているどこでも○アである。


「その内皆の分もつくって渡すよ。まだ試作品が少ないし、テストもあまりしていないからまだ先にはなると思うけど」


 相変わらず、やることなすことのレベルが半端ではない。


 白亜がもう少し中の魔方陣を弄ると言うので工房の奥に入っていったのでダイにもプレゼントの話を聞いてみる。


「クリスマスか? あれは確か昨日で終わりであろう?」

「えっ」

「某の記憶では二日で終わるはずだが」

「それ忘れてました……どうしましょう」


 クリスマスが終了していたことに気づくのが遅かった。


 今から用意しても今更感が出てしまう。


「それならこれからじっくりと話し合って正月に回した方がいいのではないか?」

「ですかね……」


 そしてこれをリンに伝えると、


「えーっ⁉」

「ごめんなさい期間があることを忘れていました」

「……どうする? やめる?」

「お正月にしましょうか」

「……そうだね」


 下手に急いで要らないものをあげても仕方がない。とりあえず今回の件は無しになった。


 ではなぜ二人がいがみ合う結果になったのか、それはこの後の昼食の時に発した白亜の一言が原因だ。


「今年は正月ずっと日本にいるから」


 美織にプレゼントをねだられたときに約束させられたらしい。正月くらいゆっくり休みたいと思っていた白亜だが、ここ最近あまり構ってやれなかったことに罪悪感があるらしく断りきれなかったのだとか。


 これで正月にプレゼントを渡す件が不可能になってしまった。


「やっぱり服ですよ!」

「いや、お仕事で使う筆記具だよ!」


 ジュードは服、リンは昨晩の案で出た筆記具を渡そうと言い出した。


 両方あげるという選択肢は基本ない。そして白亜の意見も聞く気はない。


 なぜなら、二人揃ってお金の感覚がおかしいのか桁外れの量を贈るつもりだからで、白亜に聞いたところで「俺のはいいから二人が欲しいものを買いな」と言われるのは目に見えている。


 100着の服と数十本のペンを同時に送られたらそれはそれで困るだろうということでどっちかにしようという話になり、徐々にそれが論争に発展していった。


 最初は、


「やっぱり師匠が外に出るときいつも同じ服というのが僕は納得できないんです」

「でもハクア君って力が強いからよくペンを折っているの見るし、お仕事で必要になるのはペンじゃない?」


 ということから始まり。


「リンさんわかってないですね……。師匠の服なんて基本全部無地じゃないですか。やっぱりお美しいお顔をしていらっしゃるんですから着飾るべきではないかとは思わないんですか」

「思うよ‼ それはずっと思ってるよ‼ でもハクア君だったら恥ずかしくて着てくれないかもしれないじゃない。なのに大量にあったら困っちゃうよ。その点ペンなら置き場にはそこまで困らないし」


 互いに譲れないものがあるのか、謎な白亜愛を突如垣間見せる二人。


 ハクアファンクラブの幹部に入れるほどのハクア論争を続けて、ついに白亜までをもそこに呼び出した。


「どうしたの急に……」

「師匠!(ハクア君!) 服とペンどっちが欲しい(ですか)⁉」

「いや、別に俺は好きに作れるし……」


 二人同時に顔を見合わせて大きくため息をつく。


「わかってませんね師匠。いいですか? 師匠はそこまでの容姿がありながら面倒だと言って着飾らないのが師匠の唯一理解できないところなんですよ」

「ハクア君がいつもペンを買い換えているのを知っているからこう言っているのであってね、やっぱりいろんな場所でお仕事するハクア君にはいいものを持ってもらいたいし」


 二人とも徹夜なのにもの凄い元気である。


 一周回ってハイになっているらしい。


「ああ、うん……」

「なんですかその中途半端な返事は。僕たち結構真剣に話しているんですよ」

「そうよ。ハクア君ってばよく私たちの言うことサラッと聞きながして大事なこと忘れたりするし、この前なんか書類の締切日聞き間違えてポーションの納品日一週間早くしちゃったじゃない」


 そして徐々に愚痴と説教が始まった。冒頭の場面はここである。二人は喧嘩しつつ、白亜を説教していた。


 珍しく怒られている白亜を気の毒そうに見つめる人が何人かいたとか、いなかったとか。

 とりあえず今回はこれで更新止めます。


 また気が向いたら書くかも知れません。その時はツイッターでご報告します!


 読んでくださってありがとうございました。

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