「………悪口じゃねーか」
短く感じますが、文字数いつもと同じくらいです。
「そこに座って」
相変わらず整頓されているのか汚いのかよく判らない白亜の部屋の中央に椅子を持ってきて男を座らせる。
「えっと、今から何すんの?」
「適性検査」
「は?」
右手の袖から数本蔓が出てきていて、何らかの資料を白亜に見えるように広げている。
「さっきも思ったんだけど、それ何?」
「それ……? ああ、蔓か」
一体どこから生えているのか気になるところである。
「これは俺の属性魔法。魔晶属性って言うユニーク属性だ」
「ユニーク属性何てあるのかよ」
「俺もよくわかってないけど」
白亜の右目が紅く光を放つ。資料と男をチラチラと見て、手に持っている紙に書き込んでいく。
「あ、あんたの能力は『暗殺者』で合ってるか?」
「ああ。そうだ」
「あっちに戻れば消えるが、それは了承してくれ」
「わかった」
男はカチャカチャと何かを弄くりながら白い煙を吐き出す白亜をしばらく見つめ、
「なんでここまでしてくれるんだ?」
「何を?」
「俺がいたらお前絶対に狙われるぞ」
「そうだな。消されるかもな」
「なんでそんなに冷静なんだよ」
ピクリ、と白亜の鋭い目付きが一瞬更に鋭くなる。
「さぁな。死ぬのに未練がないからかも知れない」
「未練がないって……」
「あんたは俺が最後自殺みたいな死に方したのは知ってるか?」
「自爆したとは聞いたけど」
「あの時、俺はどちらにせよ長くはなかった。精々生きれて数ヶ月だった」
手を紙に滑らせながら小さく話す。
「病気だったのか?」
「いいや。体はこれまでにないくらい健康だったさ。俺以外の人間はなんで俺が早まったような行動をとったのか、知りもしないだろう」
「…………? よくわからないな」
「表現が面倒くさいのは無視してくれ。……気力って、恐ろしい力だとは思わないか?」
「それは、確かに」
「人なんてわりと簡単に死ぬんだよ。一発撃たれただけで死ぬし、足を滑らせただけで頭打って死ぬこともある。そんな脆い生き物が突然あんな力を手に入れられると思うか?」
全てを凍らせるような冷たさを持つ声でそう言う白亜。
「あの力は悪魔の力だ。俺が全部差し出して手に入れた力。寿命を削り、人を壊す力だ」
「悪魔って……」
「地球にも居たんだよ。人間ならざるものが。此方だとわりと干渉は自由だが、地球だと干渉が絶対に許されないものだから」
「でも、お前は取引できたんだよな?」
「禁術の類いだったみたいだけどな」
その言葉に引っ掛かりを覚えた男性は再び白亜に問う。
「知らずに使ったのか?」
「判断力が備わってなかっただけなような気もするけどな。何せあれを呼び出したのが中一の頃だ」
「子供じゃねーか」
「子供だよ。結果、寿命の大半を引き渡して気力を手に入れた。でも、後悔はしていない」
キセルを手で弄び、小さくため息を吐く。
「俺は両親を殺したやつらが許せなかったんだよ」
「両親って……」
「亜人戦闘機に殺された。俺が6つの時だったかな」
「仇をとろうと人生無駄にしたのか」
「……そうだな。正直言って、その際の人生なんてどうでも良かった。ただ普通に生きられる自信が無かったんだよ」
小学一年生にしてはあまりにも悟りすぎたのだ。
「だから、後悔はしていない。死ぬことも全部想定の範囲内だったし」
なんでもないことのように言う白亜。その目は、いつになく死んでいた。
「なんかさ、俺が聞いてた話とは全然違うんだよね」
「………何が?」
「英雄、揮卿台 白亜の話」
「………ふぅん」
「本当にあんたは白亜なのか?」
「一応そうだとは思ってるけど? 記憶もあるし、力も使える。それだけかと言われればそれだけなんだが」
本を何冊か取り出しては重ねていく。10冊ほど出し終えると、両袖から何本か蔓が生えてきて空中に本が広げられる。
本当に便利な魔法である。
「逆に、俺はなんて伝わってる?」
