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無気力超能力者の転生即興曲  作者: 龍木 光
英雄の生まれかわり
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「俺は白亜。最下級の時空神で、お前にとっての死神」

 ガキン、と村雨がなにもない空間にぶち当たって火花が散る。


 それに軽く片目を光らせてなんなのか確認してから一旦地面を蹴ってその場を離れる。


「ふーん……空間系の魔法ではなさそうだし、障壁なら村雨で斬れない筈がない。……じゃあ神力か」


 本当に神の相手は面倒だと小さくため息をついてから刀を逆手に持ちかえる。


「障壁なら斬れない、だと? 随分と下に見られたものだな」

「そういうことじゃない。が、そう思ってもらっても良い。どうせ俺に負ける」

「自意識過剰だな。そういうやつは何度も向かってきたが全て捻り潰した」

「残念ながら俺の方がお前らより強い」


 ピタリと真横に刀を持って走り、壁を蹴って死角から刀を押し付けるように腕を前に出す。


 一瞬なにかに刃先が当たったと感じた瞬間に手首を捻って突きの体勢になる。


「っ、不味い!」


 男二人がその場を飛び退いた瞬間、ガラスが派手に割れるような音がしてリシャットが砕いたそれを一瞥すらせずに刀を両手で持って下から一思いに斬り上げる。


 だが、上手いこと避けられてその手は空を切った。ほんの少し掠った地面がパックリと割れるように滑らかに切断されている。


 そのまま2撃目に入ろうとしたリシャットだったが、その効果範囲から二人が出てしまったので眉を潜めつつ鞘に戻す。


 だが、これで二人を引き離すことに成功した。


「お前、本当に何者だ」

「……ただの成り立ての時空神だ」

「嘘をつけ……そこまでの力がありながら下級神などあり得ない」

「勝手にいってろ」


 フンと鼻をならしてウエストポーチに左手を突っ込む。


 これはリシャットが空き時間で作った簡易的なアイテムボックス。生き物を入れられるほど性能もよくはない。


 そう、生き物(・・・)は入らない。


 リシャットがグッと引っ張りあげるとその中から出てきたのは様々な武器を身に纏ったヒカリだった。


『出番ですか』

「ああ、出番だ。そっちのやつの牽制を頼む。倒さなくて良いから兎に角ぶちこめ」

『了解しました、白亜様』


 よくよく見なければ解らない程人間に近いような見た目のヒカリ。今回の作戦でヒカリ含めた数人(数機?)はずっとリシャットのポーチに入っていた。


 疲れることもなく、また驚異的な知能ともし壊れても部品さえあれば復活できるその性質から、リシャットが今出せる兵力で要になるであろうヒカリをどこにも配置しないというのは少し悩んだが、懸念していた事態が起こったので良しとする。


 元々神と呼ばれる者と戦うにはリシャットのような無謀で滅茶苦茶と言われるような人か、ヒカリのようにいくらでも立ち上がれるようなタフな者でなければならない。


 その点ではヒカリ達は適任であったと言える。


「さて、ずっと部下に任せるのも上司失格だからな。早々にけりをつけさせてもらおうか」

「ご自慢の剣は使わせないぜ?」

「ああ。これは使わない。殴りあいだ。好きだろう?」


 右目が真っ赤な光を放つ。


 地面を大きく抉りながら一瞬で加速し、猛烈な蹴りが放たれる。バゴンッとなにかが大きくへこむような音がしたがそれだけではリシャットは止まらない。


 振り抜いた足の勢いそのままに右手で壁を押して体を起こしつつ空中に飛び上がって左手を前につき出す。


 弾丸を遥かに越えるスピードで繰り出されたそれを蹴りを躱した不安定な体勢で避けられるはずもなく、バキバキという感触をリシャットの手に残しながら吹き飛んだ。


「うっ、ぐっ……!」

「弱いな。あんた神だからって鍛練怠っただろう? そういうのを慢心っていうんだよ」


 リシャットは強くなっても訓練をやらない日はなかった。


 日本でも毎日ジョギングと腕立て伏せ、簡単な型の確認は絶対に怠ることはなかった。


 たとえ庭仕事の途中でも、猫の餌やり中でも時間さえあれば何かしら体を鍛える努力をしていたのだ。


「さっさと寝ろ」


 首筋に手刀を当てて昏倒させた。


 かなりあっけなかったな、と思いながら適当に縛り上げてヒカリの応援に向かう。


 火薬の臭いが充満した通路に体の殆どを失ったヒカリが唯一残っている左足で銃弾の雨を降らせていた。


「ヒカリ、大丈夫か」

『申し訳ありません……こんな姿を』

「いや、お前達は十分やったよ。休んでくれ」

『申し訳ありません。ご武運を』


 ポーチに入っていくヒカリを見送りながら浄化の魔法で辺り一体を綺麗にする。


 空気も浄化できるのでますます便利になっているリシャットである。


 ヒカリなら最悪消滅させられてもデータさえあればなんとかなるので心配する必要はないだろう。


 今の一番の問題は目の前のこいつである。


「まさかお前……ギリーを殺したのか!」

「さぁね。あっけなかったけど」


 あいつギリーって名前だったんだ、と一人内心で思いつつ村雨に手を添える。これで、いつでも抜ける。


「お前の、名前はなんだ」

「俺は……白亜だ。お前らに殺された、哀れな復讐者とでも思ってくれれば良い」


 リシャットだ、と声をだそうとして一瞬迷い、白亜の方を名乗った。


 この場にいるのはリシャットとしての自分ではなく、何年も昔の揮卿台白亜としての自分なのだ。


 復讐するために命すら削った、あの愚かな英雄。


 だが、愚かでも、決して一人ではなかった。


 今ではヒカリはじめ、ジュードやリン、それに親同然に自分を信頼して育ててくれるヨシフ達。立場は各々違っても皆リシャットの事を信じて隣にいてくれる。


 だからこそ、今は白亜としての復讐を遂げて過去と今を絶ちきらなければならないのだ。


 いつまでもグダグダするのは性に合わない。


 両親が殺されて空いた穴を皆が埋めようとしてくれていたのはいくら天然記念物のリシャットでも理解していた。


 だが、どこかでこれを忘れてはならないと穴を自分で守っていたところもある。


 両親を忘れたくなかったから、自分だけが幸せになる訳にはいかないと、ずっとそう思い込んできた。


「俺は今まで皆に不誠実な事をしてきてしまったからな……。ここで全部終わらせる」


 ビュッと村雨を抜いて振るう。水滴が周囲に美しく舞っていった。


 白銀の髪がふわりと広がる。


「俺は白亜。最下級の時空神で、お前にとっての死神」


 覚悟しろ。静かな声音でそう言うリシャットは澄んだ目の奥に消えることのない、否、消えたことのない復讐の炎を宿している。


 この戦いが終わったら、消えるであろうその火は美しく残酷に男の顔を照らしていた。

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