「俺は、テルだ」
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「わ、我の意思に従いて――」
「あ、こんなところで魔法使わないでくれよ」
詠唱途中の小さな火種が白亜の手で握りつぶされる。本来、このように魔法を中断させると逆に爆発する恐れがあるのでやってはいけないのだが、白亜の場合触れた瞬間に魔法の主導権を替えることが出来るのでこんな荒業が使えるのだ。
「なっ―――!?」
「魔法を下手に使うと周りに飛び火するから、さ」
涼しい顔で刃も出していないアンノウンが軽く振り払われる。
しかし、白亜が使っているものは単なる棒でもなければ白亜が使っているのも棒術の範疇を軽く越えている。
振り払われただけで周辺の空気が爆発し、辺りに突風が吹き荒れる。空中でアンノウンを止めているのにその延長線上にある煉瓦は弾丸でも打ち込まれたかのようにヒビが入り、欠けていく。
「ん………俺に傷をつけたいのなら今の十倍は力込めて三倍は速くないと」
「煩い!」
つい、いつもの癖でダメ出しをしてしまう白亜。少年はポタポタと汗を飛び散らせながら白亜にククリナイフを突き付けようとする。
白亜はそれを笑顔で汗一つかかずに受け流し、ナイフどころか汗すらも避ける。
「そろそろ疲れたんじゃないか?」
「疲れてない!」
「俺飽きてきたからこっちからも仕掛けるけど」
先程から殆ど動かずに攻撃を躱し続けている白亜だがそろそろ飽きてきたらしい。
「っ!」
「それじゃあ、行くぞ?」
その瞬間、少年の耳元でパキン、という甲高い音が鳴り響いた。みれば自分の手に持っていた筈のククリナイフが白亜の手にあり、その柄の部分が握り潰されている。
「君は、まだやるつもりかな?」
「っ………降参だ」
「ん」
座り込む少年に満足気な顔を向ける白亜。本当に戦闘になると途端に表情豊かになる人である。
「姐御。終わったんすか?」
「ああ。終わった。………ほら」
「「「ありがとうございます!」」」
白亜が一瞬で机や大皿を懐中時計から出し、大量の食べ物がそこに現れる。そこに群がるデカイ男たち。シュールである。
「なんで……」
「ん?」
「なんでそんなに強いんだ?」
「俺が強い? 何処が?」
「「「は?」」」
その言葉に全員が疑問の声を白亜に向ける。
「姐御が強くなかったら何が強いんだ?」
「さぁ?」
「姐御より強いやつって居るのか?」
変な討論が始まったが、白亜は取り合えずそれを無視。
「それなりに人より力があるのは自覚しているけど……俺は強くはない。………強かったら何度も死んでないしな」
「姐御、なにか言いました?」
「いや、なんでもない。そんなことより一皿こっちにくれ」
小さめの皿が白亜に手渡される。
「ん」
「施しは、受けない」
「施し? 違うな。俺がここにいるのはこいつらに依頼をしているからにすぎない」
「依頼……? 貧民街にか?」
「そうだ。俺はここ………貧民街にいる人達にこの街の治安を良くするよう依頼を出している」
キセルを再び取り出して吸い始める。
「報酬は食べ物。貧民街に出入りするものたち全員が対象だ。勿論、君も」
「その依頼を受けるなんて、言ってない」
「受けなくてもいい。ただし、ここに食べ物を差し入れるかどうかは全部連帯責任だ。俺はこれでも顔が広くてね、何かあったら直ぐに情報が入ってくる。もし君がなにか仕出かした場合、この貧民街全員の飯がなくなるんだ。意味、判るか?」
もしそんなことがあったら、確実に貧民街を追い出されるだろう。貧民街を追い出された場合、本当の意味で路頭に迷うことになるのは確実である。
「……鬼畜」
「なんとでもどうぞ」
嫌でも受けなければならないのだ。さすが白亜とシアンの考えることである。一々えげつない。
「それじゃあ俺は帰るかな」
「あ、姐御。これでいいっすか?」
「ん? ああ、ありがとう」
