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「成る程………。今ここで土手腹に大穴開けて死ねと」

「……? ヒュリは日本の神じゃないだろ?」

「半分正解で半分違うわ。私は地球の神に仕える天使のようなものだから」

「日本だけではない、ってことか。というと厳密に言えば神ではない?」


 独り言のように疑問をぶつける。


「正確には半神。熾天使と神のハーフなのよ」

「神って子供作るんだ………」


 自分もそれに近いことに気づいていない。


「話を戻すわね。君に日本に転生して欲しいって言ったのは―――」

「奴等の活動が活発になったとかそんな感じか?」

「ええ。気付いてたの?」

「いや、俺をもう一度転生させる利点って亜人戦闘機(奴等)との戦闘経験くらいだし」


 なんとなく判っていたのだ。あちらに赴く度、襲われる頻度が半端ではないのを判っていたからだ。


「それと恐らく、奴等は俺達気力持ちを見分けることができるようになってるんだろ?」

「それも判ってたの」

「大体、な」


 白亜の気力は普通の気力持ちの数百倍はある。その白亜が日本に再び転生したら、襲われるのは必須だろう。


「君は両親の仇がいなくなってそれでいいかもしれないけど、私たちからすれば急に出てきたあれを何とかしたいのよ」

「ああ、そうか………ん?」


 相槌を打って、今の言葉に疑問が浮かぶ。


「神なのにあれがなんなのか知らないのか?」


 チカオラートやジャラルは白亜が報告しなくても白亜の周囲の状況を白亜以上に知っている。


 白亜にとっては最悪なことだが。


 それを知っているから、何故あれの存在をよく知らないのか疑問に思った訳だ。


 神には、ある程度のことを見透かす力が多かれ少なかれ存在する。実は白亜の異常なまでの周辺把握能力はこの力が常時発動しているからだったりする。


 その事に誰も気づいていないが。


「それがね、誰も知らないの。私達より君の方がよく知ってるんじゃないかな」

「俺をあっちに転生させるってのはそれの調査も含まれてるのか?」

「御名答」


 正直ものすごく面倒だが、あちらにはやられはしないだろうが白亜の弟子が居るし、何よりひかりが居る。それに、記憶を持ち越して転生できるなら願ったり叶ったりだ。


「その話、受けることにする」

「本当?」

「気力持ちが襲われてるのなら俺にも責任はあるし……少し、気になることもある」

「え? なになに?」

「いや、確信が持てないから今のところは話すつもりはない。もし疑念が確信に変われば話すかもしれないけど」


 ハッキリした理由を見つけたら話すつもりだそうだ。その時に手遅れになっていたりしたら意味がないのだが。


「それと……すごーく言い辛いんだけど」

「?」

「魂の手続き云々で、その……私が直接君を殺した方が確実なんだよね……」

「成る程………。今ここで土手腹に大穴開けて死ねと」

「言い方酷くない?」


 何故土手腹に穴を開けると判断したのか。理由は簡単である。


 目の前にそれっぽい何かがあるからだ。


「なんだそれ………ドリル?」

「そんな物騒なものじゃないわよ」

「でも形状完全にドリルだし……そうじゃなくても確実に殺しに来てる装備だってのは判る」


 ヒュリの手に黒光りする先端がとがったドリルの少し長いやつのような武器が握られていた。


 白亜の知識を総動員しても見たことのない形状である。


 ドリルと言われればドリルだが。


「これは魂を体から綺麗に取り出す武器でね」

「そういうのって鎌とかじゃないのか」

「昔は鎌だったらしいけど、あれスッゴい殺りづらいもの。失敗すると地面に刺さって抜けなくなったり、肉体の方をボロボロにしちゃったり」


 鎌がどう進化したらドリルになるのか疑問だが、ヒュリ曰く、これが一番上手いところに刺さりやすく一発で死ねるらしい。


 正直、物凄く触りたくないというか殺られたくない形状だが、これが一番安全で確実な方法だと胸を張って言われてはなにも言い返せない。


「大丈夫だって。痛いの一瞬だから」

「痛いのは確実なんだな………」

「一瞬で痛みもなく殺る方法もあるけど、魂抜き取りづらいの」

「…………」


 怖くて仕方がない。


 別に死ぬことに関しては異論はないが、あれが目の前に出されるとなにか変なことをされそうな感じになる。


「それじゃあ、いくわよ」

「………」


 ヒュリの言葉の軽さが半端ではない。まるで遠足に行くかのような軽さである。今から殺そうとしている声色ではない。


「死んだら、体の方は君の仲間に引き渡すって事でいい?」

「え、いや、それは……」

「じゃあいっくよー」


 白亜が何か言おうとしているのにも気付かず突進を始める。ドリルの先端が高速回転を始めた。


「やっぱドリル……」

「違うの!」

「何が違うのかわかんないんだけど……」


 死ぬ直前の会話だとは思えないほど呑気な会話をしている。


「じゃあ、また後でね」


 激しい衝撃と共にこれまでに無いほどの痛みが白亜を襲った。









「……ハッ!」

「あ、起きたわね」


 起きあがって腹を見てみるが痛みどころか痕もない。


「死んだのか?」

「ええ。見事な死にっぷりだったわよ」

「なんかやだな……その表現」


 別に大声上げた訳でもない。意外にあっさりと即死したからだ。だが、


「普通に痛かったんだけど……」

「えー? そうなの?」

「腹が破れるかと思った」

「実際破れてたけどね」


 白亜の体は常に強化されていると思った方がいいほど頑丈だ。粗悪なナイフなどでは文字通り刃も立たない。


 その為白亜を殺そうと思うのならオーバーキルの攻撃を何発も当てる必要がある。


「あのドリル……相当高い攻撃力持ってんだな」

「ドリルじゃないって……。まぁ、貴方のような頑丈すぎる人のために開発したようなものでもああるし」


 白亜が無防備に受けたからというのもあるが、それを抜いてもかなりの業物だ。


「それで……聞きたいのだけど、いいかしら?」

「何を?」


 無言でヒュリが白亜の後ろを指す。


 白亜もそれにあわせて視線を後ろに向ける。


「………なんでお前が居んの?」

【いやぁ。これが契約なんですよね】

「は?」

【この前のハーフエルフを助けた時の貢ぎ物、これにしてみたんです】


 見れば、白亜の右腕に手錠がついている。その先端を冥王ライレンが握っている。


「…………説明しろ」

【勿論しますとも】


 ニコニコと嬉しそうにライレンが話し出す。


【今回の契約で頂いたのは『未来に付き添う権利』です。貴方は私から離れられません】

「…………だから、面白そうだとかなんとか言ってたんだな」

【ええ】


 これからこいつが付いて回るのか、と思ったら一気に疲れた白亜だった。

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