「お師匠様、くりすますってなんですか」
完全完結したって言ってたくせに、この前番外編が欲しいとコメントいただいて舞い上がって書き上げてしまった龍木です。
いいじゃないですか。クリスマスですし!
というわけでとりあえず投稿してしまいます。
いつもより文字数多いくせに書きたいこと纏まらなくて明日も続きそうです。
明日は無理かもしれないと思ったらツイッターのほうでお知らせします。
パチン、と木が爆ぜた音がする。
それを皮切りに張り詰めていた空気に亀裂が入った。
白亜が面倒くさそうに欠伸をする。クッションを抱いて体育座りしている時点で半分寝ようとしているのは確かである。
「もう、なんでもいいじゃん……。俺眠いんだけど」
「駄目ですよ師匠! それじゃあ僕たち納得いきません‼」
「そうだよハクア君!」
リンだけでなく弟子のジュードにまでそう言われ、ため息をつきながら肩をすくめる。
「あっそ……」
本気でどうでもいいらしい。こうなった二人を止めるのは少し骨が折れるので正直あまり関わりたくない。
クッションに頬を埋めていると、玄武がやって来て白亜の服の袖を引っ張る。
「主。膝」
「ん」
クッションを退かし白亜の膝に座ってご満悦である。
「まだ言い争っているのか?」
「もう三時間だよ。何とかしてくれ」
「某に文句を言われてもな……」
外から帰ってきたダイが帽子の上の雪を払い落としながら苦笑する。
その手には数本の瓶が握られていた。
白亜はそれを見て少し目を細める。
「……まだ飲む気?」
「いいではないか。白亜も飲むか?」
「俺は酒が苦手なの」
神に成るために相当な量の酒を飲まされたのが効いているのか、いまだに酒が苦手である。
そもそもなぜこの二人が珍しく言い争っているのか、それは一日前に遡る。
「くりすます、ですか?」
「ああ。美織お嬢様がなんかくれと要求してきてな。ちょっと行ってくる」
日本への移動がまるでコンビニ感覚である。
本来誰も到達できないほどの最高位の魔法の筈なのだが、今となっては片手間で移動できるようになってしまっている。
白亜でも最初は魔力を溜めたりするのに一週間近く使っていたのに最近では日に何度も往復しても普通に生活している。
力の総量が上がっただけでなく、魔法の行使も格段に上手くなっている証拠だろう。
さらっと異世界転移した白亜を見送ったジュードにその弟子のラメルが話しかける。
「お師匠様、くりすますってなんですか?」
「あれ、話したこと無かったかな? くりすますというのは師匠の世界の行事で、ご馳走を食べたりパーティーをしたりするものですよ。赤い服を来た【さんたくろーす】というお爺さんがその年一年、いい子にしていた子供にプレゼントを配りに来るとか」
ラメルが目をパチパチと瞬かせた。
「何故? さんたくろーすにはなんの利益が?」
「利益なんて関係ないらしいですよ。さんたくろーすなるお方は子供に夢を与えているのだそうです」
そういえばラメルも子供だったな、と思い出してジュードがラメルに何か欲しいものは無いかと尋ねる。
「欲しいものですか……。新しい肘当てが欲しいです。前のやつは壊れちゃって」
「なるほど。ではさんたくろーす様に伝えておきます」
この場合、サンタクロースは白亜である。肘当て程度なら大量に持っているので。
と、そこでジュードが突然気がついた。
「あれ? ……師匠って、今何歳でしたっけ?」
転生分を抜いた場合だが、7歳である。実は立派に子供だった。
因みにジュードは30になってしまった。だがハーフエルフなので人間の尺度に当て嵌めても正直全く関係ない。
ならなにかあげるべきだろうと思い立ち、リンに連絡する。
「リンさん、少しいいですか?」
『あ、ジュード君? どうしたの? ハクア君がなにかやったりした?』
どうやら白亜が何かやらかすこと前提の会話であるらしい。というか、やらかしすぎていて最近は白亜の事以外で滅多に通信機が使用されなくなっている。
「いえ、師匠の事ではあるんですが。その、今日はくりすますだそうです」
『あー、ハクア君が言ってたあれね。それがどうしたの?』
「よくよく考えてみたら、師匠って今七歳じゃないですか。十分にプレゼントを貰える年の範囲内に入っているのではと思いまして」
一瞬、リンが黙った。どうやら白亜の年齢を計算しているらしい。
『そ、そっか⁉ そういえばそうだったね‼ 全部足したら大分年上だけど、体は七歳だったね』
もう実年齢がごっちゃになっていて意味がわからない。
だが、七歳であることは確かなのでなにかあげられたらいいねという話にはなった。
「じゃあ今からそちらに行きます。研究室にいますよね?」
『わかった。待ってるね』
ジュードは直ぐにリンのいる研究室に歩いていった。どうしていいのかわからなくなったラメルも一応後ろをついていく。
「お師匠様、さんたくろーすにプレゼントを貰える日なのに、何故リンさんと話す必要があるんですか?」
「あー。えっと。あれですよ。師匠は中身は大人ですからさんたくろーす様には貰えないんです。だから代わりを用意するんですよ」
なんといったらいいのか判らなくなったジュードだが、適当に誤魔化した。
どうやら白亜は例外らしい。外部の人間より身内から一番規格外扱いをされているようだ。
「リンさん、お待たせしました」
「ごめんね散らかってるけど」
リンは白亜に教わったポーションのレシピを再現する為に最近はずっと研究室に籠っている。
数回に一度は成功するので、これからはこの街のポーションの備蓄に当てる予定だ。効果が高すぎるので下手に市場には流せないからだ。
