「………子供も殴れないの?」
更新遅くなって申し訳ありません!
だってキーボードが何故か接続できなかったんだもん……(泣)
「あ、あつい……なんだこのねっきは」
「アスファルトに囲まれてるからな」
バテる欄丸とは裏腹に平然とスタスタと歩いていくリシャット。
【暑くないんですか】
「ある程度は大丈夫だ」
欄丸より暑さには慣れているのだろう。
「まずは日用品の調達だな」
「たべものはいいのか」
「ああ、それは最悪なんとかできるから」
魔力さえあれば作り放題である。
「………」
「んー、もう少し丈が短い方がいいかな………」
「リシャット」
「どうした?」
「なんだかみられているのだが」
「問題ない。大丈夫だ」
店に早速入ってリシャットが適当に見つけた服を欄丸に着せているのだが二人揃って目立つ顔立ちしているのでなにもしていないのに視線が集まる。
「ほんとうにだいじょうぶか?」
「多分な。そんなことよりもっと言葉練習した方がいいんじゃないか」
「よ、よけいなおせわだ」
大量に服を試着するのでその点でも無駄に目立ってしまっている。
「そんなことよりかねは」
「あるから」
「だが、さきほどからちらとみえるかねはみたことがないものだ」
「日本円も持ってるから。それなりに昔は稼いでたしな。とりあえず着ろ。これとこれ」
ぽんぽん洋服を渡され言われるがままにそれを着ていく。
「んー……じゃあこれくらいでいいか」
着た服の半分くらいをカートに放り込んだ。こんな適当に扱っているが、それほど高いものではないがこれ全部ブランド物である。
リシャット、割りと着るものには拘る性格のようだった。
「これをどうするのだ?」
「ああ、お前は店に入ったこと無いもんな。これをレジに持っていって金を払うんだ」
自分より圧倒的に大きなカートを押しながらそう言うリシャット。
すると、それを見ていた店員がリシャットの元へ行ってしゃがみ、リシャットと目線を合わせながら、
「お手伝いしましょうか?」
「あ………お願いします」
ガッツリ子供扱いされたことが若干ショックだったのか少し不満気な表情をしながら店員にカートを頼む。
とは言ってもリシャットの表情は殆ど変わっていないのでそれに気づいたのは付き合いの長いライレンくらいだった。
「お使いですか?」
「え? ああ、お使い……なのかな………?」
お使いにしか見えない光景だったな、と頭の中で考えつつレジに入る。
ピッ、ピッ、という小気味よい電子音が何度かなり、金額がどんどん膨れ上がっていく。
「リシャット。ほんとうにだいじょうぶなのか」
「多分な」
音がなり終わった。
「69820円です………」
子供が払える金額ではない額が出た。
お使い、というか手伝いに来たとしか見られていないリシャットではなく欄丸にそれを言う店員。
欄丸は訝しげな顔をして少し首をかしげた。
「これでいいですか?」
すると、誰からも見られていなかったリシャットが7枚の一万円札をどこかからか取り出し、カウンターに置く。運んでくれた店員さえもが目を見開いて驚いていた。
「き、君が持ってたの?」
「はい。この人日本語わからないから……」
お釣りを受け取りつつそう言うリシャットに唖然とする店員達。
「お買い上げありがとうございました………」
呆然とする店員達を尻目に大量の衣類の入った袋を持ってリシャットは外に出ていった。
「おい」
「ん?」
「なにいってるのかわからん」
「そりゃそうだろ。日本語だもん」
「ジャパニーズ?」
「ジャパニーズ」
そう。欄丸が理解できるのはロシア語のみである。
「い、いちからおぼえねばならんのか」
「そうだよ」
「なんだと」
ロシア語でさえ片言なのに日本語を新たに勉強しなくてはいけない事となった欄丸であった。
「きょうどこでねるのかきいていないのだが」
「取り合えずビジネスホテルだな。明日から仕事も探さないと」
「さがせるのか」
「身分証は………なんとかできると思う」
静かに目をそらしながらそう言うリシャット。
『裏ルート使うんですか』
「………」
「うらるーと?」
「お前は知らなくて良いと思う」
目をそらしつつ言うリシャットを不思議そうに見つめてライレンの方を見る欄丸。
「どういうことだ?」
【ええ、まぁ………知らない方が良いと思いますよ】
「?」
