「俺は……白亜。苗字は言わない」
更新遅れてすみません……。
「っ…………」
痛みに顔をしかめながら回復に専念する。止血は終わっているのだが血の処理をちゃんとしないといけないという面倒くささにため息をつく。
すると突然、盛大に音を立てながら正面にあった屋上の鉄の扉が勢いよく開く。
「あ」
感知切らなきゃよかったと後悔する。
「「…………………」」
互いに無言で見つめ合う。リシャットの方は目元が見えないが。
「…………………不法侵入者?」
誰もいないと思い込んでいたようで相手も混乱しているようだ。
今のうちに逃げないと、と急いで立ち上がるが貧血で一瞬目の前が真っ暗になり、再び座り込んでしまう。
「って、え⁉ ち、血が!」
「頼むから…………大事にしないでくれ」
「きゅ、救急車を」
「話を聞いてくれ」
急いで携帯を取り出す男に困ったような表情で話し掛けるリシャットだが焦りに焦っている男はその様子に全く気がつかない。
「………」
このままだと本当に救急車を呼ばれそうなのでリシャットが手を打った。文字通り柏手を1発。
すると男の手に電流が流れる。とはいっても静電気並みの電力なので少し驚く程度のものだ。
「えっ⁉」
「落ち着いてください…………疲れてて加減が難しいんです」
携帯を取り落としそうになりながら口を開けて固まる男。リシャットはなんとか落ち着かせることに成功した。
「このビルの所有者の方ですか………?」
チラリ、とその顔を窺うような仕草をするリシャット。
「そんなことよりひとつ訊いていいですか」
「………? どうぞ………」
「それ、見えてるんですか?」
リシャットの目元の包帯を指差して心底不思議そうな顔をして訊ねる。リシャットは一瞬面喰らった。
「これですか………? それ以上に聞きたいことないんですか……?」
「いや、山ほどあるけど……」
「確かに貴方の方を向いたり表情を窺うような事はしてますけど………全く見えていませんよ………普段の癖でこうしているだけです」
肩を押さえつつそう言うリシャット。
「ところで先程の質問ですが……貴方はここの所有者ですか………?」
「いや、ここは会社のビル」
「そうですか………少し疲れてしまって………直ぐに立ち退いた方がいいですか……?」
「そんな大ケガで⁉」
「これぐらい平気です………」
その証拠にもうとっくの昔に血は止まっている。ゆっくりとだが傷口も小さくなってきている。
「やっぱり病院行きましょうって」
「病院は………行けません………」
「なんで」
「素性がバレると後々面倒なので………」
「まさか………ヤ―――」
「その職業ではないので安心してください………」
最初戸惑っていた彼も徐々に落ち着きを取り戻してリシャットの隣に座って話し始めるようになった。
「あ。そういえば名乗ってませんでしたね。自分は長谷部です」
「………お好きに呼んでください」
「名乗ってくれないんですか」
「申し訳ないです………色々と厄介な事が重なっておりまして」
特に美織とか。
「なんで目を?」
「………秘密です」
「なんで傷がなくなったんですか」
「………秘密です」
「秘密ばっかりじゃないですか」
「明かせないので………」
いつの間にか長谷部は名も知らない変人と打ち解けていた。
「これどこで買ったんですか」
「これは………地毛」
髪の毛を引っ張られて少し顔をしかめるリシャット。
「地毛⁉」
「地毛です………。普段は隠してますけど………」
「こんな髪色あるんだなぁー」
白銀の髪など普通に考えて日本にいる筈がないのだが。いたとしたら大抵コスプレだろう。
「これ取って見せてよ」
「それは………駄目です」
「なんで」
「死ぬかもしれないから………」
「そう言う病気なのか?」
「いや、長谷部が………」
「凶器かよ⁉ ビームでも出んのか⁉」
