「あんたやる気あんの⁉」
やっと更新速度戻せそうです。
それと1つ宣伝を。
先程新しい連載小説『吟遊詩人だけど情報屋始めました』を投稿しました。
ストックは結構あるので一日に二回更新くらいの速度でやっていこうかと思っています。
お時間があれば是非是非!
欄丸が扉を開けると片腕を外したリシャットがなにかを弄っていた。
「リシャット」
「………どうした」
「またどこかへ行くのか」
「一週間だけの護衛依頼だ。ちょっと怪しいけどな」
「怪しいとわかっているのに行くのか」
「ああ。そうだ」
欄丸の手に近くの観葉植物から伸びた蔦が一瞬で巻き付く。拘束するようにそれはギチギチと締め付けながら欄丸の腕を固定する。
「なにを……!」
「お前、今殴る気だったろ」
手元から目を離すことなく淡々とそう告げるリシャットに欄丸が忌々しげな目を向けた。
「何故周りの迷惑を考えない!」
「迷惑をかけることは理解している。だからこの件の期間は元の半分にまで縮めたんだぞ」
「迷惑を被るのはこの家ではない! 美織だ!」
欄丸は蔦を引きちぎってリシャットの胸ぐらをつかむ。
手加減しているとはいえ、拘束したのはリシャットだ。欄丸の腕は蔦の形に赤黒く染まっている。
「離せ」
「離すか! 美織がいつもどんな表情をしてお前を待っているのか知らぬだろう⁉」
「ああ、知らない。この家で何が起こっているかなんてずっと把握できる訳じゃない。だからお前に頼んでるんだろうが」
「警備の話ではない!」
思いっきり欄丸がリシャットの頬を殴り付けた。今リシャットは大人なので対格差はかなり縮まっているが、元の身体能力が絶対に埋まらないほどに開ききっている。
殴られたリシャットはその場を動くことなく、まるで微風が吹いただけのような表情だった。
殴った欄丸の方がダメージを受けている。
「仕事は大切だ。それはわかる。大地もそう言う。だけど一番大切な仕事を放っておいてまでやることではない筈だ!」
「それはまだわからないだろう。そもそも―――」
「言い訳など聞きたくはない‼」
ここまで欄丸が激昂したことはないだろう。リシャットも少し驚いている。表情は一ミリも変わらないが。
「受けてしまったものを今更変えることもできないし、俺も気になることがあるからこれを受けたんだ。……わかるな?」
「わかっては、いる。が………」
【あまりリシャットさんに追求しない方がいいですよ】
「なぜだ」
【あなたが踏み行っていい話ではないのです】
ライレンが欄丸の耳元でそう囁く。
「どういうことだ」
【知らない方がいい、と言っているんです。これ以上は危険すぎるの―――】
『ライレン。そこまでです』
【………わかりましたよ】
シアンに一喝されてとりあえず黙るライレン。
欄丸は何がなんだかわかっていない様子である。
「……お前は知らなくていい」
「納得できん」
「それでいい。そのうち嫌でも理解する」
有無を言わさないリシャットの言葉に口をつぐむしかない。
その直後、スッと圧を弱め、
「……勿論、こちらを何がなんでも優先する。もし俺でも危なそうだと判断したらすぐに契約を破棄する。そういう取引もしてあるしな」
最後に付け加えた言葉に欄丸が目を丸くする。その表情を見てリシャットは苦笑する。
「なんだ、俺は保険をかけない……やつとでも思ってたのか?」
保険をかけない人間だと思ってたのか、と聞くつもりだったのだが自分が既に人間ではないことを思いだし、一瞬言葉につまった。
「そういうわけではないが………自分の身は何処までも自分で守ろうとするたちだと思っていた」
『あながち間違っていないですね』
【リシャットさんは欄丸達が心配なんですよ】
従者コンビが呆れたような声色で続ける。
『もし自分に何かあったときここが守れないのは怖いですからね』
【この前数日間寝込んだのが効いたみたいですよ】
「………お前らどうでもいいこと喋りすぎだぞ」
【どうでもいいなら喋ってもいいですよね?】
『ね?』
「………」
もうなにも言えないリシャットは少し不機嫌そうに眉を潜めて小さくため息をついた。
「……とりあえず、今一番信頼できるのはここにいるやつらだけだ。その殆どがこの家を一時的に離れることになるんだからな。その留守はお前にしか頼めない」
【それって私も入ってますか? 入ってますよね? ね? ね?】
「………煩いぞ」
視界に入ってくる悪魔を手で軽く払いながら頬杖をついて近くに置いてあるクリアファイルを欄丸に手渡す。
「お前でも使えるくらいの魔方陣が全て入っている。破棄する場合は中心の円を三回指先でなぞれ。ただの紙に戻るようになっている。………頼んだ」
「………遅くなったりしたら許さないからな」
「ああ」
手渡されたそれを服の内側のポケットに静かにしまったのだった。
「いい? あんたは空気。判ってるわね?」
「わかりました……?」
生返事を返すリシャットにイラつきを覚えたのか、まだ半分以上残っているペットボトルのお茶をゴミ箱に投げ入れて、
「ジュース、買ってきて」
「………?」
「買ってこいって言ってんの!」
「何を……?」
「なんでもいい!」
リシャットは首をかしげながら近くの自動販売機でオレンジジュースを買って部屋に戻る。すると、
「私オレンジ好きじゃないんだけど⁉ マジで有り得ない‼」
「そうですか」
「あんたやる気あんの⁉」
「……何をです?」
「ちゃんと仕事できてるんじゃないの⁉」
「……仕事ですよ」
なんだこいつ。
そんな感情は数時間前に消えた。
依頼主の平崎の子供は有名な子役で、平崎の親戚の叔父に当たる人が矢野だったのだ。リシャットの護衛依頼はこの子供に対しての物だったのだ。
しかしどこかで手違いがあったのか依頼主はリシャットを新しいマネージャーだと勘違いしているようだ。しかもリシャットはそう勘違いされているのに気付いていない。
お陰で良くわからない状況に陥っている。
『嘘の気配はほぼ他人だったからなんですね』
(だな)
手紙から感じた嘘の気配はあまりに遠い親戚だったというのと、特に紹介されたわけではなかったというところからだった。
因みにひかりにも宗久にもリシャットになってから何度か会いに行っている。直接依頼が来たのはそのせいだろう。




