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「貫通しましたけど」

 これから暫く、1、2週間程あまり更新できないかも知れません。


 なるべく早く上げられるよう、努力はしますが……。

「そういうことだから、依頼の後に海人を日本に帰すことになったけど、それでいいか?」

「いいけど……今すぐは無理なのか?」

「無理じゃないけど、魔力を溜めておいた方が万が一何かあったときに対処できるし」

「へぇ」


 白亜としてはいつでも行ける場所なので何度も行くのも面倒臭いと考えているのもある。


「………ん?」


 何かに気づいた白亜が壁に額をつけて目を瞑る。


「何やってんの?」

「音を聞いているんですよ」

「わっ!?」

「驚かせてしまい、申し訳ありません」

「ああ、白亜の契約精霊の……」

「ウンディーネのキキョウと申します」


 小さな体でペコリとお辞儀するキキョウ。


「それで、音を聞いているってどういうこと?」

「ハクア様の能力の一つ、万物の呼吸。全ての物から声を聞く力なのですが、ああやって何かを仲立ちしながら音を聞く方がよりハッキリと分かるそうです」

「能力ってことは俺の暗殺者アサシンみたいな?」

「ええ」


 白亜の場合、音を聞くというより空気の振動を感じているので、何かを伝った方が判るのだ。


「他にも能力あるのか?」

「はい。シアン様(博識者)創造者(クリエイター)ですね」

「三つもあるのか」

「そうですね」


 普通一つでもついていれば十分すぎるほどなのだが。


「……やっぱり」

「どうされましたか?」

「ギルドから何人か人がこっちに来ているみたいだ」

「何方でしょうか?」

「判らない。聞いたことない足音だ」


 首をかしげながら外を覗く。


「見えないけど?」

「まだここから見えない。路地を歩いているようだったし」

「よくそこまで聞こえるな………」


 白亜はキキョウに目を向ける。


「頼めるか?」

「お任せを」


 その一言で白亜が何を言いたいのか察したようで、キキョウが窓の外に飛んでいった。


「何頼んだんだ?」

「監視。キキョウは水さえあればどこからでも見えるから。俺の魔眼だと光るからバレるし」


 さらっととんでもないことを言いながらキセルを手で弄び、口にくわえなおす。


「何もなければ良いんだけど……」


 面倒臭そうにそう言ったのだった。









「それで、人数を絞らせていただきたいのですが」

「良いと思うよ。最悪ハク君一人でも問題ないだろうし」

「はい」


 通信機でアシルと会話しながら封筒に入っていた詳細の紙を読む。


「黒封筒だからとんでもないことかかれてると思ったんですが、そうでもないですね」

「じゃあ受けるってことで連絡いれるけど良いかい?」

「ええ。それでお願いします」


 通信機に流していた魔力を遮断し、通信を切る。


 紙に書かれている事は、極々一般的な討伐依頼の内容だった。


「気にしすぎなのか……?」

『そうでもないと思いますけど』

「それでもここに書いてあるのは割りと普通なんだよな」

『普通すぎて逆に何か怖いがな』


 シアンとアンノウンが交互にそう言う。


「それもそうだけど……」

『何かあることは多分間違いないだろう。相手はそなたを殺しかけたことも覚えてはいるだろうからな』

『メンバーは最低限にまで絞りましょう。リストアップはどうしますか?』

「頼む。取り合えずこの件はシアンに任せる。俺じゃ危機感ないから」

『自分で言うか』


 自覚してるなら危機感持てば良いのに、とアンノウンは一瞬そう思ったが、残念ながら白亜がそう言うところ(人の気持ち)にあり得ないほど鈍感なことを思い出し、言うのをやめた。









「ってことで、俺とジュード、リンは絶対として、スターリとキキョウ、チコ、ルナ、麒麟ヴィントガルダ(トラオム)で依頼を受けることにする」


 白い紙に名前を書き込みながら全員に伝わるようにそう言う。


「それから、ダイと朱雀カーロ青龍プロテッツィオーネ白虎エスペーロで各々組んでエリウラとここを守ってもらいたい。割り振りは任せる」

「「「はい」」」

「それから、うまく連絡が取り合えなかった場合の為に各グループで足の速い者を連絡役で入れておいてくれ」


 依頼組に麒麟ヴィントが入っているのはその為である。


「じゃあ解散。連絡役になったやつは後で俺に一言言ってくれ」


 ぞろぞろとサロンから人が引いていく。白亜はそれを見送りながら小さく欠伸をする。


「師匠。もしかしてまだ戦える体じゃないのでは……?」

「依頼日までに何とかする。そんなことより、ジュードに渡したいものがあったんだ」


 懐中時計から銀色の金属の板で囲まれた箱が出てきた。片手でなんとか掴めるくらいのサイズである。


「これは?」

「細かい使い方はその都度話す予定だが……まぁ、簡単に言えば俺の魔法と似たことが出来る武器だ」

「この箱が?」

「正確にはその中身だな」


 よくよく見てみると、箱の端に金具がついている。そこを引っ張って開けるようだ。


「見てみても?」

「どうぞ」


 カチャン、と硬質な音を周囲にばらまきながら蓋がゆっくりと開いていく。


「これ、師匠が昔見せてくれた……」

「ああ。銃だ。この形にしたのは色々と意味があるんだが……まず手に取ってみろ」


 ジュードがゆっくりと小型の銃……所謂ピストルを持ち上げる。


「思ったより、少し重いです」

「中の弾が重いからな。試しにこれに撃ってみろ」

「い、いきなりですか!?」

「大丈夫。これだけ的が近かったら早々外さないし、もし外れても俺が何とかする。音も殆ど出ない仕様にしてあるしな」


 創造者クリエイターで分厚いパネルを作り出し、ジュードの正面に固定する。


「こ、これどうやってやるんですか」

「そこのセーフティーをサム……親指で」

「セーフティーってどれですか……?」

「………」


 白亜が一通りジュードにレクチャーする。


「ここを外して……えい」


 妙に可愛らしい掛け声と共に引き金が引かれる。パスッと銃の音というより子供用のBB弾の玩具の銃のような音が出る。


 だが、これを作ったのは他でもない白亜である。そんな可愛い威力の筈がない。


「師匠」

「ん?」

「そのパネル、どんな材質ですか?」

「これは………それなりに固いぞ。煉瓦の数倍は強度あるし」

「貫通しましたけど」

「綺麗にそれ以外の破壊は無いな。思ってたより強い」


 見事に貫通し、真ん丸な穴が白いパネルにぽっかりと空いている。


「貫通してどこ行ったんですか!?」

「ああ、それは」


 パッと白亜が手を開くとそこには黒い米粒ほどの弾丸が握られていた。


「貫通した瞬間に危ないと思ったから掴んだ」

「掴……まぁ、師匠ならできますよね……」


 もう、どうにでもなれば良いのだ。


「やっぱり外で練習しよう。そっちの方が安全だな」

「ですね……」


 とんでもないものを貰ってしまったかもしれない、と今更ながらにジュードが小さく溜め息を吐いた。

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