(そういうことなの?)
小さく目を開けて周囲に気を配るリシャット。かなり薄目なので寝ているように見える。
たったまま寝ている金髪の男。異様でしかない。
【見付かりました】
(どこで?)
【目星をつけていたところ、三番です】
(今は?)
【対処済みです】
(ならいい)
ライレンの言葉に一瞬眉を潜めたが、直ぐにまた精神統一をするかのように無表情になっていく。
「君、大丈夫かい?」
「大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」
調子が悪いとみられたのかお爺さんにそう声をかけられたので笑みをつくってそう返す。
「辛かったら無理しないで病院に行くんだよ」
「はい。ありがとうございます」
優雅に礼をして見せるとお爺さんは安心したように頷きながら去っていった。
(そんなに体調悪そうに見える?)
『いや、目を開ければいいのではないでしょうか』
(そういうことなの?)
かちゃり、と耳が何かの音を捉える。
(あ、平崎さん、部屋から出たみたいだ)
こっそり遠視を発動し、状況を確認する。
問題なしとみるとまたその場で立ち続けることにした。邪魔な位置ではないが、周りの人はとりあえず気になる。
そろそろ場所を変えるか、と思った瞬間周囲の機械の音が消えた。それと同時に電気は消え、エアコンは稼働を停止する。
「停電………いや、ブレーカーか」
リシャットはそれに気づいた瞬間に動き出していた。依頼主の元へと静かに。
突然収録中のスタジオ内が真っ暗になる。
こんな演出はなかったはず、と全員が顔を見合わせる。
「確認してきます!」
一人スタジオを出ていった。皆アクシデントに慣れているのか動かずにその場で待機している。
なにかが落ちる音が響いた。
ドサッとかいう、そんな感じの音。
しかも一回ではなく、五回ほど。
「な、なに……?」
自然と誰かがそんな声を出す。あの様子を見に行った人も帰ってこない。
その瞬間、ほんの少しのノイズと共に局内に設置してあるスピーカーから声が聞こえた。
『あー。わかっている筈だ。人質を殺されたくなければやつをここにつれてこい。以上だ』
ブツッと消えた。
「「「……………?」」」
何の話?
全員がそう思った。何度かの点滅の後で電気が復旧した。そして、目の前の光景に唖然とする。
「え?」
「誰………?」
「なにこれ………演出じゃないわよね?」
扉付近には5人の屈強な男を踏みつけてなにかをくわえている長髪の男がいた。
「リシャット・アルノルド⁉ 何でここに⁉」
「さっき扉が開いたとき、騒ぎに便乗してここに入ってきたんです。あ、皆さん声はあげない方がいいです。外は制圧されてますから」
「ど、どういうこと……?」
口を開こうとした瞬間に目を見開いて思いっきり足を振り抜く。破裂音がして壁に銃痕ができた。リシャットの足は踏みつけている男のピストルの銃口を明後日の方向へ向けるように動かされている。
男がピストルを抜いたのを確認したリシャットは撃たれる直前、強引にその男の手を蹴って銃を壁に向けさせたのだ。
「ヒッ!」
「全く……まだ隠し持ってたか………」
ピストルを踏み潰してため息をつくリシャットはとてつもなく恐ろしい。
「収録の邪魔をしないでいただけますか」
「収録? そんな悠長な事言ってられないかと思いますよ?」
窓を軽く開けて外をみるように促す。
恐る恐る見てみると倒れている人と同じ服を着た集団が手に凶器を持ち、こちらへ向けていた。
「「「ギャアアアアア⁉」」」
大音量。ライレンが既に防音結界を張っていたので漏れてはいない。ナイス判断である。
「ちょ、あれ、どういうことですか⁉」
「私に聞かれましても。テロ集団ということしか。停電の時点で怪しい人を捕まえただけですし」
相変わらずサラッととんでもないことをしている。
「彼らの目的は」
「なんでしょうね? そこで寝てる人を一人叩き起こしましょうか?」
死屍累々。その言葉が一番ふさわしいだろう。
同情したくなるレベルでひどい有り様である。
「い、いや、それはいい………」
「そうですか。それで、どうするんです? 私は平崎さんを守れとしか言われていないので正直どうしたらいいのか」
「君はいったい?」
「平崎さんのボディーガードです。一応亜人戦闘機対策部隊に所属しています」
「「「え?」」」
亜人戦闘機対策部隊というのは名前は聞くが実態がほぼ明らかになっていないことで有名である。
気力という謎の力を扱い、魔獣の掃討に命を懸けて努める、ということくらいしか一般人には伝わっていない。
「そうだったの⁉」
「特例で他の仕事を兼任させていただいているところです。危険度の高い魔獣が出たときは優先的に呼び出されます。まぁ、魔獣専門の戦闘屋と考えていただければいいかと」
物騒な職業である。
「その、亜人戦闘機対策部隊の人が何故ここに?」
「何故でしょうね? 普段はとある場所で執事として働いているのですが突然依頼が来たので受けたまでです」
まるでテロが起きることを予測して依頼がきたようなタイミングではあるが。
「少なくとも私は彼女を守るためにここにいます。私の行動は彼女の声で決まりますので、悪しからず」
礼をして積み重なっている男たちをガムテープで縛り上げ始めた。
そのガムテープどっから持ってきたの? と聞きたい。
「と、とりあえず皆さん落ち着きましょう。いいですか、今から非常階段で」
「非常階段はやめておいた方がいいです。監視カメラが多くて全方位録られてしまいますし撃たれたら逃げ場がありません」
「え」
じゃあどうすればいいんだよ、とリシャットを全員がみるがリシャットは縛る方に意識がいっているのか全くそれに気づかない。
「リシャット・アルノルド」
「はい」
「ここから、どうやって逃げるのか教えなさい」
「………承知致しました」
縛り終えたリシャットは平崎の方を見てから頭上を指差す。
「天窓からなら、死角になっているので見えないかと」
そしてとんでもないことを言い出した。




