「俺の仲間は、弱くないぞ?」
義手に何かを装着しながらニヤリとなにか企んだような笑みを見せるリシャット。
正直、ちょっと怖い。
顔がやけに整っているので余計にぎこちなさが加わっている上に頬には返り血がついている。
光る目の異様さも合わせて、作りものっぽさが倍増している。
「キキョウ」
『ここから右に曲がって突き当たりを左です』
「解った」
キキッと方向転換の際に床が声をあげる。
……少し焦げているようにも見える。
が、リシャットはそれに気づきもせずとりあえず音の聞こえる方へ走る。
この施設は簡単に占拠されないように階段が非常に多いのだが、リシャットの場合出口さえ見えてしまえば一気にジャンプしてしまうのでほぼほぼ意味がない。
それだけ動き回っているのに息一つすら乱さず、全く苦労していないリシャットはやはり化け物なのだろう。
「居た」
走りながらぶつぶつと何かしら呟いて壁に手をやる。すると少し離れた所から一輪蕾のままの花が咲き、それが開いた瞬間相当な熱量と火花を辺りに撒き散らしながら炎を吹き出した。
「「「あっつい!」」」
しかもリシャット、地味に容赦がないので味方にも少し飛び火している。
「リシャットさん! 熱いです!」
「我慢してくれ」
壁のように亜人戦闘機が立ちはだかっており、その向こう側には人影が見える。
「向こうにいるのが?」
「例の人だそうです」
「そうか。じゃあ少し下がってろ」
両手に試験管を持ったリシャットの言葉に全員が一斉に回れ右をして物陰まで逃げる。
リシャットの巻き添えは嫌だ。
「キシャアアア!」
「キィイイイ」
「ギシャアア」
声をあげながら向かってくる亜人戦闘機を一瞥してから持っていた試験管を投げつけた。
亜人戦闘機は戦っている場所が狭い通路なので逃げ場がなく、満遍なく被ってしまう。
「消えろ」
先程義手に装着していた機械からなにかが飛び出した。一本の小枝、それもマッチほどの小さなものである。
それが当たった瞬間に一瞬で巨大化、生き物のように分裂してバキバキと容赦なく亜人戦闘機を包み込むように握りつぶしていく。
それでも逃げ出せた運が良い亜人戦闘機もいたのだが、リシャットの後で待機している7班が恐ろしい早さで切り裂いていく。
「主! 柔らかい!」
玄武が感激の声をあげた。
先程リシャットが投げた試験管は金属の固さを一時的に損なわせる液体が入っているのだ。
なので最悪普通の成人男性が殴っても効果が出るほど今の亜人戦闘機は弱体化させられている。
何せ包丁で斬りかかって貫通させられるほどの軟らかさだ。
流石はリシャット製の薬である。
「な、なんだお前は!」
「何でも良いだろう」
相手の周りに紫色のオーラのようなものが纏わりつく。その近くに撒いておいた種がしわくちゃになってボロボロと崩れていくのを見て、
「腐敗か……」
相手の性質をそれで見極めたリシャット。その周りの空気は既に紫色に染まり始めていた。
リシャットの服の袖が朽ちるように崩れていく。
「ハハッ、そのまま死ね‼」
ひきつった笑みを浮かべる目の前の男を睨み、ほんの少し目を細める。
すると一瞬にして紫色になりつつあった空気が黄金色の光に覆い隠されて消えていく。
「なっ……まさか、俺達と同じ……!」
「だからそれがどうした。神力の扱いは苦手だが……まぁ、これくらい押し返せる」
ここで全員を配置につかせている間になんとか鍛えた。まだまだ荒っぽい使い方ではあるがその量は普通の神を凌駕している。
「くっ……!」
神力を使って様々なことができる神は、神力そのものを使って事象を起こすことも可能である。
今男がやって見せたように、神力が触れた物を腐敗させたり、司るものによって変わってくるが、水を出したり風を起こしたりできる。
魔法よりも手順はずっと簡単だが、力としての扱いが非常に難しい。
魔法の場合、魔力を放出するのはほぼ無意識に出来るため、詠唱をしたりその間の魔力の練り方を覚えるのが必要だ。
神力の場合、その力そのもので扱うので覚えることは何もない。だが、放出するまでが大変なので使いにくさはリシャット的には神力の方が使いづらい。
拮抗する金と紫の神力。リシャットが一気に押し込もうとしたその時、その優秀な耳が何か音を捉えたらしく、直ぐに神力を消して後方に跳ぶ。
「ちっ、外したか……」
リシャットが先程まで立っていたところに銃弾のようなものが打ち込まれている。
「ここのやつらが別の世界の同類をつれてくるとはなぁ」
奥から現れたのはまた別の男。一目見てリシャットはこいつは格が違うと眉を潜める。
壁に手をあてて振動を聞いてみると、どの班も交戦中だった。
次から次へと亜人戦闘機が沸いてくるのでキリがないのだ。ゴキブリ並みのしつこさである。
「この世界からおとなしく引くって手は?」
「あっちの世界を手に入れたらそうするさ」
「それ、本気で言ってるなら爆笑ものだぞ。あっちの世界には神が大勢いる。それこそお前なんかよりずっと格の高い神だ」
スラッと刀を抜いて正面に構えるリシャット。刀身に浮かぶ水がポタリと地面に落ちた。
「これでも戦うって言うのか?」
パチン、と男が指をならした。リシャットの耳に絶叫が聞こえる。
「っ……!」
「やっぱり聞こえるみたいだな。俺たちは人質をこれだけの数持っている。死なせたくないなら武器を捨てろ」
「………」
リシャットは瞬きをするだけで刀に手をかけたままだ。
「殺すぞ?」
「……やれるもんならやってみればいいんじゃない?」
挑発的な笑みを浮かべるリシャットに苛ついたのか、額に青筋を浮かべながらもう一度指をならす男。
「なに……?」
だが、自分の指がまるで他人のものであるかのように何度も何度も自分の指を見つめながら指をならし続ける。
「どうして、発動しない……? お前、なにをやった」
「さぁ?」
リシャットの脳内に、直接シアンが語りかける。
『全ての民の奴隷紋、解除しました。人質など、もう関係ありません』
配下を大量に配置し、一斉に動かし始めたのには意味がある。
逆らったら殺されると奴隷のような扱いを受けていたこの世界の人々全員を一斉に助けようと考えた場合、その魔法を根本から打ち消す必要がある。
だが、根本から消すようなものになると直接触れなければ難しい。なので配下達全員にこの施設を回るように指示し、予め魔法が効きやすいように処置を施してもらったのだ。
その処置が、リシャットの神力の入った箱を人がいるところに置いてくる、というものだったのだがこれがなかなか大変だった。
あらゆるところに監視カメラはあるし、かなりの頻度で亜人戦闘機と遭遇するしで結構危ない橋を渡っている。
それでも誰も文句を言わずリシャットの言った通りに動くというのは、やはりリシャットが信頼されているからなのだろう。
もし危なくなってもリシャットが来てくれるから、という安心感もあったのかもしれない。
そしてなにより、
「俺の仲間は、弱くないぞ?」
仲間達の心配などする必要すらないのだ。
不適な笑みを浮かべ、村雨を大きく振りかぶった。