出そうと思えば出せる、というのは秘密にしておいた。
「ビームは出ない………。っていうか俺の事なんだと思ってるんだ………」
「変人?」
「ああ、そう………」
変な人だとは生前から言われ続けていたので妙に納得できるリシャットである。
「そういや、あのバチってやつどうやったの?」
「………どうやったんだろうね」
「わかんないの?」
「………秘密」
いつの間にか二人とも完全に敬語が抜けていた。
「っと………そろそろやることやって帰らないと………」
「やることってまさか女の―――」
「な訳あるか………。亜人戦闘機だ」
「は?」
「俺は……奴等を許さない。そう決めたから」
「いやお前何言ってんの………?」
「………独り言だ。じゃあな………もう会わないことを祈ってるよ」
カシャン、と僅か数センチもない金網の上に片足で平然と立つリシャット。
「ここから飛び降りる気かよ⁉」
「それぐらい出来るさ………。無駄に体だけは丈夫だからな」
「………最後にお前の名前を教えてくれ」
「……………良いだろう」
長い沈黙の後、リシャットが金網の上から見下ろすように長谷部を見る。
「俺は……白亜。苗字は言わない」
「白亜………割りとありふれた名前だな」
「今は、な………。俺が生まれた頃は寧ろ変な名前だと罵られたよ………」
「俺が生まれた頃って………俺とそう変わらないだろ」
「さぁ、どうだろうな」
そのままゆっくりとビルの外へ身を投げるリシャット。
「お、おい‼」
だが、長谷部がビルの下を覗きこんでも誰の姿も見つけられなかった。
「いやー………まさか人がいるなんて思わなかった」
『マスターは肝心なところで手を抜きすぎです』
「それはすまん……」
血のついた服を風呂場で洗うリシャット。
【それにしても名前とか教えても大丈夫なんですか?】
「ああ、それは問題ない。認識阻害使ってたしなにより長谷部は馬鹿っぽいから………」
割りと酷い事を言いつつお湯で血を洗い流す。真っ赤に染まった水が排水口の方に線を描きながら流れていく。
【まぁ、いいならいいんですけど。収穫はあったんですか】
『ありましたよ。あとどうやら69ヶ所あるそうです』
「しかもそれが最低で、な」
【成る程………最低で69ですか……気の遠くなる数字ですね。それ以上になるのはほぼ確実なのでしょう?】
「ああ。もう少し調べてみないとわからないけど」
粗方血を落とせたのでついでに自分もシャワーを浴びる。これもよくあることだ。
血の臭いが酷い場所で風呂に入る等普通の人間には耐えられないかもしれないがそんなことはとうの昔に慣れてしまったリシャットである。
「問題は………擬態種だな。今のところ被害は出ていないみたいだけど………なんとかしないと」
石鹸を泡立てながらぶつぶつと独り言を言うリシャット。すると突然風呂場の戸が開いた。
「⁉」
「ミー」
「み、ミュル………脅かすなよ………」
唯一何故かミュル達どこからか入ってきた野良猫達はリシャットの感知能力を掻い潜ることが出来る。その理由は未だに謎だ。
ついでにミュルも洗ってしまおうかと考えて一旦体を拭いてタオル一枚で風呂場の出入り口に向かう。
「………お嬢様………」
「リシャット……」
嫌なところで鉢合わせてしまった。
「この臭い……もしかして………血の」
「…………ええ。血ですよ。なんなら見ますか? 鶏の解体中で」
「は?」
「産地直送です。羽だけ抜いた鶏ですよ。見ます? 相当お嬢様には刺激の強い―――」
「鶏切ってたの⁉」
「ええ」
平然とそう言うリシャット。実はこれ本当の事である。血を洗い流す時にバレるといけないので鶏一羽を風呂場でたまにザックリやっているのだ。
なぜこんなことができるかといわれれば、リグラートの両親に叩き込まれたからである。
お陰で大抵の生き物は解体できる。流石はド田舎の農村だ。




