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無気力超能力者の転生即興曲  作者: 龍木 光
英雄の生まれかわり
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『………本当に、色々変わりましたね』

(もう、俺の我が儘なんかに付き合う必要はない。俺はあの時より経験を積んだ。時間さえ経てば勝算も出てくる、だから俺一人で十分だ)


 痛みを訴える喉を軽く押さえながら回復しやすいように魔力をゆっくりと流していく。ヒカリはリシャットの徐々に金色に光っていく指先を見て、


『………本当に、色々変わりましたね』


 そう呟いた。


(何がだ?)

『以前なら、そんなことも言いませんでしたから。我が儘なのは当然でしょう。白亜様なのですから』


 白亜は自分勝手な性格だったと覚えられていたらしい。実際割りとそうだった。


『一言も言葉を発しない日も少なくありませんでしたし、ましてや笑うなんて。だから今日初めて白亜様を見たときとても驚きました。目付きが、纏っている雰囲気が柔らかかったから』


 時間では悲しみは薄れない、それが白亜の口癖だった。よく周りの人に頑張れだとか幸せにならないと、だとか言われていたが、そんなものなんの励ましにもならない。


『自分がそんな状況じゃないからそんなことが言えるんだって、そう仰ってましたよね』

(そうだったかな………)

『ええ。それがこんなにも丸くなって。一体誰がですか?』


 みにょん、とリシャットの頬を引っ張りながらそう聞くヒカリ。怪我人の扱いが酷い。


(誰がって……ジュード達かな)

『ジュード? 日本人では無さそうですね』

(ああ。俺の…………弟子、かな)


 それを聞いたとたん、ヒカリがムッとした表情になった。引っ張っているリシャットの頬を更に引っ張る。


(千切れる! マジで千切れるから‼)

『お話、聞かせてもらえますよね? 保護者として興味深いです』

(話す! 話すから! 引っ張るの止めてくれ‼)


 手を離してもらい、痛む箇所が増えたリシャットはそこを擦りながら魔力を更に流していく。


(ちゃんと話すさ……会ったら全部話すつもりだったし)

『そうですか。ではどうぞ』


 なんだか怒っている様子のヒカリに首を捻りながらリシャットが話し始めた。一切の隠し事はなしで、全てを。








『よくわかりました。異世界、というのは未だによくわかりませんが白亜様の言うことなのですから間違いはないのでしょうね』


 ヒカリは理解したようだったがその隣に寝そべっている壱鉄はイマイチ解らなかったようでまだ首を捻っている。


『戻るのでしょう? あちらに』

(そうだな。一応俺の居場所はあそこだから。ここには俺の居場所は今はあってもその内無くなる。俺はもう人間とは言えないからな……)


 色々と混ざりすぎてて意味が分からない事になっているリシャットである。もし魔獣を全て倒しきったとして、そこから先は化け物だと蔑まれるような運命が待っているだけだろう。


(化け物に居場所なんてないさ。だから化け物だらけの場所にしかいけないんだよ。結局な)

『私は構いませんが……白亜様はそれをどうお考えですか?』

(ジュード達のところに戻りたい………かな。本当の意味で俺を慕ってくれるのはあいつらだと思うし)


 白亜の時は自ら人に関わらないように避けていた。今もそう変わらない。それは最初から居場所を作ろうとなどしていないから。


 ここで未来を作ろうとなどしていないから。


 ヒカリは私もいきたいです、とは中々言えなかった。自分は機械でしかなく、強くなっていくであろうリシャットについていける気がしなかった。


 リシャットの根は世話焼きでお人好しなのをヒカリはよく知っている。それが隠されてしまうほどに復讐の二文字しか頭になかっただけなのだ。


 それがとりあえず一段落し、落ち着いているのが今の状態なのだろうということもよくわかっていた。


 お人好しオーラが全面的に押し出されている今のリシャットならヒカリがついていきたいと言えばすぐに許可を貰えるだろう。


 それだけの信頼関係は築けている。


 それでも言い出せなかった。リシャットは基本、無理そうなことでもとりあえず挑戦してみるタイプの人間なので連れていくために色々と準備をするだろう。


 そしてそこで無茶をする。否、無理をする。


 自分が壊れるギリギリまで体を削ることしか出来ない。そこはある意味で不器用なのだ。


 程々で止めることもできなければ危険を予知して予め予防する意識もどうしても薄い。それは死んでもいいや、といったくらいの環境にいたからなのだろう。


 面倒なこの性格を知っている人ほど、中々言い出せないものなのだ。








 家に戻ったときには既に深夜になっていた。ライレンに先に帰ってもらって夜ご飯などの雑用は全て欄丸に押し付けたので特に問題はないはずだ。


 寝ているであろう美織たちを起こさないようにそっと扉を開ける。リビングに明かりがついていて廊下に光が漏れている。


(?)


