『やり過ぎましたね』
ライレンが閃光弾のようなものを投げつける。まるでなにかが爆発したかのような激しい光に辺りが包まれ、一次的にリシャットの体その物が光に紛れる。
最初から目を瞑っているのでリシャットには何の影響もないし、そもそもヒカリは人間じゃない。視界は目だけではない上に極度に強い光を直接見ても平気である。
『こっちですよっ!』
真っ白になった視界に混乱していた亜人戦闘機に更なる追い討ちがかかる。派手な爆発が後頭部で起こった。
「ギシャアアアア⁉」
『どんなもんだい! 俺様の砲撃は痛いだろ?』
『壱鉄。調子に乗らないでください。直ぐにオーバーホールしますよ』
『恐ろしいこと言わんでくれよ』
また、懐かしい声が耳に飛び込んできた。
「あの声は……壱鉄か」
『壱鉄………ああ、ロケットランチャーの』
「だな。ちゃっかりしてんな、ヒカリは。俺の武器を使いこなしてる」
壱鉄。リシャットが昔作った武器で、全自動で装填から発射までを行うようプログラムしたロケットランチャーである。
リシャットがいつか自分が死んだとき悪用されないようにと感情プログラムを組んだのだが、いざ起動してみたらとんでもないお喋りだった。
何せ充電が切れるまでずっと話し続けているのだから。
「っと」
リシャットが丁度いい位置に来たと見計らったライレンとヒカリは同時に亜人戦闘機の人間で言う肩の位置を左右同時に攻撃した。
その衝撃で亜人戦闘機の体が大きく仰け反り、隙が出来る。
「ここか」
リシャットは空中を蹴って一気に懐に入り込んだ。冷たい甲殻の隙間をぬって内部に潜入する。
「シアン」
『お任せを』
リシャットの閉じられた目にどこをどう進むのか、地図が表示される。余裕を持って見られるならいいのだが、もう既に亜人戦闘機は体勢を立て直し始めている。
リシャットは地図を殆ど見ないで一気に加速した。
周囲にあるコードを何本か叩き切りながら一気に奥へ奥へと入っていく。
(こいつらが機械なら、プログラムされてる頭脳を叩けば動きは止まるはずだ……!)
わざわざエネルギー源そのものを壊しに行くよりそっちの方が安全だと考えた。これ程の大きさの機械を動かす動力だ。下手に壊して大爆発とか洒落にならない。
今までの経験から、亜人戦闘機のどこにそういった機関があるのか、大体は理解していた。
「ぐっ、くそっ!」
亜人戦闘機の内部である。亜人戦闘機が動けば動くほど、リシャットに被害が及ぶ。
少し腕を動かされただけで壁に叩き付けられた。
リシャットは足場をなんとか見つけながらなるべく飛ばずに前へと進んでいく。飛ぶとほんの少しのズレで壁に叩きつけられかねない。
それならばと寧ろ慣性を散らさずに同じ方向に動くようにしたのだ。
「………見付けた」
リシャットは大きなそれこそ自分が入れそうな大きさの箱を見付けた。隙間から、ベクトル・シリグが見える。
「これにいったい何人の気力が………いや、そんなことは今はいい。シアン!」
『60秒です‼』
「わかった‼」
手に隠すように持っていた気弾をそこに放り込む。道端の小石程度にまで濃縮されたその力の塊はリシャットも想像できないほどの破壊力があると予想される。
「っ、早く出ないと」
制限時間は60秒。その間にここを抜け出さなければ自分ごと大爆発である。
しかし、来た道を辿っていたら到底間に合わない。そこでリシャットはかなりの荒業にでる。
手の中に現れたのは長年使っていた宝刀村雨。勿論これは魔力で作った偽物だが、それでもやはりよく手に馴染んだ。
リシャットはそれを左手で握り締め、高速で振り始める。刀の表面から出た水飛沫がピチャピチャと頬にあたった。
ほんの少し振るだけで両断されていく壁を右手の鞘の部分で強引に退かしながら亜人戦闘機のど真ん中から外に向かって飛翔し続ける。
「時間はッ⁉」
『8秒!』
この調子だと10秒は掛かりそうなのだが、それでは間に合わない。リシャットは使うまいと決めていた奥の手を行使することに決めた。
「グルァアアアアアッ!」
人間とは思えないような唸り声をあげながら焼けるような喉の痛みを堪え、口を開く。そこから白い炎が一直線に流れ出し、外への通り道を時間ギリギリで作り出した。
リシャットは口を押さえながら外に脱出、それに気付いたライレン達が即座に持ち場を離れる。
その直後だった。亜人戦闘機が内側から爆音を響かせ、甲殻の破片がとてつもない勢いで罅割れ、砕け散り、周囲に弾き飛ぶ。
リシャットは破片をなんとか避けながらその場を離れようとしたのだが、それよりも早かったのは内側からの大爆発だった。
「っ⁉」
想像を遥かに越えた爆風に大きく煽られ、紙切れのように体が吹き飛ばされる。
【おっと、大丈夫ですか?】
(お前なんで平気なんだよ)
【半分霊体に戻したので風は通り抜けるんですよ】
(便利な体だな。ヒカリは?)
【彼女達なら先に避難していたので無事ですよ】
(そうか)
また地面に落下するかと思ったが、ライレンが途中でリシャットを受け止める。リシャットは原型の留まっていない亜人戦闘機をみて、
(やり過ぎたかな)
『やり過ぎましたね』
【どうみてもやり過ぎです。周囲に結界張っていなかったらこの山は半分は消えてますよ】
ただの気弾でここまで威力がでるとは誰も予想していなかった。破片でちょっと危ないかな、くらいの感覚だったのだ。
核爆弾も真っ青の威力である。
【さっきリシャットさんが出てくる前にとんでもない太さと威力の白い光が遥か彼方まで飛んでいったのですが】
(そんなに飛んでったのか? みえなかったな)
【いや、なにしたんです】
(龍魔法。ブレスの中でも最上級のやつ使った。喉が痛すぎて話せない)
龍魔法とは竜魔法の上位互換系の魔法で、本来はドラゴン、それもエンシェントドラゴンと呼ばれる古代竜の中でも特に優秀な竜のみが使える魔法である。
そのブレスは島を沈め、小さな星なら簡単に壊せる威力なのだとか。リシャットも習得したはいいものの人間の体には負担が大きすぎていままであまり使っていなかった魔法である。
詠唱が殆ど必要なく、即座に打てるのが利点だが周囲に与える被害が甚大で、竜でさえ一発使ったらその日は気絶するくらいのそれ使えるのかレベルの燃費の悪さなので竜でさえあまり使わない。
【あれってそれ専用の体じゃないとできないと記憶しているんですが】
(だから使ったら喉が焼けるんだよ。普通の人間が使ったら下位互換の竜魔法でも死ぬだろうけど)
普通の人間が使うものではない。はっきりとそう言うリシャット。じゃあお前はなんなんだ。
(っ、少し疲れた………。寝てもいいか)
【相変わらず自分勝手ですね。判りました】
(ん、おやすみ)
一秒も掛からずにかくんと全身の力が抜かれる。本当に寝てしまった。
【まったく………とりあえずあの方々と合流しますか】
先に避難したヒカリが壱鉄を背負って飛んできているのが見えたので苦笑しながらそこへ向かった。




