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無気力超能力者の転生即興曲  作者: 龍木 光
英雄の生まれかわり
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「ほんまに自由人やなぁ………」

 半透明の石盤のようなものをガチャガチャと弄り、先の尖ったペンのようなもので何かを書き加えていく。


「それ、何を書いてるんです?」

〈回路繋いでるだけだ。やらなくても出来ないこともないが消費する力の量が圧倒的に少なくなるからな。その分手間はかかるが〉


 後ろからリシャットの手元を覗き込みながら岡村が質問をする。


「ほぉ、始めて知りました」

〈知らなくて当然だろう。俺じゃないと出来ないようなものだからな〉

「気力の質ですか?」

〈いや、もっと単純な話しだ。これを割らずに均等に削れるやつは早々いないだろう? 気力を流しながらじゃないと回路は固定されないから機械でもこれはできないし〉


 ただの器用さの問題だった。


 リシャット曰くやり方さえ覚えれば回路の組み立てはそう難しくないそうなのだが、実際には幼稚園児に大学受験問題を解かせるような難題である。


 ほぼ不可能の領域なのだがそれを片手間でやってしまえるのがリシャットなのだ。


〈これは出来た。次のをくれ。それと壱鉄はインクを持ってきてくれ〉

『了解っす』

「これでいいですかな」


 壱鉄が親指ほどの大きさしかない瓶をリシャットに渡す。中には水に良く似た液体が入っていて、リシャットがそれをペンの後ろの方からペンの中に注ぐ。


 万年筆と似たような構造で、暫くするとペン先から透明で少しドロリとした液体が出てきた。


「それは?」

『接着剤みたいなもんですよ。これを流しながら気力を注ぐとこれがいい感じに固まるんす』


 これが大事なのだとか。壱鉄が家から持ってきてくれた。


 リシャットが再びガリガリと別の石盤を削り始める。その表情は真剣で、終わるまでほぼ音は耳に入らない。


『一種の過集中みたいなもんで、一回のめり込むと中々終われないんす。本人からしてみればそんなに時間が経っている感覚はないそうなんですけどね』


 壱鉄は岡村にそう説明した。その証拠に、終わるまで全く身動きしない上に話しかけても反応しない。


 先程少し話せていたのは作業の合間だったからだ。


 黙々とペンを動かすリシャットの指は力の入れすぎで鬱血していた。









「ふぅ………」


 かちゃん、とペンを置き息を漏らす。


「終わりましたか?」


 岡村に首肯きを返しながら時計を見る。もう直ぐ一時間目が終わる頃だ。


 かなり早くからやっていたのでこの時間になったのだが。


『兄貴はこれから学校?』


 壱鉄の言葉に一瞬考え込み、直ぐに頷く。もうそろそろ行った方がいいだろうと判断したからだ。正直最近授業にまともに参加していない。


「では、私も一緒に行きましょう。声の事など説明しますよ?」

〈本当の事は言わないでくれよ?〉

「はは、勿論ですとも。ちゃんと病気ってことにしますので」


 病気ではなくどちらかと言えば怪我なのだがこの際それがいいだろう。


 昔より遅いとはいえ人よりも圧倒的に回復速度が早いので喋れるようになるのはそう遠くない。


 それなのに突然治ったなどとは物凄く言い辛いので。


 リシャットは壱鉄を肩から下ろして校長である岡村と共に教室に向かう。壱鉄は着いてくるなと言われ少しへこんだが窓のそとからちゃっかり追っていた。


 リシャットは聞こえていたがあえて無視した。それぐらいの空気なら読めるようになったのである。進歩だ。


「ああ、さくら先生、宜しいですか?」

「校長先生……? あ! リシャットさん⁉」


 会釈を返すリシャット。


「なんでこの前は勝手に………」

「それは私が許可したんです。詳しくは言えませんが、病気でして喉があまり使えないそうなので全て筆談で」

「筆談?」


 訝しげな目で見てくるさくらにリシャットはサラサラと文字をかいてメモを見せる。


〈今は話さないでと言われましたので〉


 だれに、とは言わない。言われた相手は医者ではないから。


「喉が、って大丈夫?」

〈日常生活にはそれほど。見ますか? 子供には見せられないレベルでグロいとは言われましたが〉

「い、いえ。大丈夫」


 そう言われたら寧ろみたくなる気もするが見たら見たで後悔しそうなので遠慮しておくさくら。


「それではよろしくお願いしますね」

「はい。確かにリシャットさんは預かりました」


 窓のそとから視線を感じながら席に着く。席替えしたので席は廊下側の一番端になった。このクラスは奇数なので一人一番後ろに余る席が出るのだがそこに座ることになっている。


「はーい、じゃあ授業再開するよ」


 少しざわついていた空気がその一言で落ち着く。リシャットはノートに黒板の内容を書き写していった。









「大丈夫やったん⁉」

〈見ればわかるだろ?〉

「いや、なんで筆談?」

〈喉がちょっとしたことで大火傷した。声出すなって言われた〉

「ああ、なるほどな……」


 またなんか変な事やったんだろうな、と納得されるリシャット。残念ながらこのリシャットはそういう人なのだ。


「ほんまに大丈夫なんか?」

〈体は大分。まだ怠いは怠いが慣れるから問題ない。右腕はもう動かさない方がいいだろうと思って固定してきた〉


 ギプスまでやってしまうとちょっと動き辛いので魔方陣を書き込んだ包帯で固定してある。動かそうと思えば動かせてしまうが無意識に動かすときに違和感を感じるので意図的にもとに戻すようになっている。


 しゃがむときでさえ腕をほんの少し動かしてしまうのだ。そこで自覚できるようになるだけでも十分だろう。


「そんで、今日の稽古はどうするん?」

〈やる〉

「ええんか?」

〈見てるだけにさせて貰おうか。正直動き回るのは止めろと言われている〉

「学校来てええんか、それ」

〈さぁな。だがこの前の報告とかもあったし来なきゃいけない用もあるしな〉


 欠伸をしながら親指で格技場を指差し、行く? というジェスチャーをする。


 そして伊東の反応を見ないまま歩いていった。


「ほんまに自由人やなぁ………」


 呆れたような呟きを漏らして後をついていく。その後ろをこっそりと壱鉄が追っていた。


 リシャットにはバレているとも気付きもしないで。

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