「いや、別にいらないんだけど………」
200部達成‼
それと新章突入です‼
いや、別に狙った訳じゃないんですけどね。
「……え?」
目を開けると、一面の銀世界だった。
「ん?」
どこだ、と声を出そうとした瞬間に目の前に笑みを張り付けた悪魔が見えてげんなりした。
【ここどこでしょうか】
「……俺に聞くな」
端からみれば子供が独り言をいっているだけのように見えるだろう。
それも、異様な格好をした子供。
その子供は、Tシャツ一枚、短パン、異様なほど大きなコート、マフラー。荷物は一切無い。しかも裸足。
怪しいことこの上ない。
「こんなところに送るなら………せめて靴が欲しかった」
【でも寒さは感じていないんでしょう?】
「それはそうだけど………」
裸足というのは色々と危険が伴う。氷で足を切る危険もあるし、何よりも凍傷になりやすいからだ。
だが、子供は素足を雪の中に突っ込んでいるのに一切それを気にしていない。
子供の服もそうだが、顔つきも異常だった。異様なほど整っており、髪は白銀、目は右が赤く左が緑。しかも両目の強膜が真っ黒に染まっている。
見るからに怪しいことこの上ない。
「………髪、変わってないな」
ポツリと呟いたあと、ぶつぶつとなにかを唱える。すると、髪と目が黒く、強膜が白く染まる。
ただ異様に顔が整った子供になった。
「来る」
【?】
「風の音で聞こえづらいけど、車のような音がする」
【わかるんですか】
「これぐらいはな」
悪魔が感心した瞬間に子供が長すぎるマフラーを裸足で踏んづけて前に倒れた。
「………」
【………】
子供が睨むと、咄嗟に明後日の方向を向いて誤魔化す。
「………まぁいい。それよりシアン。ここはどこだ」
『緯度と経度の計算、完了いたしました。地球儀で示すとこの辺りです』
子供の右目が一瞬真っ赤に染まり、強膜も再び黒くなる。それどころか、どうやら光っているようだ。
「ロシアか………これまた土地勘の無いところに飛ばされたな……」
しかしその変化も一瞬で、直ぐに左目と同じ普通の色に戻る。
「………ってことはスラブ系の髪色の方がいいのか」
『その方がいいかと。なにかと話が合わせ易いでしょうし』
再び髪色と目の色が変わる。少し長めの金髪に青い眼になった。
「おい、君!」
雪で霞んであまり見えないが、少し離れたところに男性がいるようだ。先程から聞こえていた車のエンジン音も止まっているので恐らく車を止めて降りてきたのだろう。
「何て格好をしてるんだ………大丈夫かい? ご両親は?」
「****」
「が、外国の子なのか……?」
テンパって韓国語で対応していた。
「あ、ごめんなさい………言葉わかるので、大丈夫です」
「そうか、よかった。それでご両親は」
「え、えっと………」
なんと言えばいいのか、迷いに迷っていると車が止まっているであろう方向から女性が歩いてきた。
「さっさとここ離れないと吹雪で進めなくなるよ!」
「あ、そっか。君、とりあえず私と一緒に来ないか?」
このままここにいても暇なだけなので首を縦にふる。
「じゃあ乗って」
車まで連れていかれて後部座席に座らされる。シートベルトが首に引っ掛かっていて少々苦しいがとりあえずそれは気にしないことにした。
直ぐに車が発進し、ガタガタとトランクにあるであろう何かが揺れてぶつかる音がする。
「それで……君は一体なんであんなところに?」
「そ、れは………」
「多分、紛争から逃げてきたのよ。ここからそう遠くないところであったそうだし、服も大きさがあってない上にかなり汚れてる」
大きさがあっていないのは手違いだし汚れてるのは先程盛大に転んだからだがこの際そういうことにしておこう。
「両親は………殺されたんだろう?」
「え、えと………」
元々両親なんていない。どちらにせよいないことには変わりないので首を縦にふる。
「どうする? 難民キャンプは少し遠いし、それに………いや、なんでもない」
「あんたまさか家で預かるって―――」
「駄目かな?」
「だ、駄目じゃないけど……子供には酷じゃないか」
一体どんな環境なのだ。しかしこのまま放っておいても難民扱いで何処かに連れていかれて孤児院行きになるのは確実である。
「お、願いします」
「え?」
「連れてってください…………家事全般は、できますので」
どういう言い回しをすればよいのか判らないので子供っぽいようでそうでもないような言い回しになっているが、一応意思は伝えられた。
「いいの? こう言っちゃなんだけど、大変だよ?」
「何が大変なのか判らないけど………大丈夫、です」
「そうか」
車を運転しながら男性が明るい声色で、
「じゃあ自己紹介からだな。俺はヨシフ・アルノルド。横にいるのはリズだ」
「君の名前は?」
「名前は…………」
なんと名乗るべきだろうか。
「言いたくないか?」
「そういう訳じゃ、無いんですけど……」
「そうねぇ。じゃあ、私がつけてあげる」
リズがニコニコしながら後部座席に顔を見せるようにして話す。
「そうねぇ……リシャット、なんてどう?」
「リシャット………」
「良いんじゃないか? リズのセンスにしては上出―――グボァッ!」
