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「それじゃあアシルさんが持ってきた厄介事の話をしようか」

「師匠。また誰か連れてきたんですか」

「ジュード。こいつは海人。日本人だ」

「そういうことですか。よろしくお願いしますね、カイトさん。僕は師匠の弟子でジュードといいます」

「ああ、よろしく」


 もう白亜が誰かつれてくるのは日常茶飯事になっている。王城の警備機能しろ、と言いたいところではあるが、白亜が警備に関しては最強レベルなので白亜さえいれば大抵のことは解決してしまう。


「そういえばアシルさんが伝言を伝えに来られましたよ」

「アシルさんか………。また面倒事?」

「アシルさん=面倒事ではない……と言いたいところですが、その通りです。なんでも国外から光の翼の指名依頼が入っているそうで」

「国外……。どこだ?」

「ギシュガルドです」

「ああ、聖地か………」


 一瞬考え込む動作をして、


「とりあえずその話は食後にサロンで話そうか。ダイ達は居るか?」

「はい。ですが、ルナさんがエリウラに」

「俺が後で迎えに行こう。連絡は頼んだ」

「はい」


 サラサラとまるで話す内容を最初から知っているような反応速度で話し終わる白亜。ジュードと一旦別れて城内を進んでいく。


「……本当に頭はいいんだな」

「そう言われるとな……。俺が気力を手に入れたときに思考能力が三倍になったから」

「どゆこと。ってかそれってIQが300とかそんな感じ?」

「最初から180だったから、今は540だな。自覚してたからIQテストは全部サボってた」

「……………」


 もう、話が飛びすぎて意味判らないことになっている。


「説明受けてもわかんないんだけど……」

「IQが540ってことだけ覚えときゃいい」

「あ、ハイ……」


 本当に説明が面倒になったようだ。









「全員集まったな」

「「「はーい」」」


 各々椅子を持ってきていたり、立っていたり床に座っていたりと様々な体勢でサロンに集まっている。


「それじゃあアシルさんが持ってきた厄介事の話をしようか」

「そういうのはどうかと思うのだが……」


 ダイがすかさず白亜に突っ込みを入れるも、白亜は見事なまでに自然な流れでスルーする。


「ジュードから全員に大方の話は?」

「しました。内容は話していませんけど」

「それでいい。で、ギシュガルドの指名依頼だが」


 懐中時計から少し集めの黒い封筒が出てきた。


「黒封筒………。ギルド絡みでは無さそうですね」

「俺もまだ中身は確認してないんだけどな」


 キキョウが白亜の左肩から顔をつき出す。因みに右肩にはルナが乗っている。


 白亜は人差し指を封筒の端に当て、静かに動かす。すると、封筒がカッターで切られたかのようにぱっくりと開いていった。ペーパーナイフ要らずである。


 今やったのは手刀の応用で、柔らかいものや傷つけられないものを切るときに指一本で切ることで周囲への被害を最小限に抑える体術である。


 どこを切ればいいのか、繊維レベルで見える白亜以外使えない物ではあるが。


「読むぞ。【上級パーティ光の翼殿 汝等の功績を耳にし、依頼を申し込む。近頃森の魔物が急速に増え、凶暴化している。その魔物の殲滅、原因を調べてもらいたい。また、此の依頼は極秘任務故、口外はしないで頂きたい。より良い返事を待っている】……………ぁ」


