「特に…………意味はない」
キリの良いところで切ったので短めです。
「あの、離れないのですがどうしたら宜しいでしょうか……」
物理的にくっついて離れない。床に置いてもよじ登ってくるのだ。
「お父さんに飼って良いって訊いたら?」
「それは……そもそもここは私の家ではないですし………」
そこまで言って言葉をのみこむ。
「なんで話すのやめるの?」
「いえ」
犬で手一杯です、と言いそうになったのだ。狼だが。
「美織もこのねこちゃん飼いたい」
「ですが………」
「ミー! ミー!」
猫までそう言ってきた。
「それに猫なんていたら仕事に支障がでますので」
「じゃあどうするの?」
「そうですね………」
保健所は論外だ。最悪殺処分されてしまうだろう。
かといってそこらに放しても危険である。車に轢かれるかもしれないしそれこそ迷惑にもなる。
「んぅ…………どうするか……」
シアンに聞いてみた。
『飼った方がいいと思いますよ?』
ライレンは、
【お好きなようにどうぞ】
欄丸は、
「ね、ねこだと⁉ はやくすててこい!」
とことん猫が嫌いらしい欄丸は置いておいて、ライレンは完全に丸投げでシアンは美織と同じ意見だ。
「俺としては………助けておいて捨てるのも忍びないんだよな………」
どうするか。結果、
「猫? いいよ? 美織も飼いたいらしいし」
「はい…………」
帰ってきた大地はあっさり許可をくれた。
こうして迷子猫、改めミュルが立派な番犬ならぬ番猫になったのである。
「欄丸。少しいいか?」
リシャットは欄丸を呼び出して普段誰にも使われていない部屋に入る。
因みにあの親子は二人揃ってお風呂である。
「どうした?」
「多分今夜お前の人化の魔法が切れる。だからそれをまたかけ直さなきゃならない」
「じかんがかかるのか?」
「いや、前々から用意してあるから問題ない」
そう言って懐から魔方陣を書いた紙を取り出す。
「俺が話したいのはひとつ提案があるからだ。………今夜、少し暴れないか?」
「あばれる?」
「ああ。俺が日本に来た理由は知ってるだろ?」
「うむ」
「それを少しずつ実行に移そうかと思うんだ」
窓の外を見ながらそういうリシャット。
「はやいのではないのか?」
「まぁ、ね。でも思っていたより情報が集まらないから自分で集めるしかないからさ。直接行った方がいいかな、って」
「なぜ、われにそのはなしを?」
「簡単だよ。印象づけるためさ。【巨大な犬に乗った変な人】っていう認識を周りに植え付ければ俺がそれをやってるとはバレにくくなる」
わざと目立って自分とは正反対の人にみせるつもりらしい。
「どれだけ隠しても絶対に誰かには見られちゃうだろうし、下手に偽装するより堂々と変なことした方が印象に残るだろ?」
「われはバレないだろうが………きさまはどうする?」
「勿論変装する。少しくらいならなんとかできるし」
どう変装するかは不明だが、まぁ、なんとかなるだろうと楽観視するリシャット。一応シアンの方にも大丈夫だというお墨付きはもらっているので問題ない。
「どうする? 別に来なくても良いぞ?」
「いく。きさまひとりではきけんだろうしな」
「俺が危険って………」
むしろ欄丸の方が危険なのだがそれを言う必要もないと判断し、じゃあ頼むぞ、と一言かけて部屋を出ていった。
【いやー、あれはどうなんでしょうね】
「なにがだ?」
【照れ隠しなのかそれとも急いでいるのか】
「……どうだろうな」
どちらもあり得る答えだ。早々に話を切って出ていくなどなにか用事がある時か考え事がある時、感情が高ぶった時、だ。
「きさまもくるのか?」
【愚問です。契約主に何かあっては悪魔の名が廃りますから】
「…………」
【なんです?】
「たのしんでいるだけであろう?」
【あ、バレました?】
いつになく楽しそうである。
【これまでは裏で調べてるだけでしたしねー。あの方は戦闘でこそ輝きを魅せる】
ニコニコと楽しみでしかたがないとでも言いたげな顔をしてそう言った。
「わからないな」
【戦ってるところを見ればわかりますよ】
「たたかっているのはみたことがあるぞ?」
【あんなの戦いとは言いませんよ? リシャットさんも本気じゃないですし、何より本調子ではなかったですから】
みたら、きっと虜になりますよ、と言いながらライレンも去っていった。
「…………したくするか」
リシャットは夜更けに突然目を開けてその場から起き上がる。
事前に用意しておいた物をベッドの上に置き、毛布を被せて準備万端である。
「それはなんだ?」
「これは発信器みたいなもので誰かがこの部屋に入ってきたらすぐに俺に連絡が入るようになってる」
「それでまにあうのか?」
「屋敷からは死角になっている花の方に飛ぶ。そうすればちょっと花が気になったから外にいた、で話がすむし」
もし外にも人がいたらその時はその時だがまた別の場所に転移すれば良いだけである。
まさにチートな魔法だ。
「さて、体はどうだ?」
「む?」
気付くと、狼に戻っていた。
「いつだ⁉」
「今さっき。ああ、喋れるようにちょっと体を弄ってるからそのつもりで」
もうなんでもありである。
リシャットはどこにでも売っている無地の長袖のTシャツにジーンズ、それとチカオラートに貰ったマフラーとコートを着る。
当然、ぶかぶかだ。
「おい、それでたたかえるのか……?」
「ん」
コク、と首肯く。
「どこにいく?」
「…………」
無言である方向に指を指す。
「いや、なぜはなさぬ?」
「特に………意味はない」
それきり黙りこむ。欄丸は突然無口になったリシャットの対処の仕方がわからずどうすればいいか迷った。
『気にしないでください。マスターは戦闘前になると話さなくなるんです』
「そうなのか⁉」
【昔は普段でもこれぐらいしか話しませんでしたよねー】
リシャットの昔を知っているライレンは楽しそうにそう話す。
「………行くぞ」
「う、うむ」
「話すの………バレるから念話で」
『わ、わかった……』
本当にどう答えれば良いのか判らないとばかりに首を捻ってリシャットの後に続いて部屋を出ていった。




