一周年記念番外 その3
『それでは三回目です‼』
「なんかボロボロだけどどうした?」
【いえ、なんでもないです………女性って望むものを前にすると恐いですね】
「なにを当たり前のことを」
「えっと、今回が最後だな。今回の話はアシルさんと会ったときの話か」
『お忘れの方もいらっしゃるでしょうから解説致しますと、アシル様はギルド職員でお仕事の斡旋なんかを専門にやっておられる方です』
「確か……俺に指名依頼が来たときに会ったんだったかな」
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いつものように掲示板の前にたつと何故か人が周りから去っていく。
(この前に絡まれたやつを軽く捻ったのが不味かったかな)
『あれは全然軽くないです。すぐ治したとはいえ右手の骨は確実に折れてましたよ』
低い背と年齢を馬鹿にしてくるやつらが後をたたないのだ。これでもかなりの年数生きている白亜だがこれほどまでにイラついたのはあまりない。
何日も連続で絡まれ、依頼で得た金を盗られかけ、頭の天辺から水をかけられた。それでも気にしないようにしていたのだがこの前、リンと一緒に来たときにリンにちょっかいを出したのがそいつらの運の尽きだった。
完全にぷっつんした白亜が右手一本で5人の男の手の骨を容赦なく折った。勿論、試合という形式で。
バレると問題になりそうだったので直ぐに治したが恐怖を植え付けるには十分すぎるほどの事をしてしまった。今では少し反省している。
改めて目を前に移すと依頼を書いた紙が貼られているがそのどれもが初心者レベルのものばかりであと残っているのは採集と町の掃除、少しここから離れたところにある洞窟の探索だ。
最後のやつはランク不問だが、そのぶん時間がかかりそうなので却下である。そもそも暇潰しをかねた小遣い稼ぎなのでそんなに本腰をいれてやろうとも思っていない。
白亜は一瞬迷ってから採集と周辺の魔物の間引きの依頼を受けることにした。
どうせ採集するときにこの辺りを周るので間引きを途中でしても問題ない。
依頼に手を伸ばしかけた瞬間、視線を感じて振り向く。
「君、象徴の灯?」
「はい、一応そう呼ばれていますが………?」
「ああ、これは失礼。自分はここの職員のアシルです。指名依頼を頼みに来たのですが」
「そうですか。ですが今はパーティメンバーが………」
「あ、光の翼への依頼ではないんです」
では、個人指名? 首をかしげる白亜。自分一人に来るというのは初めてだ。
「お話をしたいので、こっちへ」
応接室に連れていかれ、ソファに座らされる。
「紅茶です」
「ありがとうございます。それで、依頼って?」
「これです」
差し出された契約書をみると、どうやら貴族の護衛のようだ。貴族と言っても下級貴族の方で、一代限りのものらしい。
「街道ですか? でもそれなら経験の浅い冒険者でも可能では? 何故指名依頼なんです?」
「まさにそれです」
「それ………? ああ、経験を積ませたいってことですか」
「はい。ランクは6のパーティで腕はそこまで悪くはないんですがどうしても調子に乗る癖があって」
「そうですか。なんというパーティかお聞きしても?」
「夜空の虹です」
思っていたより可愛らしい名前だった。
護衛自体も今日と明日で終わるらしいので暇潰しには丁度いい。白亜は快くその依頼に応じた。
集合時間は依頼を受けて二時間後だったので直ぐにジュード達に連絡をいれてから門を出る。集合時間10分前だった。
貴族の専属御者の人はもう来ていたので先に挨拶を済ませ、馬を撫でたりしながら護衛対象が来るまで待つ。
「なんだ、冒険者とは時間を守らないという認識があったのだが」
「フローザ男爵ですか?」
「そうだ。元は平民だから気安く接してもらっても構わない。君は?」
「護衛依頼を受けて参りました、白亜といいます。どう呼んでくださっても構いません。私もあまり作法には詳しくないので無礼はお許しいただければと」
「それぐらいなら心配ないよ。君だったら王族対応もできそうだ」
その王族と暮らしているのだがそれは言うつもりはない。
適当に世間話をしているとどこからか鐘の音が聞こえる。集合時間だ。
この世界で時計は実は結構な貴重品で、持っていない人の方が多い。なので数時間に一度教会が鐘をならすのだ。お寺と同じ様なものである。
「護衛は君だけ?」
「いえ、ギルドの方に聞いたところ『夜空の虹』というランク6のパーティの同伴すると」
「来ないな」
「………そうですね。如何しますか?」
「もう少し待とう。急ぐ用でもないしな」
さらに十分後、ようやくランク6パーティ『夜空の虹』が到着した。
「お? なんだ、もう貴族さん来てるのか」
「十分前には来ていたよ」
「そうなんすか、すんません。俺は夜空の虹のパーティリーダー、剣士のタットっす」
「魔法使いのミシェルです」
「シーフのポールっす」
こいつら大丈夫かよ。そんな不安が渦巻くような連中が来た。しかも時間に遅れたのにこの態度である。
「………男爵のフローザだ。今日明日の護衛は頼んだ」
「任せてくださいっす」
「あと、その横のガキは?」
「…………はぁ、冒険者の白亜です。貴方達と同じく護衛依頼を―――」
「嘘だろ⁉ こんなガキにか⁉ 俺たちに子守りをしろと⁉」
爆笑している。依頼主の前で。
白亜はフローザ男爵に目配せをし、馬車に乗り込んでもらうように促した。
