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「俺だってこれでも今年で34だ」

「で、なんでこんなことになってるんだっけ……」

「いや、お仕事ばっかりじゃ疲れちゃうでしょ? 気分転換しよ?」

「気分転換か…………あれはちょっとやりすぎだと思うけど」

「ダイさんは……うん」


 ギシュガルドの街に来た一行は、久々の休みを満喫(?)していた。


 相変わらずどこか冷めている白亜はともかく、ダイは自分の小遣いだからと酒場の酒樽を幾つも空けている。


「なんか……前にもこんなことあったよな」

「あったね……」


 酒の飲み比べを何時間も続けていたのを白亜が放置したら帰ってこなかったので強制的に召喚陣で呼び出して帰らせたことがあった。


 二ヶ月ほど前である。


「白亜! 呑め! 折角の休みなのに堅すぎるぞ」

「呑まない。お前は遊び過ぎだ」


 溜め息をつきながらキセルを手のひらで弄ぶ。この動きが癖になってきて、一発芸みたいになってきている。


「白亜!」

「呑まないぞ」

「金をくれ」

「………おい」


 低い声でそう言うと、ダイが肩をすくめ、


「某の金があまり無いのだ」

「知らん」

「頼む! ちゃんと返す!」

「やだ。毎月全員平等に渡している。その中でやりくりできないお前が悪い」


 あまりにも正論過ぎる白亜の言い分に、ダイがすねた。


「少し某だけ少ない気がするのだが」

「全員一緒だよ。俺の方が貰ってないくらいだ」

「貯えはあるのだろう?」

「あれはもしもの時の貯金だ」

「むぅ………」


 ダイは上目遣いをしてみた。


「ぅわぁ……」


 絶対零度の視線が返ってきた。さすが白亜である。


「言っとくけど、金が欲しいなら自分で稼げ」

「酷いぞ……某、今割りと傷付いておるのだが……」

「知るか」


 踵を返してさっさと退散した。正しい判断である。


「あれで良かったのかな……」

「さあな。まぁ、自業自得だし」


 金遣いが荒すぎるのだ。


『これからどこか行くんですか?』

「そうだな………キキョウとルナは何か用事があるって言ってたし、ダイは武具を見に行くって言ってたし……ダイは、あれだし」


 酒場の方を見ながら溜め息をはく。


「何か欲しいものとかないの?」

「大抵要るものは自分で作るからな………」

「だよね……」


 本当に便利な能力(クリエイター)である。


『では、見学してみては?』

「ん? どこを?」

『以前、ここに来たときに見に来た………』

「あー。あれか」


 納得している白亜だが、リンはいまいちよく判っていない。


「どこ?」

「んー、行けばわかると思うけど……。特にリンにとっては勉強はなると思うぞ」

「行く!」


 返事を聞いてすぐに白亜が歩き出す。リンはその後ろをついて歩きながら、白亜の足音が聞こえることに一瞬表情を曇らせた。


 やはり、もう、時間は殆ど無いのだと。









「ここだ」

「? 魔石屋?」

「ああ。魔石を買いに来た訳じゃないんだけど……ジンさんいるかな」


 扉を開けるとカラン、と可愛らしいベルの音がなり、暖かい空気が体を包み込むように流れてくる。


「暖かい」

「ここは魔石屋だけど、魔方陣の販売とかもしてるんだ。空調がちゃんと完備されてるのはそういうことだ」


 ショーケースに並んだ小箱。その中にはぼんやりと輝きを放つ魔石が入っており、少し薄暗い部屋を美しく照らしている。


「はいはい、いらっしゃい……って、ハクア君じゃないか」

「お久しぶりです。ジンさん」

「見学かい?」

「はい。宜しいでしょうか?」

「勿論」


 リンが急に出てきた兎の耳を生やした小柄な男性……というか男の子に驚いていると、兎耳の男の子がカウンターを飛び越えてこっちに来た。


 流石は兎である。


「ハクア君。この人は?」

「兎人族のジンさん。ここの店主だ」

