「これ仕込み銃とか入れたんです」
家に帰ってインターホンを押すと、美織にタックルされた。
「バカッ!」
「お嬢様………ご心配お掛けしました」
泣きながら無事を確かめる美織はリシャットの腕を見て、
「それ、もう戻らないの?」
「不可能ではないですが、もう少し根本を切断し直す必要がありますかね」
ある程度まで再生してしまっている腕をそのまま生やすのは相当難しい。変な方向に生えてしまう可能性があるので切断面を綺麗にしなければならない。
「そこまでしろなんていってないもん」
「はい。ですから代わりになるものを作ります」
そして現在。
「う、うるさい……」
「我慢よ、我慢」
倉庫でなにかが爆発しているような音が連続して鳴る。リシャットがこれをやりはじめて一時間。音が怖くて誰一人と何をしているのか見に行けない。
倉庫に住み着いている猫たちも早々に退散した。
すると、それがやんだ。
数分してリシャットが倉庫から出てくると、右腕がある。
「リシャット⁉ 切ったの⁉」
「切ってませんよ。義手です。ほら」
手袋を捲ると金属質の黒い腕が見えた。もう少し人間の腕に近づければ良かったんじゃ、と思った美織だが、
「これ仕込み銃とか入れたんです」
「なに入れてるの⁉」
やはりリシャットはリシャットだった。戦いのことしか頭にない。
「リシャット。大丈夫か………? すごい音してたけど」
「完成したから問題ないよ」
ヨシフ達が日本に来たときは客人として扱っていたので敬語にしていたのだが、二人が戻せと毎晩リシャットの部屋に押し掛けるようになったので敬語をやめた。
「どうやったんだよ、これ」
「秘密」
これは確実に普通の方法じゃない。そもそもこれ作るために何故爆発音がするのだろうか。
リシャットの腕問題はひとまず終了になり、手早く作ったもので昼食を済ませた。
「リシャット。これから何かするんでしょ?」
「? なぜわかるんです?」
【何年も一緒にいたらわかるでしょう】
ライレンが突然現れた。リシャットはライレンを押し退けながら、
「これから集中します。ご存知の通り、一度集中すると何も聞こえなくなるので先に夕食と明日の朝食を作っておきます」
「わかった。なにやるか知らないけど、頑張ってね」
「はい」
夕食にカレー、朝食に簡単な惣菜パンを用意してラップをかけ、自分の部屋に行った。
【お久しぶりですね】
「久しぶりってほどじゃないだろ」
【まぁまぁ、そういわず。時空神様♪】
「わかるのか」
【勿論です】
ライレンはにいっと口角をあげて笑いながらリシャットの周りを浮遊する。
「俺が半神に戻ったのはお前が原因か?」
【ちょっとだけあるかもしれないですよ? でも殆どはリシャットさん本人の態度です】
「そうだよな」
無意識のレベルで拒絶していたのだから力が定着しなくて当然だろう。リシャットのように元々の力が強い場合は特にそうだ。
部屋に入ってペンと紙を虚空から引き出してとり出し、真新しい手のひらサイズの手帳を胸ポケットにしまう。
「さて。準備はいいか、シアン」
『勿論です。魔方陣の反応も微弱ながらありましたのでそこから更に確率計算をし、時間軸も見つけます』
「じゃあ俺はそこまでの道と時間軸の固定、他世界への侵入経路を出せばいいか」
侵入経路というと一気に悪いことをしているような雰囲気が漂う。だが、実際に他世界に許可なく渡るのは本来神の間でも禁じられている。
侵入経路という言葉も間違ってはいないだろう。
「やるぞ。必ずあいつを助ける」
『お任せを』
恐ろしい勢いでペンのインクが減っていき、同時に真っ黒になる紙が足元に積み上がっていく。
ある程度までかいたら胸ポケットにある手帳に最後の文字を書き、また新しい紙を黒く染めていく。それを両手で行っているのだ。
とはいえ左手はリシャット、右手はシアンが使っているので書くスピードだったりはシアンのほうが圧倒的に速い。流石はサポート特化の能力だ。
ガリガリとペンの書く音だけが辺りを支配していく。
リシャットの部屋があっという間に紙まみれになり、早送りのように日が沈んでいくように感じた。
「っ、また潰れた」
ペン先がぐしゃりと折れ曲がっているペンを後方に投げ捨ててまた新しいペンで紙を埋めていく。
そこに転がっているペンはもう6本を越えていた。
インクの瓶も中身が空になっているものが三つ四つ転がっている。
いつのまにか外は真っ暗だった。部屋の電気は途中でライレンがつけていた。
不眠不休で書き続けること、11時間。
「とりあえず終わった………」
これをリシャットが一人でやったならほぼ休みなしで5日は少なくともかかっていただろう。それをこの短時間で終わらせたことに自身の成長を感じた。
『お疲れ様です』
「まぁ、体力がかなり増えたからそこまで疲れてはないけどな。ちょっと眠いけど」
【これをよくこの短時間で………】
足首辺りまで紙が床に散らばっている紙のプールだ。
リシャットはもう一度手帳を見返してから全ての糸を切った。先の潰れたペンも空き瓶も紙もその一瞬で全てが消える。
【掃除要らずで楽ですね】
「それは確かに思う」
この量の紙を片付けることになるのは正直面倒なので引っ張るだけで消えてくれるのは本当に便利だ。
『とりあえず探すのは明日にして今日は休みましょう。まだあまり無理はできません』
リシャットは数日に渡って行う儀式をたった一日に縮めたせいで、いまだに疲れや眠気がある。
本当の意味で神格化したら、それこそ不眠不休で一生生きていけるようになる。
眠いと言っている時点でまだ低級の神であり力自体も完全には定着していないのだ。
低級の場合だと実体すら持たない神も多く、神器や依代のみが実際に存在しているだけという神もいる。
その場合、物が動くような現象が起こるのだ。物そのものが神なのだから。一番分かりやすい例は付喪神だ。
長い間人に大切にされた物は自我を持ち動き回ることができるようになる。これが付喪神だ。妖怪と見られることも多いがれっきとした神様である。
リシャットの現在の階級はこの付喪神より下。下の下の下、といったところだろう。
本人が階級を上げる気がないだけでやろうと思えばおそらく恐ろしいスピードで上がる。
それこそ大国主大神と同等の階級まで上がることも不可能ではない。というか時間の問題だろう。
この世界では階級の上がり下がりは認知度で決まる。崇められている神ほど階級が上がり、辺境の土地神などの認知されている人数が少ない神は階級が下がる。
神としてほとんど認知されていないリシャットは最も最下層に居ることになるのだ。
リシャットが本気で神格を上げるならテレビに出てしまえば一発である。ここまで顔の整った人は早々いないのできっと全世界的に話題になる。
リシャットにその気は一切ないが。
「ああ、風呂入って寝るよ………」
風呂に入り、さっぱりしてすぐに寝た。その手には手帳がしっかりと握られていた。