「………そうですか。時間が押しているので早く行きましょう。依頼主を待たせるわけにはいきませんから」
「ギャハハハ、依頼主を待たせるわけにはいきませんから、っだってさ!」
「ガキの癖に大人ぶってやがるー」
面倒すぎる。アシルが頼んできたのも頷ける。
『あの職員に騙されましたね』
(確かにな………完全に面倒な役柄を押し付けられた)
御者に早く進んでもらうように頼み、護衛を始める。
馬車に並走しながら周囲の状態を確かめる。
(街道に細かい小さな足跡………人間の大きさでも馬でもない。しかも一匹じゃないな)
まだ新しいそれを足元に発見し、なんの魔物かを判断する。
「………蜘蛛か」
恐らく虫系の魔物だ。大きさは白亜と同じよりすこし大きいくらいだろう。それがみたところ6匹程いる。
馬車の窓を軽く叩くと中から窓が開いた。
「君か。どうしたんだい?」
「周辺に恐らく蜘蛛かと思われる魔物の足跡を発見しました。まだ新しいので遭遇して戦闘になる可能性がありますので、先に報告をと」
「ああ、ありがとう。わかった。用心しておくよ」
「はい」
まだ街道を走り始めて三十分ほどである。だが、魔物がいる以上どうしても休憩場所が限られているので早めに休憩をとって馬を休ませてから一気に森の近くを抜けた方がいいのではと考え始めた。
「!」
いる。
「バレットさん。少し止まってもらっても?」
「え? あ、はい。わかりました」
御者に話しかけて馬車を一旦停止させる。
「なんだなんだ、疲れたのか?」
「これぐらいは問題ないです。そんなことより……わかりませんか?」
「はぁ?」
「前方。街道を塞ぐようにグレートスパイダーが10匹ほど並んで巣を作っています。まだこちらには気付いていないのでとりあえず止まりました」
「何言ってんのこいつ。シーフの俺が気づかない筈ないでしょ」
シーフのポールが自信満々にそう言う。
「では地面の足跡には気付いていますよね?」
「足跡?」
よく見てみるがポールにはそんなものはほぼ見えない。
「そんなもんねぇよ。ほら、さっさと進みましょう。グレートスパイダーなら倒したことあるしな」
「逆になんで気付かないんですか? これ以上進んだらやつらのテリトリーに入りますよ。せめて護衛対象を安全な場所へ誘導してから進まないと………ああ、聞いちゃいない………」
眉間を揉む白亜。こいつら面倒すぎる。
とりあえずフローザ男爵にグレートスパイダーの事を告げ、突っ走っていった三人を追う。
男爵には通信機を渡したので何かあっても大丈夫だ。
問題はあの三人である。ミニスパイダーならまだしも上位種のグレートスパイダーはランクでいったら8である。その巣に突っ込むなど熟練の冒険者でも避ける事だ。
ランク6の三人が一匹のグレートスパイダーに向かうなら攻撃力の高くない種なのでなんとか倒せるだろう。だが相手は10匹はいる。数でもランクでも負けているのだからヤバイに決まっている。
正直放っておきたいがそれは駄目だ。指名依頼なので無視も出来ない。
「はぁ、馬鹿が………」
案の定糸に絡めとられていた。これからはこいつらを三馬鹿と呼ぼうと密かに心のなかで決めた瞬間である。
「ギシャアアア!」
「そこ通りたいんですが開けてもらうことって可能です?」
「ギシャア!」
「ん………そこの三人も返して欲しいんですけど」
「シャアアアア!」
「こっちも仕事なんですよね。………すみませんね」
村雨をスラリと抜き、そのままの勢いでグレートスパイダーを一刀両断する。文字通り真っ二つになったグレートスパイダーは体液を辺りに撒き散らして命の灯を消した。
「ふっ」
息を吐きながらまた刀を動かすとそれに沿って蜘蛛が蹂躙されていく。数分も経たぬうちに蜘蛛はその数をゼロにまで減らした。
「よし。とりあえず男爵を呼ぶか」
三馬鹿解放は後でいい。とりあえず護衛対象だ。
通信機で連絡をとると男爵は直ぐにやって来た。
「これ、君が………?」
「はい。グレートスパイダー達には悪いですがここの周辺を巣にするつもりだったらしいので」
街道を巣にするということは人間を食べると言っているようなものだ。可哀相だが駆除しなければならない。
「あの三人は………」
「毒で寝ています。ああ、グレートスパイダーは苦いの苦手なので麻痺毒しか使わないので命に別状はないですよ。蜘蛛へのトラウマは残っても知りませんけど」
そう言って刀で器用に三馬鹿を覆っている糸を切断、ピクピクと動いているのを適当に担いで懐中時計から取り出した台車に放り込む。ついでに蜘蛛の糸や蜘蛛の死骸もしまった。
そして大人三人が乗っている台車を一人で引きずり始めた。
「だ、大丈夫⁉」
「はい。普段の鍛練ではもっと重いものを運んでいるので」
三馬鹿は残りの距離を非常に乗り心地の悪い野菜なんかを運搬する用の台車に揺られ続け、蜘蛛と台車がトラウマになったらしい。
勿論そんなことを白亜が知る筈もないのだ。
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「って話だな」
【この三人とはこの後会ったんですか?】
「いや。あれっきりだ。っていうか拠点を移したらしい」
【『…………』】
「さて、こぼれ話はここで修了とさせていただきます。本当はまだまだあるのですが本編早くいってと思っている方もいらっしゃると思うので」
『それではまた明日か明後日に!』
【明日か明後日に!】