見事にストレートがヨシフの顔面にヒットした。それでも車はまっすぐ進んでいる。それなりに運転技術を持っているということなのだろう。
「どうかな?」
「はい。よろしくお願いいたします。リズさん、ヨシフさん」
「「よろしく」」
こうして、白亜改めリシャットはこの二人の家に厄介になることになる。
リシャットは窓の外を見ながら何故こんな事になったのか、思い返していた。時刻は数時間ほど前まで遡る。
「それじゃあ君をあっちに転生させようと思うんだけど」
「……なにか問題でもあるのか?」
「いや、さっき話した通り日本では気力持ちを感知できるように魔獣が進化しているのよ。だから、産まれた瞬間から狙われる事になるのよね」
それは御免被りたい。流石の白亜でも産まれたての零歳児の体では戦えない。
「というわけで、君の体はこちらで用意するよ」
「出来るのか?」
「当たり前でしょ! これでも神様だからね!」
胸を張ってヒュリがそういう。
【私の方でも用意できますけど?】
「なんかお前に頼んだら悪魔の体に入ることになりそうだからいいや……」
【割りと酷い言われよう………】
白亜はヒュリの方を向いて、
「頼みがある。シアンを………博識者を能力として貰うことは出来ないか?」
「おっけー☆」
「軽いんだな……」
「その辺は簡単なのよ。転生の方が大変なの」
ヒュリは小さくため息をついて白亜の方を見る。
「ここでひとつ提案なんだけど………日本以外の国に君を送る」
「日本だと国籍がないとおかしいからか?」
国籍を国民があまり持っていない国も少なくはない。ほぼ百パーセント持っている国はそれこそ日本位なのだ。
「それもそうだけど、日本にいると体が全然成長していないのに襲われることになるの。だから、ある程度成長したら」
「自分でいけと」
「そういうこと」
確かに、日本に突然飛ばされていきなり戦うことになったとしても自分が体に馴染んでいないのなら危険でしかない。
少し成長した体であっても恐らく2、3歳が限界だろう。
「判った。場所は任せる」
「うん。じゃあこれから宜しくね」
「よろしく」
握手すると、どこからか声が聞こえてきた。それは、妙に聞き覚えのある声だった。呼んでないのに夢に出てくる声である。
「なにも言わず出てくなんて酷いよー!」
「邪魔だ。くっつくな、暑苦しい」
「酷い!」
甲冑男………もとい、最高神チカオラートである。
「なんでここにお前がいるんだよ」
「酷いな……僕、君の門出を祝いに来たのに」
「門出……?」
「おめでとう! 君は正式に昇華したんだ!」
「は?」
チカオラートの言葉の数が足りておらず、何を言っているのか判らない。
「いやぁ、君、もう僕と同類だよ! やったね!」
「は?」
「あー、要するに………ハクア君、神様になっちゃってるわよ?」
「は?」
「今まではどちらかと言うと半神だったからねー」
「は?」
先程から、は? としか声を発していない。
その後のチカオラートの言葉を簡潔に述べると、白亜は今まで神力を持っただけの人間というカテゴリーだったのだが、今回地上で多く功績を挙げたために本当の意味で神様になってしまったのだ。
もう、完全に人間ではなくなってしまったらしい。
「まぁ、四回も記憶持ち越したらなっちゃうよねー」
とチカオラートが言っているが、そういうものなのだろうか。
「そうなると、何がいいんだ」
「不老不死になれるよ!」
「いや、別にいらないんだけど………」
「まさかの受けとり拒否!?」
その辺り正直どうでもいい白亜である。
「ま、でももうその特性持っちゃってるから!」
「おい」
既に遅かったらしい。
「それと、さっきの話聞いちゃったんだけどね」
「………」
嫌な予感しかない。
「僕が転生先決めてもいいかな?」
「やだ」
「即答!?」
きっぱりと即答する白亜。だが、チカオラートは止まらない。
「そうだなー、涼しいところの方がいいのよね」
「話を聞け」
「えっと、この辺なんてどう?」
「おい」
しかも確認を白亜ではなくヒュリにとっている。
「あ、そこなら転生できるわよ」
「え」
「はい、これあげるー。寒いだろうから、お父さんからのプレゼント」
「い、いらねぇ……」
マフラーやコートを無理矢理着せられる。
「じゃあ、いってらっしゃーい」
その瞬間、フッと辺りが真っ暗になった。
そして、目を開けたら雪の降る平原のど真ん中だったのだ。
「はぁ…………」
溜め息しかでない。チカオラートの暴走ぶりはますますエスカレートしていっているような気がする。
「リシャット。着いたよ」
いつの間にか、リズ達の家に着いていたようだ。
「ここが僕らの家。これから、君も一緒に住む家だよ」
「……………ぁ」
家を見て、声がでなかった。いや、小さく声は漏れたが。
普通のお洒落な洋風の家だ。だが、リシャットの異常なほどよく見える目はそれを捉えていた。
壁に、銃痕が残っている。しかも一つや二つではない。
「ふぅ………」
早くも、心が挫けそうになった。
勝手に名前を知らない人が付けるって変かな、と一瞬考えましたがこの先のストーリー上名前の変更は外せなかったので……。
なんで? と思ってもスルーしていただければ幸いです。




