「判ってる。さっさと済ませれば済む話だ」
「こちらへどうぞ」
身分証の確認がとれた白亜達は詰所の奥の部屋に通された。因みにこの詰所は門とくっついているのでそれなりに広い。
「「「………」」」
話すことが見つからず、ただただ無言で歩く。ここに麒麟は居ない。連絡役なので一緒に行動しないのだ。現在外で待機中である。
コツコツと靴音だけが反響する廊下を進み、小さな部屋の戸を門番がノックする。
「勇者様。お客人です」
「どうぞ」
一枚の板を隔てて声が聞こえてくる。確認がとれるや否や直ぐに門番が戸を開けた。
「こんにちは。光の翼の皆様」
聞き覚えのある声、それもその筈。間違いなくあの勇者、リュウホウなのだから。
「………っ」
なんと話しかけたらいいのか、誰もわからずただ突っ立っていると白亜が一歩前に出て跪く。勿論、布の擦れる音ひとつさえしない。
「この度は指名依頼していただき、ありがとうございます。光の翼のパーティリーダーのハクア・テル・リドアル・ノヴァです。よろしくお願いいたします、勇者リュウホウ様」
視線を他のメンバーに向ける。取り合えず皆白亜と同じポーズをとった。
「私の地位など大したものではありません。お顔を上げてください」
覚えていないのか? そんな疑問が全員の頭を掠める。それはそれで好都合かもしれないが。
「………一つ、お訊きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか」
「なんですか」
「この度の件、何故私共のパーティに?」
「光の翼の噂はよく聞くので」
「そうですか。不躾な発言をお許しください」
この時白亜の右目が淡く光を放っていたのに気付くものは誰もいなかった。
「さて、問題はどこを誰が担当するかだ」
「今回は魔物の殲滅ですもんね……」
「ああ。それでだ、少し事前にキキョウに調べておいてもらっていた」
白亜が森の地図を広げる。その地図はかなり細かく記されている。
「このレベルの地図って軍事問題に発展するんじゃないかな……?」
「俺が空中から見た図をそのまま書いただけだ。風景画と考えればいいだろ」
『そういうものか……?』
白亜が湖の近くにペンを走らせる。
「ここが一番魔物が集まる場所だ。まぁ、水辺だしな」
『ここをマスターが一発打ち込みます』
「それは大丈夫なのか?」
「問題ない。少し派手なやつをやれば自然と集まってくるだろうし、この辺りは少し開けてるからやり易い」
要は白亜がデカイのを打ち込んで魔物全体の注意を白亜に逸らし、その隙にジュード達で動かなかった魔物を仕留めるらしい。
「この洞窟にはアンデッドが出るみたいだから聖魔法が使えるダイが行ってくれ。俺が行ければ良かったんだけど」
「無理するな。某一人で十分だ」
「そうか」
洞窟の所にダイ、と書き込みながら別のところに目を向ける。巨大な木があるところだ。
「ここはキキョウとルナが行ってくれ。精霊の泉がありそうだから」
「了解しました」
「うむ」
白亜はその後、真東と真西にペン先を向ける。
「ジュードとチコは東側、リンは西側に行ってくれ。……リン。一人だけど大丈夫か?」
「私もう大人なんだから」
「そうだな。じゃあ頼んだ。リンの魔法なら一掃できるだろう」
「うん」
この依頼が、白亜達が全員で受ける最後の依頼になることは誰も予想などしていなかった。
「それにしても疑問が残る依頼だな……」
『何故だ?』
「今回の依頼前にキキョウやスラム経由で色々と情報を仕入れてたんだが……どうも引っ掛かる」
『依頼の難易度ですか?』
「それもある」
今回の依頼、白亜が調べたところによると確かに魔物が凶暴化し、その数を増やしていた。だが、中級冒険者パーティ数組でなんとかやれそうなレベルでしかないのだ。
何故わざわざ金をかけてまで白亜達のパーティに申し込んできたのか。