「そういうことだよ、お嬢さん。俺はジン。買い物してたときにあり得ない金額を提示されてな。俺、知らない内に買おうとしてて。ハクア君に正規の値段聞いてビビったよ」


 商売人なのにぼったくられそうになったようである。


 因みに、そのぼったくられそうになった品は魔力を通しやすい特殊なインクで、正規の値段でも一瓶100エッタ(約一万円)するほどの物である。


「あの時大きめの仕事を受けてそれなりに儲かってたから3000エッタくらい良いかなぁって思ってたんだよなー」

「そこで気づかないジンさんも凄いと思いますけどね……」


 三十倍の値段である。よく気付かなかったものだ。


「ハクア君が睨み効かせたら80エッタで良いって言うもんなぁ。ラッキーだったよ」

「は、はぁ……」


 流石は白亜の威圧である。特になにもしてなくても謝られるほど仏頂面の白亜なので威圧時の表情はそれはそれは恐い。


「で、お嬢さんは?」

「リンです……。ハクア君のパーティメンバーです」

「へぇ。ランクは?」

「20です」

「え?」

「20………」


 ジンの動きが固まった。


「マジかよ。スッゲー!」


 ぴょんぴょん跳び跳ねながら興奮する。


「え? じゃあハクア君は?」

「20です。というか、パーティメンバー全員20でして」


 20とは実質最高ランクである。


「スッゲー!」

「そうですかね……」

「そうだよ! こんなお嬢さんまで20だなんて」

「あの……私、ハクア君より歳上なんですけど……?」

「え」


 パッと見、白亜とリンは種族の関係もあり親子に見えないこともない。白亜の年齢がどう見ても若すぎるので兄妹に見られるが。


 白亜は一発で女だと言われたことは殆どない。白亜自身そう振る舞っているからだが。


「ごめんなさい」

「い、いえ。私、ニンフだから……」

「ニンフ? 珍しいな」


 転々と集落を移動させながら暮らす種族なので人里にあまり現れないのがその理由だ。


 過去に、精霊魔法が使えない事で迫害を受けていたためである。


「俺だってこれでも今年で34だ」

「お、お若いですね……」


 リンがなんと言えば良いのか判らず、そう返す。


「まぁ、兎人はあんまり成長しないし。寿命もそんな長くないからな」


 兎人族は大体10才で成人を迎え、70才程で寿命を終える。人間より少し短いくらいだ。


「おっと、本題を忘れるところだった。見学だったな?」

「はい」

「こっちだ。付いてきな」


 そう言いながらジンは小さな扉をくぐる。


「………俺、通れるかな」


 リンは行けるだろう。白亜がかなり微妙なところだ。


「取り合えずいってみたら?」

「ああ」


 入ってみた。スレスレだったがなんとか通れた。


「これ、ジュードだったら詰まってただろうな……」


 そもそも兎人用の通路なのだ。人間の大人が入り込むように設計されていない。だが、中は案外広かった。


「わぁ!」

「へぇ……こうなってたんだ」


 左側の壁一面に棚があり、魔方陣を書いた紙が入っている箱がぎっしり詰まっている。右側には何らかの機材が綺麗に整頓して並んでいる。


「これ、マジックポンプですか?」

「よく知ってるね。旧型だけど、パワーは抜群だよ」


 マジックポンプとは、魔力を溜めたり、魔石から魔力だけを吸いとったりする機械である。


「これが新作さ」


 机の上に、縦横一メートル位の紙を広げるジン。魔方陣が書かれている。


「ん……無音空間サイレントですか?」

「むぉっ! 当てられるとは思わなかった」


 無音空間サイレントはその名の通り、ある一定空間の音を消す魔法である。外からも聞こえない上、中の音も外には漏れない。


「ハクア君、よく使ってるよね」

「まぁ……結構使えるし」


 防音室がないこの世界、好き勝手楽器を弾ける空間が欲しいのでよく使っている。


 別に普通に弾いても誰も文句言わないのだが。

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