「スパルタで容赦がない。頭がよくてなんでも完璧にこなす。たまに抜けてるところがあって、好きなことが出来ないときは死んだような目になる」
「大方あってるんじゃないのか? 特に後半」
「それだけじゃない」
これ以外に何があるのだろうか、と首をかしげる白亜。
「顔はいいのに無口で無表情。愛想がなくて本当に殺されると思うほど訓練はキツい」
「………悪口じゃねーか」
「でも、誰よりも、命を大切にする。無愛想なくせにお人好しで何あったら止めても絶対に見捨てない」
白亜の手が止まった。あまりにも具体的すぎる話だったためだ。
「音楽を聴くのもやるのも好きで、ちょっとバトルジャンキーなところがある。金稼ぎは上手なのに使わないから本当に勿体ない。怪力なのに物を壊すところは見たことがなくて、動物に甘い」
そこまで言って、言葉を切る。
「俺は揮卿台 白亜の性格を知ってる。なんてったって親父が揮卿台 白亜の生きていた頃、亜人戦闘機対策部隊に居たんだからな」
「亜人戦闘機対策部隊………高橋の息子か?」
「なんでわかるんだよ」
「何となく似てるなとは思ってたから……」
一発で当てることができる白亜も流石だが、息子に知られすぎである。一体白亜のことをどれだけ知っているのだろうか。
「親父からよく聞いていた。学校で聞くような英雄像より、ちょっと抜けてるあんたの本当の姿の話は聞いてて面白かったし」
「度度悪口入ってる気がするんだが……」
「気のせいだ。兎に角、聞いた話とあんたはなんか違うんだよ」
そう言われても白亜は白亜である。逆にここまで目が死んでいる人間他にいないと思う。
「命を大切にするんだろ? なんでそこに自分が含まれない?」
「何故か、か………。俺が人の命を守れと口を酸っぱくして言っているのはもう被害者をなくしたかったから。それだけだ」
「それに理由はあるのか?」
「両親が殺されたってだけ。大っぴらには出来ないことだったし、俺が死んだ瞬間をみただけで死体も残らなかったから行方不明って処理されたんだけど」
本のページを捲りながら淡々と話す。
「俺がしたかったのは人を守ることじゃない。あくまでもそれはついでだ」
「ついでって」
「俺を蔑むのなら勝手にしろ。俺はそれでも構わない。俺が生きてた理由はたったひとつ、奴等を根絶やしにすること」
隠しきれなくなったゾッとするような殺気が白亜から溢れ出した。自身に向けられたわけでもないのに男はそれで動けなくなってしまう。
白亜の純粋な殺意はそれほどまでに濃密で危険な物なのだ。
「それでも流石に時間が足りなくなったからな。敵将を倒すことにしたんだ。奴等から情報を集めれば集めるほどあの時の……両親を殺した亜人戦闘機に似ていた」
殺気が漏れ出ていることに気付いて直ぐ様収める白亜。それでも一度外に出た殺気はそう簡単には薄れない。
「俺は親が殺されたときに人生なんて捨てたんだよ。あんたや高橋が知ってる俺はそんなもんだ」
「………」
「……すまない。お前に当たっても仕方がなかったな。実際はそんなもんってだけだ。気に止めなくてもいい」
頭をかきながら欠伸をする白亜。
「俺が思ってるのとは全然違った」
「何が?」
「白亜の目的が」
「なんだと思ってたんだ?」
「………最初から人助けとは思ってなかった」
最初にそこを潰すか、と少し半目の目を開いたが、高橋という元部下の話を聞いていたならそうなのだろうと思い当たる。
「戦うのが好きって聞いたから、単にそう言うことなのかと」
「思いっきり私情だな……いや、本当の理由も私情なんだが……」
この時はあまり戦うのが好きではなかった。
では何故戦うとき生き生きするのか。他事考えなくてもよくなるからである。
単なる現実逃避だった。
前々から何で性転換したのに男口調なのか、といわれていましたが、シュナ状態の時と分けるためです。
ただそれだけです。だって書いてるとき区別つくか心配だったんだもん……自分が。




