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「僕にとってはこれ結構難しいんですからね……」

「そうだな……此処に撃ち込んでみろ」

「大丈夫なんですよね?」

「別にヤバイほど威力があるわけでもない。俺の手刀の方が威力があるくらいだからな」


 白亜の手刀と武器を比べると殆どの武器はナマクラ判定になるだろう。


 それでも本番ぶっつけで試すわけにはいかないのでジュードも覚悟を決める。白亜の出した先程のものより数倍頑丈な壁に真っ直ぐ構えて魔力を充填しながら引き金を引いた。


「ちゃんと埋まってるな」


 壁をコツコツと叩いて確認し、


「じゃあやってみろ」


 と軽く声をかける。


「僕にとってはこれ結構難しいんですからね……」


 ジュードは撃ち込んだところに手をかざし、上に何かを引っ張りあげる動作をする。すると、そこから指二本分位の蔓が生えてきた。


「よし。一応成功だな」

「でもこれ相当疲れます……」

「慣れだ」


 この銃は弾丸一つ一つに種が入っている。撃った者の思考を読み取り、一定時間動かすことが出来る白亜の簡易属性魔法だ。


 実はこれを思い付いたのはヴォルカの魔法を出すカードを参考にしている。


「どれだけ離れててもジュードが意識さえすればこいつは動かせる。ただ、撃ち込んでから時間が経つと反応しなくなるから気をつけて」

「時間ってどれくらいですか?」

「魔力をどれだけ込めるかで変わってくる。全く込めなくても銃としては使えるから」


 市場に出回ったら大変なことになる。そうジュードが考えていると白亜はキセルをくわえ直して、


「それはお前にしか使えないように調節してある。安心しろ」

「ああ、それは安心………て、僕声出してました?」

「いや、聞こえた」

「ひ、人の心を読むの止めてください……」

「仕方ないだろ。聞こえるんだから」


 制御が未だに出来ていないようだ。









 白亜の一日のサイクルは殆ど決まっていない。


 何かあったら動くような人なので基本フリーダム(自由人)だ。勿論、配下にもそう言っているが全員がそうなると組織が崩壊すると判っているので交代制で仕事を行う。


「わ、若様! それは私共がやりますので……」

「いや、いいよ。どうせ暇だし。お前らは休んでな」

「そう言うわけにもいきません!」


 ………まぁ、暇な時間が嫌いな白亜である。基本なにかしら仕事をしているのだが。現在は洗濯板で洗濯をしている。別に洗濯機を創造者クリエイターで出せばいいものを、暇だからという理由でわざわざ洗濯板で洗っているのだ。


 寧ろ白亜の場合浄化の方が汚れが落ちるのだが。才能と時間の無駄遣いである。


 しかも洗っているのは自分の分は勿論、配下や王城で働いている人達の分まで入っている。


「若様にやらせたとスターリさんに知られたら私達は大目玉を喰らってしまいます!」

「俺が勝手にやったと言えばいいだろう?」

「それはその通りですが……」

「じゃあ問題ないじゃないか?」

「ああ、確かに………その通りではないです!」


 しかも、今冬である。雪までちらついている程の寒さの中、好き好んで洗濯する人などどれ程いるのだろうか。


「雪降ってきましたし! 私共がやりますので!」

「ん、雪降ってきたか。………まぁ、いいか」

「「「良くはないです!」」」


 本来数人がやるものを一人で終わらせているのだ。スピードはかなり早いのだが如何せん量が多すぎる。しかもあまり早くやると繊維が傷つくので白亜にしては相当ゆっくりである。