「どうする?」
「そうですねー……やっぱり武器ですか?」
「でもハクア君って自分で好きなだけ武器作れるから消費するタイプの投げナイフとかは必要ないし……メインの村雨もサブのアンノウンも強すぎて他の武器じゃ見劣りしちゃうし」
普通なら、メインの武器が相当なものであるなら無くしてしまいがちな投げナイフだったり使い捨ての魔法の道具だったりをあげるものなのだが。
白亜はその辺り全く困っていない。なんでもかんでも造り出せてしまう力があるのだから普通に必要ない。
フェイクに使うため、というのも要らないだろう。そもそも何本持っているのかすら謎なほど大量に所有している。
「ご馳走とかどうですかね」
「ハクア君が自分で作った方が美味しいの作れると思う」
「……ですね」
もうなに言っても結局没になる気がする。
「お金とか」
「……お金に困ってるところ、見たことある?」
「……ないです」
学生時代ならそこまで稼ぎを気にせず遊び感覚で冒険者をやっていたのでお小遣いなどたかが知れていた(それでも十分すぎるほどだが)が、今はあり得ないくらいの資産家である。
この街の経営もしているので領主でもあるのだ。普通にお金には困らない。
そもそも極端に不必要なものを買わない人なのでものを必要になることなど殆どない。
以前こっそり白亜のお小遣い帳を覗いてみたジュードだが、書いてある出費は9割食品で、1割紙などの経費だった。
私物などほぼゼロである。
「えっと、じゃあ師匠が持っていないものってなんでしょう?」
「ハクア君が持ってないもの? ……さぁ……?」
正直に言おう。そんなものない。
正確に言えば持っていないものも多いが、白亜はそういうものがあるということさえ知っていれば作れてしまうのでこの場合だと『白亜が持っていないもの』ではなく『白亜が知らないもの』をあげるのが正解である。
そして二人が知っていて白亜が知らないことなど皆無である。
「……他のひとに聞いてみる?」
「そうですね……」
いくら話し合っても解決しなさそうなので片っ端から連絡してみる。
ギルド職員の知り合いや友人、両親やハクア配下の仲間たち。それからハクアファンクラブの面々にも聞いて回ってみたものの成果がない。
「そもそも師匠があんな力持ってるからですよ。やっぱりあれ狡いです」
「それ私も思う。出せる量は魔力に依存するからっていったって私だって昔のハクア君くらいの量はあるんだしそれなりに出せると思うし」
打つ手を無くして白亜がディスられ始めた。
「あの、お師匠様?」
「どうしました?」
「別に今から使えるものじゃなくてもいいんじゃないですか? 背丈はもうこれ以上変わらないとしても、服とかは色々あった方がいいと思いますし」
「服ですか。なるほど」
ふむふむ、と考え込むジュード。どうやら頭の片隅にもなかったらしい。
白亜は基本同じ服しか着ない。
毎回安かったからという理由だけで3着ほど同じ服を買ってきてそれを着回すのだ。なので服の量はそれなりにあるのだが種類が結構少ない。
「いい案ですね。ではとりあえず100着ほど手配しますか?」
「多すぎますよ⁉」
こういうところは王族っぽい。子供の時からそうなのだが、大切な人への贈り物となるとどれだけ高価なものでも気にせず購入する人なのだ。
「ただいま……なにやってんの?」
「い、いえ。別に」
「……そう? これ向こうで買ってきたから三人で食べてくれ。んじゃ」
スッと現れてスッと消えていく白亜にドキドキが止まらない。
ジュードは今日の帰りは早いですね、と言おうと思ったが日が暮れはじめていたのでそうでもなかった。
話し込んでいたうちに相当時間が流れていたらしい。
白亜が持ってきた箱を開けると白い砂糖がまぶしてある甘い匂いのお菓子が出てきた。
「パン、ですかね?」
「ケーキじゃないの? あ、でもちょっと固い」
切り分けて食べてみる。中にはドライフルーツだったりが入っていた。パンともケーキともつかない、不思議な味だ。
シュトレンと言うらしい。
箱にはサンタクロースの絵が描かれていた。
「甘いですね。あ、でも紅茶と食べると結構いけます」
「お師匠様、これ持って帰っていいですか?」
「いいですよ」
お土産に、と半分くらいを包んでラメルの鞄にしまう。
その時、扉が数回ノックされた。開けると、ハクアファンクラブの幹部が数人、音もなくその場に立っていた。てっきり一人しかいないと思い込んでいたラメルが一歩後ずさる。
「お師匠様……ハクアと同じことができる人は他にもこんなにいるんですか」
「いや、彼女たちがちょっと特殊なだけです。……それで、どうされましたか?」
「ハクア様の―――ではなく、ハクア君のプレゼントの件です」
もう取り繕っても普通に様付けで呼んでいることくらい知っているのだが、なぜかまだバレていないと思っているらしい。
白亜は配下以外には様付けされることをあまり好まないので、それの影響だろう。
他人とは対等でいたいという理由である。
……彼女たちならば、喜んで従属を受け入れるであろうが。
「私たちもハクアさ―――ハクア君のプレゼントは考えているんです。ただ、この街に住んでいる幹部でしか話し合いができていないので、他国の者にも意見を聞かないと」
「そ、そこまで大袈裟にするつもりはないんですけどね……。でも手伝ってくれるのなら、大歓迎です」
こうしてまた遅くまで話し合い、クリスマスという行事が二日で終了してしまうことを忘れていたジュード達。
見事にクリスマスが過ぎてしまったのである。