 消し忘れることがよくあるのでそれなのだろうと思い、リビングに足を踏み入れると全員そこにいた。


「あ、おかえり」

「おかえりー」


 まだ喉から声が出せないので急いでメッセージアプリを開いてそこに言葉を打ち込む。念話でもいいかなと一瞬思ったが説明が面倒だったので。


〈まだ起きてるんですか⁉〉


 すぐにそう打ち込まれた文字は全員の持つ携帯に送られる。


「だってリシャット帰ってこないんだもん」

〈いや、もう夜中の2時ですよ〉


 ちら、とライレンに視線を送ると、


【ちゃんと伝えましたよ? 寝ててくれって言ってたって。でも起きてるって美織さんが】


 ちゃんと言ったぞ、とアピール。


〈明日学校ないでしょうから構いませんけど……旦那様はお仕事では?〉

「ああ、それなら大丈夫。休み貰ったから」


 この人割りとよく休んでないか? と少し会社が心配になった。


〈そうですか………でもこんな時間まで待つ必要なんて……〉

「お嬢が言い出した」


 最近日本語も話せるようになってきた欄丸である。敬語はまだ勉強中なので雇い主に対してもタメ口なのだが、もうそれは仕方がない。本人が良いといっているので許している。


「………」


 リシャットが無言で美織を見つめると、


「だって今日大変だったんでしょ」

〈そうでもないですよ〉

【あれのどこがそうでもないんですか? 瀕死の重傷負ってましたよね?】


 ライレンはギロッとリシャットに睨まれて肩を竦める。今はどうやら美織達にも姿を見せているようで声が聞こえてしまっているらしい。


 美織と大地がこっちを見た。


「瀕死の重傷ってどういうことだい?」

〈本当に大したことないですから。骨が折れたぐらいで〉

【助骨全部と両腕両足砕かれておいてよく言いますよねー。内臓も心臓以外はほぼ死んでましたし。傷付かなかったところって頭だけじゃないですか】

(おい)


 我慢ならなくなり、ライレンにだけ念話を飛ばすとライレンは呆れたように溜め息をついてどこかに飛んでいった。


(逃げられた………)


 眉間を指で揉みながらシワを伸ばす。ここにいつかずっとシワができそうで怖い。


「リシャット君、本当に大丈夫なのかい?」

〈はい。怪我自体は直ぐに治しましたし逆にバキバキに折れてたので修復も簡単でした。寧ろヒビ入ってるくらいの方が治しにくいので……〉


 綺麗にスッパリと切断されていたりする方が魔法が効きやすいのだ。当たり前だがそっちの方が痛いのであまりお勧めは出来ないが。


 じゃあ粉砕骨折はどうなのかと聞かれればこっちもそれなりに簡単である。ボロボロになっているのだから寧ろ少しぐらい適当でも治るのだ。痛いが。


「声が出せないのって、何か喉をやられるようなことを」

〈あ、自分でやりました〉

「え?」

〈ちょっと自分にもダメージが来るタイプの技を使った反動です。焼け爛れているだけですので特に問題はないかと〉


 焼け爛れていることのどこが問題がないのか問い詰めたいところだが全身ほぼ粉砕骨折したというものよりかはよっぽど良かったのだろう。


「良くそれで死ななかったわね……」

〈丈夫ですので〉


 その言葉だけで済むような話ではなさそうだが、これ以上聞いても本当に丈夫なだけという結論に至るので意味はないだろう。


「大丈夫ならそれでいいんだけど」

〈はい。大丈夫です。と言いたいところですが正直大分消耗しているので明日一日は休ませてもらっても?〉

「それは全然構わないが……君が大丈夫でないというのだから相当危険なのかい?」

〈少しだけ。力を使い果たしたら本来は消滅するので……。今はなんとか生命維持にのみ力を使って持ちこたえてるだけですので〉


 だからリビングに人がいることにも気付かなかったのだ。今のリシャットは生きようとしていなければ直ぐに死んでしまうほどギリギリである。


 簡単に言えば、心臓や肺が機能していない。魔力で無理矢理動かしてはいるがそれをやめたら数分であの世である。リシャットがあの世に行くことになるのかはまた別だが。


 だから今一発でも気弾を使ったらもう二度と動くことはできなくなるだろう。少なくともこの体は。


〈寝れば恐らくはなんとかなるので明日一日は多分ずっと起きないですがそれでも?〉

「わかった。ゆっくり休みなさい」

〈ありがとうございます。では、もう結構限界ですのでお先に休ませていただきます。おやすみなさい〉


 静かにお辞儀をして自分の部屋にいった。


 そしてその次の日、リシャットは一度も部屋から出てこなかった。

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