白亜達のパーティ一つで済むから依頼料が低くすむというわけでもない。寧ろ白亜達最上級パーティを一回呼ぶなら中級冒険者パーティを数十呼んだ方が安く済むほどである。
「それに何で極秘にする必要があるんだろうか……? 貧民街の方で調べることができるほど周知の事実なのに」
『言われた通りに念のため全員に保護魔法を掛けておきましたが……』
『気休め程度にしかならんぞ?』
「俺が異常に気づければいいんだ。問題ない」
アンノウンを手の中で回転させながら状態を確かめる。
『………もう、大分御体が』
「判ってる。さっさと済ませれば済む話だ」
通信機からジュードが持ち場についたという連絡が入った。白亜は湖にいる魔物を見ながらアンノウンを地面に突き刺す。
「それじゃ、始めようか」
地面に通っている竜脈を少しだけ吸い上げ、自分の魔力を混じらせてから無理矢理地面に押し返す。
白亜の魔力は良くも悪くも濃密である。地面に流れる竜脈でさえ白亜の魔力程の威力はなく、その無理矢理作られた流れに逆らうことができない。
白亜の魔力がそれほどまでに強いのは、気力も混ざっているからなのだが、あまりに微量過ぎて使っている本人ですら気付いていない。
白亜の魔力が徐々に周辺に浸透していく。ある程度広がったと判断した白亜はその場から空中に飛び上がる。
「咲け」
ポツリとそう呟いた瞬間、業火を周囲に撒き散らしながら数メートルはあるであろう真っ赤な花が地面を突き破って現れた。
その周辺にいた魔物は消し炭になり、塵一つ残さずこの世から消えた。一番の被害者は業火が及ばなかった所にいた魔物だろう。火災旋風の如く熱風を孕んだ空気を吸い込み、肺や全身に火傷を負っているのだから。
「ここにいるやつらは戦闘不能、もしくは消滅したか」
『相変わらずえげつないな』
「言ってろ」
アンノウンの先端から透明な刃を出して周辺の警戒に当たる。白亜が咲かせた火炎花はただ火を撒き散らすための物ではない。一度咲くと強烈な香りを辺りに撒き散らすのだ。
吸い込めば麻痺は免れず、魔力の弱いものならば魔力の流れを乱されて死に至る。しかも、魔物を誘き寄せる香りも同時に放っているのでまるでゴキブリホイホイである。
「……来たな」
白亜が視線を前に向けると蜂がまるで黒雲のように一塊になってこちらに向かってきている。
「大方花の臭いにつられてきたな……」
この火炎花、確かに魔物が吸い込むと危険なのだが何故か虫系の魔物には一切効かないのだ。
なのでこういう場合、白亜が自分で倒さなければならないのだ。
「行くぞ」
『任せろ』
『はい』
空中に無い筈の足場を踏み締めながら薙刀の形をしたアンノウンを大きく振りかぶった。
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「何て威力だ……」
湖に上がった巨大な火柱を見て、そう声を漏らすジュード。
「私たちだって負けてないよ! ね?」
「そうだね。こんな弱気でいたら追い越せるものも追い越せないしね」
周辺に魔物が集まってきている気配がする。だが、それをジュードが手を出す必要はない。白亜の魔法で一網打尽である。
「僕達の持ち場は動かなかった魔物を倒すこと。判ってるね?」
「うん! 一杯やっつけようね!」
「じゃあ、行くよ!」
湖の方とは反対方向に走りだし、魔物を見つけては一刀両断していく。
「あっち!」
「任せて!」
チコの感覚に任せて魔物を追い詰めていく。気付いたら周辺には真っ二つになった魔物の残骸と流れ出た血が地面を覆っていた。
「昔は怖くて仕方がなかったのにな」
「ジュード強いから焦る必要ないってハクアが言ってたよ」
「師匠ってそう言うこと僕に直接言ってくれないからな……」
ジュードは苦笑いをしながら次の獲物を捜しに行った。
白亜ならばもしかすると気付いたかもしれない。そのジュードの後ろに黒い服を着た男がいたことに。




