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「魔晶が見つからない………」

「……駄目だ。それだけはやっちゃいけない」

『何故そこまで言い張るんです』

「契約、だから。………一度でも同意してしまったら、もう破れない。破っちゃいけない」


 なにかを後悔するような言い方だった。


『頑なですね』

「契約を破ったら………俺も奴等と同類だ。それにここまでボロボロになって………会わせる顔がない」

『…………』


 白亜は約束事や規律を馬鹿正直に守るタイプだ。信頼できるものがそれぐらいしかないのだろう。


「あいつ等に………特にジュードには死にかけてる今の俺なんて見せたくない」

『それは、ただの見栄ですか』

「………そうだ。見栄だ。弟子にこんな姿見られたくないって意地張ってる馬鹿な野郎だよ」


 ハッキリと認めて、憎らしげに掌を見つめる。


「シアンは何が言いたいんだよ。俺……空気読めないからわかんねぇよ」

『自覚していらっしゃったんですね』

「自覚はしてたけど……空気の読み方が判らない」


 とりあえず自分が空気読めない人間だということを理解していたことが判明した。


 シアンは何故かそれきり黙ってしまった。









「次は………ここか」


 転移を終え、辺りを見回す。何故か人の気配が全くしない。


「一応ここは戦場の筈だけど……」


 念のために剣を眼前で構えながら開けた場所へ移動する。


「何があったんだ……?」


 地面がごっそりと抉られ、山があった筈の場所がクレーターになっている。それも、幾つもその痕が残っており、一つ一つの深さが十メートルはあるだろう。


 とりあえずクレーターの一つに降りてみる。


「特に気になるものはないな………」


 魔眼で状況を確認しながらゆっくりと中央へ進んでいく。


「何かが埋ってた痕………? こんなに大きなものが……?」


 白亜は地面の様子を見て、なにかを引き抜いたような痕を発見した。だが、そう考えると直径数十メートルの底が球体の何かがここにあったということになる。


 普通に考えてあり得ない。隕石でもなければ。


「もし隕石がここにあったとして引き抜き方がかなり雑なんだよな……。魔法でやったにしても攻撃魔法でかき出したみたいなものだし」


 あらゆるところに取り出そうとした痕がある。


 わざわざ出そうとしているのに扱いが雑すぎると白亜は感じたのだ。


「それにそんな事があったなら噂になってもいいはず……。どかした? 邪魔だったから? ………邪魔?」


 自分の考えに疑問符を浮かべる。


「なんで今邪魔なんて考えが浮かんだ? ん?」


 自分の考えたことに一番悩んでいる。


 そんなこんなしていると、中央に着いた。


「来たからって意味はないんだけど……」


 無意識に剣先を地面につけて、違和感を覚えた。


「……固い」


 まるで鉄をつついているような感覚だ。音はザクザクと土そのものだが、何故か白亜の力でも剣が刺さらない。


 白亜は片膝をついて手刀で地面を叩き割る。


「痛!?」


 ガゴン、と音がして白亜の腕が弾かれた。


 白亜の手刀で斬れないということはこの地面の固さは最低でも上級ドラゴンの鱗は超えている。


 白亜が弱っている事を抜いても相当な強度はある。


「…………」


 地面に向かって手を差し出す。が、なにも起きない。


「魔晶が見つからない………」


 魔晶とは、此の世の全てに魔力を分け与えるコアである。それが繋がっていないということは、ここら一帯はそれ以外の何かで魔力を補っている事になる。


 地面をくまなく調べあげたいところだが、現在白亜は強制労働中である。


「どうなってんだ……?」


 首をかしげながらその場から立ち去ろうとした。


「!?」


 急に現れた気配。それに大層驚いて数メートル飛び上がる。


 驚きすぎのようにも感じるが無理もない。白亜の五感は人のそれを優に超越している。第六感というものも備わっているのでその精度は半端ではない。


 臭いや声、空気の流れまで手に取るように周囲の状況を把握できる白亜なので突然気配が現れるということは初めての事なのだ。


「あら。ごめんなさい」

「え……? なんで急に……?」

「混乱しているようだけど、大丈夫かしら」

「も、問題は無いが………今まで気配なんて無かったのに……」


 予想外の事態に敬語が無くなっている白亜。


 基本、初めて会う相手には敬語で接する白亜だが、珍しく焦って混乱している。


「驚かすつもりはなかったの」

「いや……誰だって急に出てきたら驚くと思う」

「それもそうね。ごめんなさい」

「いや、別に謝られることなんて………っていうかこれどういう状況だ」


 ようやく我に帰ってきた。


「はじめまして、かしら」

「ああ、会ったことはない……と思う。少なくとも、話したことはないと思う」

「そうね。私は貴方を見ていただけですもの」

「今更だが……何者だ? 臭いも音も魔力さえ感じれなかった。能力が、反応出来なかった」


 女性がフフ、と小さく笑う。


「可愛いわね、貴方」

「突然何を」

「簡単よ。私は、人間じゃないもの。いえ、生き物じゃない」


 そう言われ、白亜の目が少しだけ細くなる。


「神族、か?」

「流石ね」


 パチパチと手を叩いて嬉しそうな顔をする女性。


「どうしてそう思ったか聞いてもいいかしら?」

「……先ず、心の声が聞こえない。生き物じゃないって言い回しもそうだし。後は、勘」

「いい勘を持っているのね」

「変なところで鍛えられたってだけだけどな……」


 割りと身近なところにチカオラートとジャラルがいるので。


「じゃあ、自己紹介するわね。私はヒュリクステア。ヒュリって呼んで」

「知ってると思うが……白亜だ」

「チカオラートさんから聞いてるわよ。イレギュラーが居るって」

「イレギュラー?」


 聞き覚えのない言葉に首をかしげる白亜。


「イレギュラーっていうのは、君みたいに人間から神に成った人のことを言うの。そのなかでも君は特に興味深い……」


 じっとこちらを見られ、視線をはずす白亜。


「あら。見てくれないのね」

「別に……たいして意味はない」


 少し残念そうなヒュリクステアに向き直り、


「それで、ここに来た理由は?」


 と、静かな声で言った。


「そうね……君の顔を見に来たってのもあるけど、君みたいな異世界の魂を流しに来たって言うのと、君にお願いがあって来たのよ」


 魂を流すというのは、ひとつの世界に魂が集まらないようにするための方法である。


 例えば日本とリグラートでは人の死ぬ頻度が段違いなのでリグラートの転生用魂がなくなってしまい、逆に日本に無駄に魂が蔓延してしまう。


 そうならないために定期的に異世界間で魂を流す作業をする必要があるのだ。


 ヒュリクステアは白亜の目をじっと見つめ、


「白亜君。もう一度、日本に転生してくれないかな?」


 と、そう言った。

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