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無気力超能力者の転生即興曲  作者: 龍木 光
英雄の生まれかわり
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【いつも変なところに拘りますよね】

「リシャットー。お茶四人分淹れてくれる?」

「はい………じゃなくて、うん。誰か来るの?」

「ああ。来客だ。リシャットは知らない人だけど」

「へぇ……」


 依頼人かな、と一瞬考えて直ぐにティーカップやポットを暖める。たまに依頼人が直接訪ねてくる事もあるのだ。


 先日ハーブティー用のハーブを収穫しておいてあるのでいつでも飲めるように瓶に保存してある。


「どれにしようかな………」

【いつも変なところに拘りますよね】

「変なのか」

『普通はハーブから育てようとする人はいないと思います』

「へぇ……」


 お茶が好きなのでその辺りはちゃんと拘る。


「無難にダージリンか……アールグレイか……この前採れたばっかりのカモミールか……」

『もうなんでもいいと思いますけど』


 シアンにまで突っ込まれたので渋々ダージリンティーにすることを決めた。


 カップも暖まったのでポットにお湯を注ぎ、茶葉をそっと入れる。


『もう来ちゃいますよ』

「わかったわかったって」


 カップにお茶を注ぎつつ、お茶請けのお菓子を目で探す。


「あ、そういやブルーベリークッキー作ったんだった」


 これでいいか、と小皿に分けていれてお盆に乗せて運ぶ。右手が使えないので片手でも使えるように大きいお盆をヨシフが買ってきてくれたのだ。


「ヨシフさん。持ってきた」

「おお、じゃあそこに置いておいて。リシャットには悪いけど……」

「大丈夫。上にいるから」

「ごめんな」


 交渉事にはリシャットは向いていない。分かりやすいからである。とはいっても初対面の人には早々バレない。ほぼ無表情だからだ。


 慣れてくると、物凄い分かりやすい。


『………暇ですね』

「………暇だな」

【トランプでもやります?】

「男二人でやって何が楽しい」

【リシャットさんは厳密に言えば女性ですよね?】

「精神は男に近いからな」


 実は男で生きている時間の方が大分短いのだが、あまりに白亜としての習慣が身に付いてしまっているので未だに男子トイレに入ろうとしてしまう所がある。


「あ、誰か来た」

【見に行っていいですか】

「駄目。ミラさんみたいに視える人がいたらどうするんだよ」


 小さく欠伸をしながら左手一本で逆立ちをしつつ体を上下させる。


【よくそんなことができますね……】

「右手が使えないからな……なにかと右手に頼ってたし筋力も鍛えないと戦えないし」

【戦う気満々なんですね】

「その為に転生したもんだしな」


 リシャットは両利きである。だが、元々右利きなのでどうしても右手に武器をもって戦うスタイルになっているのでどうしても感覚が狂ってしまう。


『腕の調子はどうです?』

「んー……動かすと痛い。なんとか持てて中身入ってないカップ一つくらいかな」

『そうですか』


 治そうと努力はしているが、魔力はまだ回復していない。最近やっと半分回復したくらいだろうか。回復魔法は見た目よりずっと魔力消費が激しいのでポンポン使えるものではない。


