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無気力超能力者の転生即興曲  作者: 龍木 光
英雄の生まれかわり
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「これを見せれば、わかりますか?」

 リシャットが訪れたのは警察署。巨大な建物が、来る人を威圧しているかのようにさえ感じられる。


「ここか………」


 鞄の中にある封筒を取り出して受け付けに向かう。


「あの、すみません」

「? 君、学校は?」


 そんな質問をされるとは思ってなかったリシャットだが、頭の回転がそこら辺の人の比ではない。


 いくつもの回答を弾き出し、状況と時間帯に照らし合わせる。


「今日はなんとか記念日? でお休みなんです。お母さんがこれを持ってここにお使いしてって」

「………創立記念日とかかな? お使い偉いね」


 子供っぽい言い方と、ハッキリさせない物言いを追求した結果こうなった。この回答をコンマ一秒程で叩き出すリシャットもリシャットだが、それを普通に信じる受付。


 警察の人がそれでいいのか、と不安になるところもあるがこの場合は好都合だ。


「えっとこれは………中を見てもいいかな?」

「多分大丈夫です」


 結構重要な書類なのだが、ここで隠すのも不自然だと思い、そう言う。


「ふむふむ………君、保護者は?」

「いません」

「これ、上に提出しなきゃいけないくらいのものだから………待ってもらう事になるよ?」

「大丈夫です」


 受付から少し離れた椅子に座らされ、とりあえずやることもないので鞄に入れていた本を読む。


 子供が読むような簡単なものではなく、アルファベットが大量に散らばったものだ。つまり、まず日本語ではない。


 リシャットが暇潰しで入った本屋に外国語で書かれた本を見つけ、とりあえず購入してみたやつである。


 言葉は使わないと忘れていくものである。本を読むことで外国語の勉強も兼ねているのだ。


 ぱらぱらとページを捲っていくリシャットの本にスッと影が入る。顔をあげると、強面の男がリシャットを覗き込んでいた。


「「……………」」


 誰だ? と内心で首を捻っていると男が口を開いた。


「これ持ってきたのお前さんか?」


 さっきの封筒である。リシャットはこくりと頷いた。


「こい」

「え、あっ」


 よくわからないまま引っ張られ、奥につれていかれる。あまり抵抗しなかったのは、もし何かあっても逃げる力はあるし、なにより思っていたとは少し違うがちゃんと封筒の意味をわかってもらえているようだと判断したからだ。


『それでも何があるかわかりません。ご用心を』

【そうですよ。気を張っといて損はありません】


 二人の言葉に少しだけ気を引き締めるリシャット。


 つれていかれたのは亜人戦闘機対策部隊本部と書かれた扉の奥だった。


 そこで再び椅子に座らされる。


「この中のこと、本当なのか」

「ええ、一応」

「正気か?」

「…………? 最初から狂っている人間にその言葉はおかしいと思いますがいかがでしょうか」


 突然対応を変え、たどたどしく話していた言葉遣いが一気に流暢になり、目を半分だけ開いていかにも面倒くさそうな表情になるリシャット。


「それが本性か?」

「本性、まぁ、そうですね。こっちが割りと素です。そちらは目を通されましたか?」

「ああ、一応な。だが、こんな案件上には通せない。危険すぎる」

「放っておいて遅かったじゃ済まないんですよ? 自分も早いとは少し思いますが………今のままじゃ到底間に合わない。あっちの戦力増強にこっちが全く追い付いていないのが現状」


 リシャットが持ってきたのは初等部4年から実技科目………つまり気力を使った授業を開始した方がいいのでは、という意見書だった。


 校長の許可も取っている。


「なんとかやっている」

「やれてない。私が何機倒してるとお思いですか? 昨日だけで6機です。それでも追い付かない。私だけじゃ到底カバーできる数じゃない。一気に来てくれたら一網打尽にするのは難しくないですが、そこらじゅうにいる奴等を仕留めるのはそれなりに骨の折れる作業ですから」


 全く自分のことを隠そうとしないのは封筒の中の書類にある程度のことは記入してあるからである。


 内心ヒヤヒヤしていたのは内緒だ。


「わかった。上に取り次ごう。だがその先は知らんぞ」

「ええ。それで十分です。ありがとうございます」


 そこで、思わぬ再会があった。


 そのあとも少し待たされたのだが、割りと直ぐにさっきの人の上司が来たのだ。その顔を見て、少し驚く。


「………水口、努さん?」

「えっと………初対面、ですよね?」

「ああ、初対面…………じゃないかなぁ」


 水口はわかっていないようだが、この人、以前ハクアが両親の墓参りに行ったときに偶々出会った人だ。


 山を登り初めて15分で遭難した、あの水口である。思い出せない人は164話目辺りを見てもらえば恐らくわかるだろう。


「これを見せれば、わかりますか?」


 手品のように手の中にキセルを出現させるリシャットをみて、口をパクパクと動かす水口。どうやら思い出したようである。


「え、あ、あの…………え?」

「あー、話が長くなりそうなので色々端折りますが………私、あのあともう一回死にまして。現在リシャット・アルノルドとして再び生を受けました。なので今は7歳ですね」

「マジか…………」


 自分の記憶の中のハクアと目の前のリシャットを見比べて、それらしき雰囲気は確かにあると納得する。


「少し驚きました。対策部隊の隊長になってたんですね」

「形状変化を教えてもらったお陰です」


 形状変化はやること自体はそう難しくないのだが、コントロールが難しい方法である。それを習得した水口も相当な戦闘センスがあったのだろう。


「それで、資料の方は」

「読みましたが………少し異例、というか危険なのでは」

「…………そうですね、そうだと私も思いますが、そうも言ってられない理由ができてしまったんです」

「理由…………?」


 リシャットがパチン、と指をならすと部屋のカーテンが勝手に閉じられ、防音の結界が即座に張られる。


「誰かに聞かれては不味いので少し外と隔離させていただきました」

「そんなに危険なんですか」

「危険………まぁ、やつらが今の話を聞いたら確実に殺されますね」


 やつら、とは言わずもがな魔獣である。


「あいつらは異世界から来ている。これはまず間違いないでしょう」

「異世界………⁉」

「私も異世界から来ていますが、そことはまた別の世界のようです。異世界とは言っても大量にあるので」

「なに言われてももう驚きませんよ………」


 メンタルが鍛えられる職場である。


「異世界からこちらに来る際、一度空間をねじ曲げなければいけないのですが、彼らはそれの専門家なのか全く気づけないほどその空間の揺らぎが少ない。異世界をわたる技術に関しては私を越えているでしょうね」


 リシャットを越える技術。どんなことも専門家以上の成績をだすリシャットが感心するほどの腕なのだから、相当なものなのだろう。


「そして、亜人戦闘機ノン・ストッパーですが………本当の機械の可能性は以前から考えていたのですが、どうやら別の個体が操作しているようなのです」

「わかるように説明してください………」


 オーバーヒート寸前の水口をみて少し迷って、


「そうですね。ラジコンとかドローンみたいなものだと考えてもらえばいいです。中に人はいないけど遠隔操作で誰かが動かしている」

「だから機械だと」

「ええ。私がどれだけハイペースで壊してもゴキブリのようにわいて出てくるのはそういう理由でしょうね」


 片目を瞑って小さくため息をつき、


「やつらの狙いは恐らくこの世界の乗っとり及び………私でしょうね」


 静かにそう言い放った。

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