「なんで泣いてるの………?」
先程、『自分だけの世界の筈が異世界に繋がってたんですけど』という小説の連載始めました。
目を通して下されば嬉しいです!
「リシャット君」
「旦那様。申し訳ありません。まだ出来てな――――」
「そっちじゃなくて、これだよ」
キッチンに立っているリシャットを呼び出し、段ボールから取り出した服を見せる。
「これ………」
「前に話しただろう? 君のサイズがなかったからね。新しくデザイナーに頼んで作ってもらったんだよ」
「わざわざそこまでお金かけなくても………」
金持ちの金銭感覚に唖然としながら服をまじまじと見る。
リシャットのサイズぴったりに作られたそれはお手伝いの人の服というより執事が着ていそうな服だ。
燕尾服というわけでもないのだが私服とも言い難い服である。どこかの貴族がこれと似ていた服を着ていた気がする、とリグラートでの事を思い出すほど上等なものだった。
「冬服もあるんだよ」
「あ、少しデザインが違うんですね」
冬服の方は生地が分厚くてコートまであった。
「これ……一体いくら使ったんですか……?」
「デザイン料はかかってないから安心して」
「? 何故です?」
「君の写真をデザイナーに見せたら是非とも服をデザインさせてくれと頼む人が急増してね」
イケメンパワーである。顔がいいと得することは大量にあるようだ。
「欄丸君の分もあるんだよ」
「ありがとうございます」
「君には特に世話になってるしね」
世話を子供がしていると言うのもおかしな話だがリシャットならそれがあり得てしまうのでその言葉も頷ける。
「リシャット!」
「お嬢様。どうされました?」
「調べたんだけど、記事によって話が全然違うのよ!」
「新聞や週刊紙は意外とあてにならないこと書きますからね……」
リシャット、いや、白亜の場合、それは大幅に本来の内容とは違うことが書かれていた。先ず、戦う理由が人を助けたいから、である。
勿論それもあったが白亜を動かしていた感情は『復讐心』である。断じて人を助けたいというだけで動いていない。
それを訂正しなかったから変な噂が大量にでてそれがごちゃ混ぜになっていたのだが。
「後で感想を聞きますので覚えておいてくださいね」
「わかったけど、どれの感想を書けばいいの」
「そうですね……ではお嬢様の一番気に入った記事にしてください。どれを選んでも結果同じでしょうし」
かなり適当な先生である。
【リシャットさん! 焦げます!】
「あっ!」
火をかけていたことを忘れていた。急いで火を消して鍋のなかをかき混ぜて器にあるプリンにかける。
「っと、危ない………」
「料理中に呼び出してごめんね……」
「いえ、もうこれで完成したので大丈夫ですよ」
大地にプリンとスプーンを手渡しながら鍋やボウルを片付けていく。
「君、片手しか使えないのに本当に器用だよね………」
「右手も使えないことはないんですけどね。下手に調子のって使うと二度と使えなくなりそうで」
普段から痛みがあるわけではないが動かすと鈍い痛みが走る。
「軽いものなら持てないことはないんですけど」
右手を何度か握ったり開いたりしながら静かにそういう。
「っと、お嬢様のところへ行きますね。服、ありがとうございます」
「ああ。頼んだよ」
スッと音もなく去っていくリシャットを見送りながら器からカラメルのかかった白いプリンを掬うのだった。
「リシャット! これが一番面白かったからこれにしたのよ」
「死んでから大分後に出たもののようですね」
ちら、と目を通し、暫し無言になる。
「リシャット?」
明るいタブレットの画面から目をそらさず固まるリシャットを不思議そうに美織が見詰める。
「なんで泣いてるの………?」
小さく口を開けたまま、ほんの少し、それでもハッキリと涙を流していた。美織の不思議そうな顔を見て我に返り、目元を急いで拭う。
「いえ。なんでもないです。それで、これについての感想は?」
「なんでもないわけないじゃない………。うーん、なんで死んじゃったのか判らなくなった。今まで見てきた記事は私たち目線で書かれていたけど、このアンドロイドから聞いた話を纏めた文はなんていうか」
そこで一旦言葉につまり、なんども首を捻る。
「うーん………なんでこの人が死ぬ必要があったのか、それがわかんないの。これじゃ駄目?」
「いえ。感想ですから答えなんてありませんし」
リシャットは目を伏せて小さくため息をつく。
「なんで泣いたの?」
「…………私はこの人物と縁がありまして、彼女………ヒカリのことも知っているんです」
「縁? 親戚とか?」
「それは秘密です。ですが………彼のことはよく知っています」
椅子に座って美織にプリンを渡す。それを食べるのを見てからまた話し始める。
「そうですね……彼、白亜は人付き合いが大の苦手でした。昔はそうでもなかったのですが、ある日を境に人と最小限にしか関わらないように努めるようになっていました」
「ある日?」
「………丁度、お嬢様位の年の頃です。突然、なんの兆候もなく両親が殺されました。その時恐らく初めて日本に来た魔獣に」
ピタ、と美織のスプーンを動かす手が止まる。
「彼は、それから二度と大切な人を作らないよう、人と関わることを極力減らしました。そんなことをしていたら当然目付きも性格も悪くなってしまい………」
呆れたような声色で小さく笑う。自分を嘲笑っているかのような、そんな笑い方だった。
「というのが、私の知っている白亜という人物です。友人が一人もいない、孤独な子供」
美織が手を止めているとリシャットがスプーンで一口掬って食べてしまった。
「あっ‼」
「食べちゃいますよ?」
「食べる! 美織のだもん!」
リシャットに取られまいとバクバクと食べ始めた美織に笑みを浮かべながらもう一度記事に目を通した。
『………会いに行かなくていいのですか?』
(俺はもうここでは死んでいる筈の人間だ。会いに行ってどうこうということもないし、今のままでも十分楽しいしな)
『あの方は喜ぶのでは?』
(かもな。でも、とりあえずは止めておく。あいつに会ったら色々と決壊しそうでさ)
頭をかきながら少し恥ずかしそうにシアンにそう言ったのだった。
「それでは、プリンも食べたご様子ですのでお勉強にいたしましょうか」
「そうだ。家に友達呼んでいい?」
「ご学友の方ですか? 私は構いませんが……旦那様には話されたんですか?」
「うん。リシャットに聞いてって」
大地も大分リシャットに頼っているところがあるようだ。
「そうですか。ではいつもより念入りにお掃除をしておきますね。おやつはどうしましょう?」
「んー、この前の苺のケーキがいい! 茶色のカップの」
「苺タルトですね。かしこまりました」
リシャットはシアンにメモっておいて、と心のなかで言ってから美織の持っている教科書を見る。
「っと、ご学友は何名いらっしゃるでしょうか?」
「皆‼」
「皆?」
「クラス全員と先生!」
「先生までですか⁉」
かなりの大人数になりそうだ。
「たしかお嬢様のクラスは36人でしたね。それと先生で37個作っておけばいいですか」
「あ、副担任の先生も来るから………」
「38個ですか」
「駄目?」
「いえ、作り甲斐があって嬉しいですよ」
実際にリシャットはお菓子作りは好きなのだ。暇があればなにか作っている。
「さてと、お勉強に入りましょうか。先ずはこの問題から―――」
美織に話しかけながら内心で苦笑する。
(そんなに生地無いや………。買いに行かないと)
買い物の予定も追加されたようである。