 ギリギリをなんとか保って今の状態なのだ。


「ふぅ……324…325、326………あれ? 何回数えたっけ……?」

【次327です。けど、もう休んだらどうです?】

『そうですよ。右手に響きます』


 そう言われてはやめざるを得ない。ゆっくりと床に降りて欠伸をする。


『まだ魔力足りませんか』

「そうだな………。元々今の総量が少ないんだけどな」


 体を鍛えれば魔力総量は増えるのだが、本来そんなもの微々たる差である。リシャットは鍛えに鍛えたので筋肉の余剰分が全部魔力総量を増やしていた。


 毎日何時間も訓練していて細い体だったのは魔力にいっていたからである。


 元々シュリアの時から筋肉が付きにくい体なのだ。


「まぁ、これぐらいでいいか」


 汗一つかいていない。少し息が乱れている位だろう。


「って、あれ? ライレンのやつどこ行った?」

『恐らく応接室かと』

「はぁ………」


 行くなと言ったのに行ってしまったようだ。


【ただいま戻りました】

「なんで行った」

【良いじゃないですか。屋根の方から伝っていきましたし!】

「あっそ」


 どうでもいいとばかりに描いている途中のスケッチブックを開いて窓の外を見ながら鉛筆を走らしていく。


【それでですよ、話してたのがリシャットさんのことだったんです】

「………俺の?」

【なんか、身寄りがどうたらこうたらって】

「ふーん………確かに身元不明だからな、俺は」


 本当の事を明かすわけにもいかないので。まぁ、殆ど重要なことはリズに話してしまっているが。


「俺には基本関係な…………? 誰か来る」


 耳を澄ませると廊下を歩く足音が耳に直接入り込んでくる。恐らく来客の足音だろう。それも複数人、ヨシフの足音も混ざっている。


 来るからといっても何かすることもないので取り合えず絵を描くのを再開する。


 すると直ぐに部屋の扉がノックされた。


「リシャット。いいか?」

「どうぞ」


 鉛筆を持ったまま扉の方に振り返る。


「ほう………この子供が……」


 体重がヨシフの三倍はありそうな男がこちらを値踏みするような目で見ていた。その後ろには二人、細身の女性と男性がいる。


 全員年は同じくらい、40代前半か30代後半くらいの人達だ。


 因みにライレンは視える人がいると困るので屋根裏待機である。


「名前はなんだ?」

「………リシャットです」

「違う」


 名乗ったら違うと言われた。


「本名だ」

「………名乗る必要を感じません。何故言わなければならないのですか? 私の名前はリシャットです。少なくとも今は」


 真っ直ぐと硝子玉のような青い目を向けてそう言う。


「名前を言え、と言っているのだが?」

「リシャット」


 頑としてこの名前を突き通すつもりのようだ。


「はぁ………。お前の親が見付かるかもしれないんだぞ? 聞いたところによると紛争から逃げてきたとか」

「両親は死にました。目の前で」


 白亜の時の話だけど、と内心で舌を出す。


「親戚は」

「いません。というより、知りません」


 これも白亜の時の話だ。施設に入れられそうになったのを断固拒否して独り暮らしをこのときから始めたのだが。


「………探してやるぞ?」

「結構です。今の生活に満足していますし、何よりもし一人になっても生きていける自信があります」


 これが本当にそこら辺にいる子供だったなら一笑されておしまいだが、リシャットが言うとなんでもできてしまう人なのでそれが可能だと皆思う。


 実際、目の前に居る来客の三人は嘲笑うような笑みを浮かべているがヨシフは苦笑している。


 独り暮らしできるだけの能力があることを彼が十分知っているからだろう。


「…………」

「…………」


 相手が言うこと無くしたのか、リシャットの妙な迫力に圧されたのか判らないが双方無言の時間が流れる。


「……リシャットとか言ったか」

「……………はい」

「軍に入る気はないか?」

「?」


 本気で面食らった。冗談でいっているのかと思い、心の声を聞いてみるがどうも嘘ではないようだ。


『どうします?』

(嫌に決まってるだろ)

【ですよね……】


 早々に決断して、


「お断りします」


 キッパリとそう言った。


「お前の戦闘の腕は此方まで届いている。相当なものだと聞いたが?」

「先程も言いましたが今の生活に満足していますし、それに………腕の問題もあります」


 思うように動かせない右腕を押さえながら静かにそう言う。


「腕がどうかしたのか」

「以前、少し肩をやってしまいまして。右腕が動かせないんです」

「左利きなのか」

「………一応両利きです。ですが、右手の方がよく使っていたので」


 リシャットの初仕事のあれはあり得ないほど難易度が高かったそうだ。普段は無傷でも帰ってこれる物ばかりなのだがよりにもよってあの日、偶々ヤバイやつに遭遇してしまったらしい。


 あの狙撃主がやばかったそうなのだ。


 あの狙撃主も雇われていたそうで、誰も想定していなかった敵だったらしい。

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