 読み上げた直後、白亜が突然黙った。


「どうかしたんですか?」

「これ、差出人………リュウホウって書いてあるんだけど」

「「「…………」」」


 リュウホウ。竜族勇者の名前である。白亜が殺されかけた相手であり、世間的には魔王殺しの英雄である。


 残念ながら白亜も魔王も存命どころかヤバイくらいに力をつけているのだが。


「……どうする?」

「主殺そうとした奴。信頼できる余地がない。直ぐに断るべき」


 スターリが椅子から立ち上がって言葉の端々に怒気を込めながらそう言う。珍しく長文である。


「妾は受けた方が良いとは思うぞ? ウィーバルを敵に回した以上、此方の味方は多い方がよい」


 白亜の右肩からルナが落ち着いた様子でゆっくりと話すと、スターリがルナを睨み付ける。


「危険が伴う。主は私達を守ろうとして無茶する。主が強くても私達が弱いから結果主が傷つく。それはダメ」

「別にそうとは言っておらん。ただ、妾はもう暫くで完成するエリウラが攻められた場合、少しでも味方が多い方がいいと思っただけのこと」

「落ち着け、二人とも」

「………了」

「うむ」


 静かに白亜からそう告げられ、スターリが椅子に座り直す。


「スターリの言いたいことも判らないでもないけどな。俺たちが人質………じゃねぇな。獣質になった場合、戦うのは若旦那だろうし」

「ですが、人間達の中で勇者という者の立ち位置はかなりなものです。貸しを作る良い機会では?」

「そうとも言えませぬ。事実、若様が殺されかけている以上、目的の為ならばどんな手も使う相手かもしれませぬ」


 白虎エスペーロ朱雀カーロヨルムンガルド(ノクト)がそう言い、そこからは徐々に発言が増えていく。


 白亜は暫く止めずに自由に話し合いをさせる。数分が経ち、声も減ってきたので一つ柏手を打つ。静かにしろ、という合図だ。


 白亜が手を叩いた瞬間に全員が口を閉じる。その動きは見事なまでに揃っている。


「さて、もう良いか? 多数決を取るぞ。……だが、一つ気になることがある」

「なんでしょう?」

「なんでこれが極秘任務なのかってところ。それこそギルドで大量に募集かけて人海戦術すれば良いだろうに」

「確かに、そこは私も気になっていました」


 光の翼の人数(全員人外)はかなり多いパーティではあるが、もし人数を一つのグループで揃えたいのならクラン(複数パーティの集まり)に依頼を出せば良い。


 それに、見たところ特別な魔物が居るわけでもなさそうなのに極秘任務にされている。もしこれがランク15オーバーの上級竜が頻繁に出てくるような場所であれば白亜達のところに指名が来るのも納得できる。


 なにか後ろめたいことでもあるのだろうか。


「もしも、スターリの言うように罠の類いだった場合。俺達をこの城から追い出すためなのか、それとも俺達自身を狙っているのか、もしくは」

「エリウラの街の、破壊」

「だろうな。可能性としてはそれが一番高いと思う。数年に渡って建設している街だ。どこからか情報が漏れていても仕方がないだろうし」


 キセルをくわえて唸る。


「本当だった場合、俺達は森の魔物を見過ごしたってことになる。ギルドの評判も下手したら落ちていくだろうな。その可能性はかなり低いが……」

「師匠、知りあい沢山いますもんね」

「まぁ、な」


 白亜の力にすり寄ってくる大人を見分ける方法がなんとなくわかっている白亜は相手が信用できるかどうか、一目見れば大体分かる。


 かといって勇者に会ったのは8年も前の話である。1年でも過ぎれば人が心変わりすることも十分あり得るのに流石に昔の印象で決めつけるのは危険だ。


 魔眼を使えば良いのだろうが、白亜は根が真面目なので使わないよう努めるほどである。宝の持ち腐れのようだが、白亜は魔眼をちゃんと使いこなせるので良いのだろう。


「依頼を、受けないっていうのはどうかな……?」

「リンは反対派か?」

「ううん。中間。受けないけど、魔物は倒す」

「どうだろうか………。良い案ではあるけど」


 リンが丁度ど真ん中の案を出してきた。


「でも、確かにそうすれば日時とかも知られないし」

「全員が行くこともない」

「成る程。先に全部終わらせてしまう、か」


 その後も暫く討論が続き、


「全員、シアンに念話を送ってくれ。俺にやらないよう注意しろ」


 白亜は基本、何事も多数決をする。その時に役に立つのがシアンだ。シアンに念を送れば、誰にも知らせることなくどれかに投票できるし、開票もシアンなのでいつの間にか終わっている。


 白亜に似て、処理能力が半端ではないのだ。


「……でた。今回の件だが、受けることにしよう」

「「「はい」」」


 多数決の結果、受けると回答したのがギリギリ過半数を越えたのでそれで決定した。

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