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無気力超能力者の転生即興曲  作者: 龍木 光
英雄の生まれかわり
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「プロポーズですか」

 ぐっすり寝ている清水を背負って歩くのは、いまや大国主大神よりも背が高くなったリシャットである。


 いつもの制服ではなく大国主大神から借りた袴を来ているので髪と目の色からどうみても旅行に来て勢いで着物を着てみた外国人客にしか見えない。


「行くのかい?」

「はい。お世話になりました」

「本当だったらもう少し休んだ方がいいんだよ?」

「それはわかってます。ですが、心配事は尽きませんし約束もあるので」


 背中で小さく寝息をたてている清水に少し苦笑しながらそう言う。子供を心配する祖父母のような目だった。


「月並みな言葉しか言えないけど、頑張って。無理しちゃ駄目だよ」

「はい。色々ありがとうございました」


 背中に人を背負っているのにも関わらずスッと美しく礼をしてから静かにその場を立ち去った。









「んにゅぅ………ハッ!」

「起きたか」


 電車のなかで目を覚ました清水はリシャットの様子を見て唖然とする。


「戻ってない⁉」

「いや、戻るのが面倒なだけ。その内戻るさ」


 それに格好も異様なのでとてつもなく奇妙である。それでも容姿は非の打ち所がないくらいに綺麗なので全体的に纏まっている。


「私、いつまで寝てました」

「そうだな、大体11時間くらいか。徹夜してたんだろ?」

「してましたけど、私って、その、イビキとかかいてないですよ、ね?」

「大丈夫だったよ」


 最悪かいていたら防音結界くらいはってやる、と付け足すリシャット。そういうことではない。


 リシャットは足を組んで窓の外を見つめる。


 それを見た清水が、


「………なんか狡いです」

「なにがだ」

「リシャットさんだとどんな格好でも様になるから…………」

「? なんの話だ」


 本人気づいていないのが余計にこっちが悲しくなる。


「っと、着替えるか」


 周囲に誰もいないことを確認して一瞬で着替える。その間など文字通り目には止まらない早さなのでなにもしていないのに突然服が変わったように見える。


「清水」

「なんですか」

「………その、ありがとな。清水が横にいなかったら………俺、死んでたかもしれない」

「プロポーズですか」

「なんでそうなる」


 聞きようによっては、というか事情を知らなければ完全にそんな感じである。


 歯の浮くような台詞を素面で言ってしまうのがやはり白亜なのだろう。そこは一生変わらない。


「それで、これからとりあえず先に学校に行こうと思ってる。連絡は大事だし、俺荷物教室に幾つか忘れてきたんだよ………」

「え、教室に入っちゃうんですか」


 空気が凍るどころではないことになる気がする。


「じゃあ清水がとってきて、っていうのも無理なんだよ」

「無理なんですか?」

「転移魔方陣とか入ってる」

「どれだけヤバイもの持っていったんですか⁉」


 あれを素人が使ったら大事故では済まない、そう思った清水だったが、


「ああ、俺以外には使えないようにしてある」

「なんだ……でもそれならもっと後でも」

「そのなかに、無くしもの探しの魔方陣があるんだ」

「無くしもの探し?」

「ああ。気休め程度の物だが、やっておいて損はないと思う。俺としては早く伊東を迎えに行かないといけないって感じてるし」


 ほんの少しの手掛かりさえも見つけ出す。そんな決意のこもった声だった。


 元々伊東をこっちに連れて帰ることのできる可能性は限りなく低い。だが、


「時空神があたったのは運が良かったかもしれない。あいつの居場所はわからなくても時間軸ならなんとなくわかる」


 あとは虱潰しに回るしかない。それは覚悟している。


「そんなに大変なんですか、それって」

「大変どころじゃないぞ。例を出せば、この世のどこかにある指輪を探せって言ってるようなものだ。それは誰かがつけているのかも知れないし、タンスの奥にしまい込まれているかもしれない。海のなかにあるのかもしれないしそもそも地球じゃないかもしれない。それぐらいのことだ」


 考えたくはないが、と呟き、


「壊れていてもうこの世には存在していないかもしれない。ってこともあり得る」


 指輪が伊東だとしたら、伊東がもう既に見つけたときにはこの世にいない可能性もあるのだ。


 とてつもなく大変な作業。それをなんとしてでも見つける必要がある。否、見つけなければならない。


「その為に人間やめたんだ。あいつにも生きててもらわなきゃ困る」


 リシャットは真っ直ぐ前を見据えている。その先に可能性として起こり得る最悪の未来など、目に映ってはいない。ただ、ただひたすらに伊東を助け出すという思い、それだけで今この時を生きている。


「俺にしか出来ないことだからな」


 この世界で異世界に行けるのはリシャットと高位神くらいだ。成ったばかりなので一応低級の神に分類されるリシャットだが、その保有する力は最高神すら軽く凌駕する。


 そもそも人間の時に神と張り合える力を持っていた時点で色々おかしいのだ。


「リシャットさん」

「なんだ」

「時間を戻したりできるんですよね」

「まぁ、一応」

「じゃああれに巻き込まれた瞬間に巻き戻すのって?」

「結論から言うと無理だ。俺という存在が二つあるというのは不味い。それだけじゃなくて未来、つまり今の俺が関わることでおれ自身が消える可能性もあるし、それは無理だ」


 寧ろ消えに行く前提でいけば助けられるけどな、とはいったものの、流石に死にかけてまで生き延びたリシャットはそんなことをするつもりはない。


「神とかなんとか言ってるが俺はもとから人間だ。感覚的にはずっとそっちの方が慣れている。昔よりもできることの幅は大きく広がったが、昔の俺ができなかったことがちょっとできる程度だと考えてくれ。俺は万能じゃないからな」


 大抵のことはさらりと終えてしまう人がよく言えたものである。


 そうこうしていると見慣れた町が見えてきた。


「さてと、じゃあもうそろそろ降りるか。清水」

「はい」

「覚悟、しといてくれ」

「え?」


 この言葉の意味は、降りてすぐにわかるようになる。否、わからざるを得なくなるような状況になったのだ。

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