首をかしげる欄丸の疑問の声を遮るようにしてリシャット再び話し出す。
「詳細は後で話すから」
「?」
「それは良いとして………俺がこの国に来た理由って話したっけ?」
「きいていないとおもうが」
「だよな。…………多分直ぐ判る」
次の瞬間、少し離れたところから悲鳴が上がった。
「なんだ!?」
「…………行くぞ」
驚く欄丸を引っ張って悲鳴が上がった方にずんずんと進んでいく。そちらの方から人が走って来ているのでなんどもぶつかりながら、だが。
普通に歩いていく人やそれほど切羽詰まっているわけでもない人もいる。
「おもったよりにげていないのか………?」
「ここじゃ日常茶飯事なんだろうな。………あれを見ろ」
リシャットが指を指した方を見ると、二メートルはある機械のような生物がゆっくりと歩いていた。
「!?!?!? かいぶつ……?」
「亜人戦闘機。魔獣とも呼ばれている」
「まじゅう?」
「俺はあれを倒しに来たんだ。………何十年も昔、あいつらのリーダーを潰した………筈だった」
怒りが奥に宿る目を向けて手を握りしめる。相当嫌っているようだ。
「俺が……最後の最後でしくじったから。………いや、倒しかたを間違えたんだろうな」
あいつらは、時間が来れば数を元に戻す。と小さく声に出すリシャット。
「かずをもどす?」
「あいつらは………その名の通り、機械だったんだ。機械を作ってる根本を潰さない限り、やつらはその数を増やし続ける」
ここ数年で判ったことだけど、と付け足しながら一挙一動を見逃さないようにしているような目でじっと亜人戦闘機を見つめていた。
亜人戦闘機は手出しさえしなければ基本襲われることはない。が、なにが琴線に触れるか判らないので慎重に皆周囲を窺っていた。
「…………俺はまだ弱いからな。戦えるまで体が成長できてない」
「たたかえないのか?」
「………そうだな。50機相手にしてギリギリ位かもしれない」
本来はそれで十分なのだがリシャットがそれを許さない。
「最低でも今の十倍は動けるようにならないといけないだろうし………」
話の途中で突然後ろを振り向くリシャット。
「どうした?」
「………見られてる。そこの路地に、二人」
小さく溜め息を吐きながらその場を離れる。
「しりあいか?」
「まさか。多分そこらにいるチンピラだよ」
するとその路地に近付いた若い男が路地から出てきた手に掴まれて消えた。
「「………」」
【そのチンピラに捕まった人がいるみたいですね】
「………見ちゃったし、助けるか」
ここで見捨てるのは流石に酷いだろうと判断し、そこに真っ直ぐ歩いていく。
「おっさん。貧乏人に恵んでくれねぇか?」
「わ、私はそんな金は……」
「痛い目にあいたくないのなら金を出した方が懸命だぜ?」
二人の柄の悪そうな男に囲まれて身動きがとれない男性。
『こういう輩は何処に行ってもいるんですかね?』
(さぁな。まぁ、見慣れてはいるけど)
リシャットがわざと自分の手に持っているビニール袋を鳴らした。ガサガサ、とビニールが擦れて音がなる。
「………? なんだ、ガキかよ」
欄丸は置いてきた。子供一人の方が油断させやすいと考えているのと、狭い場所では正直に言うと欄丸が邪魔になるからである。
「すみません……道に迷っちゃって、お使いの途中なのに」
子供っぽい言い回しにするのはもはや諦めているので微妙にたどたどしく言ってみる。
「……ああ、教えてやるよ。その代わり、その手に持ってるものと金は貰うぜ?」
「それは困ります。叱られますので」
誰に叱られるわけでもないのだが適当に話を捏造するリシャット。
「へぇ? じゃあ………貰ってくことにするわ」
舌舐めずりをする男達を見て内心で笑みを浮かべるリシャット。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 子供に手を出すのは間違っているだろ!」
「なんだぁ? おっさんが何とかしてくれんの? ぁあ?」
「か、金なら払う。だが、その子は見逃してやってくれ」
「それならいいぜ?」
面倒臭いことになったなぁ、と小さく溜め息を吐くリシャット。
「………子供も殴れないの?」
面倒なのは嫌なのでガッツリ煽ることにした。一回殴られそうになったら正当防衛ということで手を出そうと思っているからである。
意外とやり口が汚かった。