「……ん?」


 突然、手を止めて白亜が市場の方角を見る。


「どうかされましたか? というか、それ私達に下さい……」

「だから別に良いって……。新入りみたいだ。聞いたことのない声だから国外から来た侵入者かな」

「「「…………」」」


 さらっと侵入者来たよ、と言う白亜。元々ウィーバル等とは違ってリグラートの警備はガッバガバである。国王があんな感じなので。


「新入りって、スラムの?」

「だな。子供みたいだ。恐らく10才前後だろう」


 洗濯物を全て片付けて一瞬で乾かす白亜。もうそろそろ面倒になったらしい。


「そうするなら最初から魔法でやれば良いのに……」

「少しでも体は動かしておきたいんだ。鈍るし」

「そういうものでしょうか……」


 白亜が鈍ったとしてこの世に敵うものは居ないのは確かである。


「じゃあこれを届けておいてもらえないか?」

「はい。どこか行かれるんですか?」

「新入りの顔を見に行こうかなと。序でに差し入れも持っていこうとは思うけどな」


 手を振りながら一陣の風を残して音もなく去っていく白亜。


「………我々は契約獣として必要なのだろうか」

「「どうでしょうか………」」


 心からの疑問だった。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







 白亜が洗濯中の頃、スラムでは新しく来た『新入り』に古参の者が手を焼いていた。


「なんだこいつ、ガキの癖に変な戦い方するぞ!?」

「ちょ、取り合えず離れろ!」


 二本のグニャリと曲がった三十センチ程のナイフ……俗に言うククリナイフを手に持った10才前後の男の子がナイフに付いた血を拭いながら詰まらなさそうに溜め息を吐く。


「なに、こんなに弱いやつらばっかりなの? この街にはとんでもない奴等がいるって聞いて来たのに……ガッカリだよ」


 幼さが残る声色でそう言う。今こんな風にナイフを持っていなければ何処にでもいる子供にしか見えない。


「で、ここの元締めは誰? その権利、俺に譲ってほしいんだけど」

「も、元締め……って言ったら姐御になるのか?」

「まぁ、一応纏めてんのは姐御だよな………」


 白亜はまた少し別枠な感じもするが、取り合えずこのスラムの中ではもっとも地位が高い人だろう。


 住んでも居ないのに大層なご身分である。


「じゃあそいつ呼んでよ。話し合いで解決できない相手だといいなぁ………」


 戦闘狂を拗らせているようだ。白亜が軽度だとしたらこの少年は確実に重度である。


「あ、姐御を呼ぶのか……?」

「なんか、悪い気がするんだよな……」


 意外と礼儀正しい連中が多いのだ。何故かと言うと、スラムに来るもので本当に悪い連中などそう居ない。


 正直な人ほど報われない世の中である。要は良い人ほどスラムに来る確率は上がってしまうのだ。白亜の様に実力が伴っているのならば兎も角、殆どの人間にあれほどまでの力は備わっていない。


 本当に、どうしようもなくて居る人達が殆どなのだ。


「別に呼ばなくてもいいよ? その方がちょっと面倒だけど、君達を全滅させるなんて俺には簡単に出来ることなんだから」

「それは止めて欲しいな」


 ふわり、と音もなく着地する白亜。


「なっ―――!?」

「君が来てからいつ挨拶に行こうかって思ってたんだけど、少し聞き捨てならない言葉が聞こえたものだから走ってきた」

「姐御!? 今日は来る日じゃない筈………」

「だから言ったろ? 聞こえた(・・・・)って」

「相変わらず、どんな耳をしてるんですか」

「俺だって好きで耳が良いわけではないからな」


 不思議な色の目を目の前の少年に向けながら煙を吐き出す。


「それで? 君は何者だ? 臭いからして北国………カリエスの辺りか」

「気持ち悪いな、あんた」

「自覚してるよ」


 真顔で至って真面目に挑発を返す白亜。否、挑発を挑発と受け取っていないのだ。まさに天然記念物である。


「あんたがここの元締めでいいんだな?………随分と良い暮らしをしているみたいだな」

「俺がここの元締めってのはあってるようで間違ってるような気もするが……一応この辺りのことはよく知っている」


 キセルを手に持ちながら小さく欠伸をする。それを少年は挑発と受け取ったようで、少年が一気に殺気立つ。


「欠伸なんて……随分余裕なんだね」

「これは魔力が足りてないからってだけでリラックスしてるわけではないんだけどな……」


 少年が白亜に飛びかかる。ククリナイフは白亜の首狙って真っ直ぐ振り下げられた。その瞬間、少年がピクリとなにかに反応して大きく後ろに後退する。


「っ………!」

「来ないのか? 少し君と同じことをしただけだぞ?」


 白亜の体がうっすら金色に光を放っている。聖の力……レイゴットでさえこれを見たら即逃げる体制になるほど濃密になっている白亜の力。


 ここ数年で総量も増しているのでレイゴットなら何とか五発は耐えれるけどラグァなら一発で即死する程の威力も兼ね備えている。


「殺気は相手を威圧する力だ。あまりに濃密なものに慣れてない者が触れると気絶してしまうけれど」


 路地の端で倒れ込んでいる者が続出しているのを見ながら苦笑する。


「君は、まだ耐えられるみたいだね」

「あたりまえ、だ!」

「これ以上やると外に漏れるから止めておくよ。じゃあ普通のぶつかり合い、やろうか」


 キセルをしまいながらそう、低い声で言ったのだった。

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