「じゃあ、敬語禁止‼」
「ふぁあ……」
『そろそろ行きましょうか』
「んー………」
【寝ないでください!】
睡魔に襲われるリシャットをライレンが叩き起こしながらなんとか先程男達を吹き飛ばしたところまで行く。
既にヨシフ達が居た。全員体のどこかから血を流していたが命に別状はなさそうだ。
「リシャット! 大丈夫だったか!?」
「ぁあ………だいじょぶです……」
眠気で意識が朦朧としている。受け答えさえも心配だ。
「それにしても何がここで起こったんだろうな……」
「この縛ってある蔦、地面から直接生えてるんだけど………」
ついうっかり魔法を使った後を隠さないまま放置してしまっていたらしい。
「取り合えず、みんな無事で良かった」
「なぁ、さっきからリシャットの様子が何か変なんだけど……」
そうアルビナが言ったので全員の視線がリシャットに移る。
「………へ?」
ぼんやりしつつそれに気付いたリシャットが少し間抜けな声を出した。
「おい、起きてるか」
「おきてますよ………いちおう………」
「何かいつものリシャットじゃない」
「こう……なんというか………、そう! 子供っぽい!」
「一応子供だけどな」
目を擦りながらフラフラと歩いていく様は、寝ぼけている子供そのものだ。
「取り合えずリシャットは危なっかしいから背負っていくとして………証拠品抑えてさっさと帰ろう」
すると、遠くから車のエンジン音が聞こえてきた。
「くるま……きてますけど………だいじょぶですか……?」
「お前の方が心配になるんだけど……。それに関しては問題ない。俺が呼んだからな」
「なるほど………」
「お前もう寝ろ。背負ってやるから」
ヨシフはもう木にもたれ掛かって今にも倒れ込みそうなリシャットに背を向ける。
「りずさんをせおってあげてください………」
「いや、お前の方がヤバイだろ」
「りずさん………そうとうむりしてますよね……? へたするとこういしょうのこりますよ……」
意識はハッキリしていないものの怪我の様子は確りと観察していたようだ。
「俺たちは大人だから大丈夫なんだよ」
「でも………りずさんけがしてますよ……? おれはけがしてないので………」
もう、相当眠いのだろう。自分の事を俺と呼んでいることにさえ気付いていない。
「そうかもしれないけど」
「りずさんのほうがだいじです………」
殆ど目を閉じているからか全くと言って良いほど説得力がないが、言っていることにも一理ある。
『私が入れ替わりましょうか?』
(いい………だいじょぶ……)
【程々にしておかなかったからですよ】
(だって………やっておきたかったし……)
木を支えにしながらなんとか立ち上がる。その瞬間、右肩に衝撃が走った。
「くっ………!?」
眠気もプラスして意識が一瞬飛んだ。気合いで持ち直して右肩に手をやると正確に肩が撃ち抜かれて貫通していた。
「リシャット!」
視界の端でヨシフが動くのが見えたので、咄嗟に撃たれた方向に向かって叫ぶ。なんと言ったのかは誰も聞き取れなかった。発音すら出来ない筈の言語なので。
「ライレン!」
【はい】
「やれ。報酬はこれだ」
【了解】
リシャットの肩から勢いよく流れ出る血をペロリと嘗める。
「気持ちわりぃ………」
【生き血は触れないのが一番なので】
そう言って空に手を翳す。
ポツポツと雨が降りだし、突然それがバケツをひっくり返したような勢いになる。
【ククク、この人に逆らったのが間違いでしたね】
地盤が緩み、崖下へ落ちていった男を見ながら悪魔が嗤っていた。
「リシャット! リシャット!」
「起きてますって………」
「肩………もう動かないの?」
「いつか治りますよ」
失血によるショックで意識を失ったリシャットは、その後現れたヨシフの同業者によって一命を取り留めた。
貫通するまで銃弾が入ってしまったので右腕は動かせなくなってしまった。神経がやられてしまったらしい。
「大丈夫ですよ。きっと治ります」
「でも……私が足怪我してなかったらあそこで無理してリシャットが動こうとしなかったでしょ?」
「それは結果論であって関係のない話ですよ。もしあの時ヨシフさんの背に大人しく背負われていたところで誰か同じことになってたでしょうし」
腕が動くようになる確率はリシャットの計算では50%あるかどうかくらいだと考えている。
リシャットが気絶した直後、シアンがなんとか治療を魔力循環のみで行ってくれたのでまだ大分ましだったのだ。
「それにしてもあの狙撃主……物凄い腕でしたよね。数百メートル離れた場所から正確に当ててくるなんて」
リズの足は包帯で巻かれて固定されているがリシャット程の怪我ではなく、後遺症もなく治るそうだ。
「あの人……あの後の雨で足滑らして崖から落ちて死んだんだって」
「………そうですか」
「私も知ってるくらい有名な殺し屋だったの」
何でも屋と殺し屋。名は違えどやっていることは実はそう変わりない。
特にリシャット達のように荒事専門の何でも屋は殆ど殺し屋と同じだ。違いは賞金目当てでないことくらいである。
依頼されて人を殺すか、依頼されて人を助けるために殺すか、その違いだ。
「世界的に有名な人だった」
「…………」
リシャットは間接的にとはいえその男を殺したのだ。それをリズが知っているかどうかは別として、少しは堪えるものがある。
「………こんな暗い話しちゃ駄目よね。腕も痛いのにゴメンね」
「いえ……私も関与していますから」
「あ、そうだ。リシャットって素では俺って言うタイプ?」
「………あ」
そういや皆の前で俺って言ったな、と今更ながらに思い出す。
「そうなの?」
「………はい」
別に知られても損も得もないので正直に言う。
「私たちの前で、素になってもいいよ」
「………今も素のようなものですが?」
「そうなの? 友達にも敬語なの?」
「時と場合によります」
「じゃあ普段は敬語じゃないんだ」
それはそうですけど、と曖昧に肯定する。
「じゃあ友達に話すように口調変えてみてよ」
「それはちょっと……」
「えー?」
年上にはそれなりの配慮をしなければならないと考えているので。頑固なので。
「ふふふ、やっと顔が険しくなくなった」
「へ?」
「気付いてなかったでしょ? リシャット起きてからスッゴい顔怖いもん」
「う……」
左手で頬を摘まんで視線を逸らす。
「仮とはいえ、私達も家族なんだから」
「……はい」
「じゃあ、敬語禁止‼」
「はい?」
「禁止‼」
「いや、それはちょっと……」
結局敬語禁止命令が出され、リシャットがそれを断固拒否し続けた結果、ヨシフがそこに加わり家訓として敬語禁止が言い渡された。
リシャットにとっては裏切られたかのようなショックを覚えた。
そこから皆が右腕が動かせないリシャットのお見舞いに来た。ミラはリシャットが普通に座っているのを見て感極まってリシャットに飛び付いた。
右腕の治りが少し遅くなった。
キルサンは大量のジャガイモとチーズを持ってきた。何か作れと暗に言われていると気付くまで大分時間がかかった。
リシャットにとっては絶対に秘密にしておきたかったのだがリズとヨシフが新しい家訓を全員に伝え、それが全員に広まってしまった。
要は、全員に敬語禁止命令が出たのだ。
『もう諦めましょう』
【ですね】
「お前ら俺を見捨てる速度速くね………?」
おまけに能力のことも幾つかバレてしまった。もうこの辺りはどうでもいいかとリシャットも思っていたので仕方がないことだったのだが。
「リシャットー。火、頂戴」
「リシャットー。水、頂戴」
何かやたらとせがまれるようになったのはこの時からである。