紙を渡され、パラパラとそれを見た白亜が無言で皿に食べ物を追加した。悲鳴にも似た歓声が聞こえてきたが無視である。スルースキル半端ない。
「君、名前は?」
「………ない」
「ないのか?」
「捨てた」
「そうか」
貧民街の子供には名前がないものも少なくはないのだ。
「無いと不便だと思うけどな……。考えておいた方がいいんじゃないか?」
「なんで」
「俺の耳に届くのは名前での評価だ。たとえ君がなにか良いことをしたとしても名が判らないんじゃ報酬の増やしようがないからな」
白い煙を吐きながら無表情でそう言う。
「あんたの、名前は?」
「俺? 俺は白亜。ハクア・テル・リドアル・ノヴァ」
「やっぱり貴族だったのか」
「農村の出だし、両親が貴族というわけでもない。……いろいろあったんだよ」
実際の生活は貴族を遥かに越えて王族と同じような暮らしである。
「じゃあテル」
「ん?」
「俺は、テルだ」
「………それで良いのか?」
「いい」
「そうか。じゃあこれからよろしくな、テル」
白亜の手を、テルが握り返した。大きさがあまり変わらなかった事に白亜がいじけるのはその数秒後である。
「留守は頼んだぞ」
「お任せを」
数日後、あの依頼の日になった。
「お気をつけて」
「ああ。行ってくる」
「行ってきまーす」
各々挨拶を済ませたところで白亜が転移を発動させた。
「っと。ちゃんと着けましたかね?」
「さすがに失敗してないとは思うがな」
『たまに間違えるではありませんか』
シアンに突っ込みを入れられ、周囲を確認する白亜。
「臭いはこんな感じだったと思うけれど」
「鼻で判断するのやめた方が良いんじゃないかな……?」
「全くだ。なにか……こう、悪いことをしているような感じだぞ」
「言葉が繋がってないですよ、ダイ」
適当に臭いで判断する白亜に苦笑しながら歩く。
『それにしても便利だな。そなたの転移は』
「確かに便利だけど」
「本当、うらやましー」
チコが白亜の目の前を遮るように飛ぶ。
「ちょっとチコ! 師匠前見えてないから!」
「えー」
「いや、一応透視で見えないこともないから……」
「エッチー」
「エッチって………」
そんなこんなしている内に目的地に付いたようだ。
「ここかの? 妾が来たのは数十年も前だからの……」
「うむ。某も久し振りだ」
『ここから一応ギシュガルドです。街はもう少し先ですよ』
「そうですか」
白亜達が待ち合わせているところは此処なので別に街に行く必要はない。暇なのでどうせ行くだろうが。
「何者だ。身分証を提示せよ」
「冒険者です。ここで待ち合わせがあるのですが」
「待ち合わせ………勇者様のか?」
「ええ」
「これは失礼いたしました。数々のご無礼、お許しください」
門番がそう言ってジュードの前に跪いた。話していたのは白亜なのだが。
「え? あ、え?」
「ジュード。お前が混乱してどうする」
「そ、それもそうですね。いえ、無礼などとは思っていません。顔を上げてください」
何故白亜ではなくジュードに謝るのか。簡単である。白亜がリーダーっぽく見えないからだ。主に背丈で判断されている。
ジュードは王子でもあるので白亜よりもジュードに敬意をはらうのは当然なのだが、ジュードとしては白亜よりも自分の地位が低いとどこか勘違いしている節があるために立場が何故かおかしいことになっている。
「身分証を確認させていただきます」
全員が身分証を出す。門番はそれを預かると詰所へと走っていった。
「なんでいつも僕なんですか」
「俺が大人に見えないからだろ……」
「そ、そんなことはありません! 元気出してくださいハクア様! ハクア様は小さくなどありません!」
「キキョウ………。お主、白亜を逆に追い込んでどうする」
「そんなつもりはありません!」
その後しばらく、白亜の背丈が小さくないとキキョウが弁明し続けたがそれが白亜を落ち込ませる原因になったことをキキョウは知らない。
というか、全くと言っていいほど気がつかなかった。




