「会いたい!」
宣伝です。
今日、というか先程『契約できない召喚士』という短編を投稿しました。
現代日本をベースにしたファンタジーです。時間があったら読んでくださると嬉しいです。
「すまん……」
「いえ。十分ですよ。助かりました」
二時間後、挫折したキルカにそう言って、服の内から蔓や蔦を出して手のように操る白亜。
「わっ! 詠唱したか?」
「あ……無詠唱で魔法使ってるんですよ」
「は?」
「古代魔法を復元したときに、その副産物で」
「……………」
キルカの処理スピードが全く追い付かない。
「古代魔法? 無詠唱?」
「ええ。古代魔法なら知っているものは粗方。無詠唱なら詠唱したときよりほんの少し威力は落ちますが殆ど変わらないくらいに改良して」
これが普通の反応である。
白亜の周囲がおかしいだけである。
「そんな話聞いたことないぞ!」
「ええ。大々的には言ってませんので」
「なんで言わないんだ」
「古代魔法は万能ではありません。それを勘違いした人たちが狙ってくるのです。どんな人にも教えたくありません。特に転移は」
白亜には魔眼があるのでほぼ100%失敗しないが、本来なら成功確率50%程の魔法である。
「便利そうだが」
「便利でも危険が伴っています。自分一人で勝手に死ぬのならともかく、人を巻き添えにして転移を使われて事故でも起きたら」
「そういうことか」
「はい。古代魔法はリスクがかなり高い魔法で、成功確率は基本的に50%をきってしまうほど。ですから改良を加えて使っているのです」
白亜は10個の作業を同時に終わらせている。実は八割シアン任せである。それを知らないキルカは白亜の手腕に言葉がでない。
「俺要らないんじゃないか……?」
「いえ。見ていただいてわかるように、10個同時にやっても全然間に合いません」
「ああ、そうだな………」
量が半端ではないのだ。人を全く雇っていないのもその原因だろうが。
「これでいいか?」
「はい。では次はこれをお願いします」
書類の束を手渡しながらサインを書いていく白亜。
「それで、その、働くって話……」
「あ、そうでした。雇用条件は、そうですね……。土日祝日は休日、それ以外の休日は要相談で。勤務時間は朝9時~夕方6時、休憩、昼食時間含む。昼食付きでいかがでしょうか」
「超待遇良い!」
この世界には労働基準法などないので下手したら朝5時~夜10時とかいうのも珍しくはない。
「お給料は、んー……家賃や光熱費はこちらで請け負います。月給2000エッタでいかがでしょう」
「働きます!」
昼食も実質タダなので怪しいほどの厚待遇である。
白亜にとってはあまり人を雇う気はないので厚待遇でも問題がないのだ。
「では、よろしくお願いします。キルカ様」
「よろしく」
改めて握手をしあい、契約書にサインする。
「ここまで厚待遇の職場聞いたことないぞ……」
「そうなんですか?」
本人無自覚である。
「さて、キルカ様。おひとつお聞きしたいことがございます」
「なんだ?」
「護衛の初日、キルカ様は私のことを異世界人と疑っておられましたね」
「そうだ。あの時凄い臭いがしていたからな」
この世界は排気ガス等ないので余計に気になってしまうのだろう。
「異世界人に会われたことがあるのですか?」
「あ、ああ。働いてるぞ?」
「働いてる?」
「ケーゴ・マツイマだろう?」
「え?」
マツイマ? と首をかしげる白亜。
何語だ、と。暫く話し合い、
「松山 圭吾ですかね。マツイマではなくマツヤマです」
「なんでそんなこと知ってるんだ? まさか知り合い―――」
「違います」
白亜は書類を片付けながら考えを巡らせる。
「あの召喚陣は壊した筈………一体どこから」
「お前が召喚したのか?」
「いえ。召喚陣を寧ろ破壊したんです。なのに迷い込んでる……なら、また別の……?」
「ハクア。お前は異世界を知っているのか?」
一瞬言うか迷い、キルカならいいか、と話し始める。
「ええ。好きに出入りしてます」
「は?」
「行き来自由でして。そういう魔法ですけど」
「もうなんでもありだな………」
「私からすれば魔法があること事態おかしいんですよ」
そう言うと、キルカが、ん? と首をかしげる。
「お前、出身は?」
「ここから少し離れた村です」
「異世界人みたいな言い方するもんだから……」
「異世界人でもありますよ?」
「は?」
「?」
話が噛み合わない。
「前世が日本人でして、まぁ、所謂転生です」
「…………」
キルカの開いた口が塞がっていない。
「つ、つまり、お前は実年齢は19だが精神年齢はもっと上なのか?」
「? ええ」
「どれくらい?」
「前々世もあわせると……60。60年生きてます」
「なんか前々世ってのが出てきたんだが」
白亜の事情が複雑すぎてなんなのかさっぱりである。
「少なくとも二度死んだ記憶があるんですよ。私には。それだけです」
しかも毎回生まれ変わっているのだ。説明もややこしくなるばかりである。
「終わった……」
「お疲れ様です」
白亜が蔦でお茶を淹れている。座ったままなので相当楽チンである。
「便利だなその魔法」
「これは属性魔法ですよ」
「え? なんの」
「魔晶属性っていうユニーク魔法です」
「結局お前しか使えないじゃん」
ユニークは固有の、つまりその人のみしか使えないものである。白亜以外は魔晶属性の適性はないので結局誰も使えないわけである。
「ええまぁ。っと、これをルギリアさんに渡しに行かないと……。すみません、私少し外出してきます」
「ルギリア?」
「ええ。私の元婚約者です」
「こっ―――!?」
「前々世で」
「ああ、成る程……」
ルギリアへ渡す書類を纏めて封筒にしまう。
「ついでに何か必要なものがあれば調達してきますが」
「いや、大丈夫だ。それにしてもルギリアかぁ」
「お知り合いにそんな名前の方がいらっしゃるんですか?」
「いや、ルギリア傭兵団のルギリア・ファルセットだよ。あの御伽噺大好きなんだよね」
本人である。
「一つよろしいですか?」
「なんだ?」
「私の前々世、名前をシュリア・ファルセットと言います」
「へ?」
「そして婚約者の名前はルギリア・ファルセット。ここまで言えば……もう、お分かりですね?」
ピタリとキルカの動きが止まって目が輝き出す。
「瞳孔、開いてますよ」
「会いたい!」
「いるかどうかはわからな―――」
「会いたい!」
きらきらと目を輝かせて白亜に懇願する。
「い、良いですけど……」
「ひゃっほう!」
王族の喜び方ではない。本当にあの御伽噺が好きなのだろう。分かりやすく言うと、大好きな本の主人公と会えるようなものだ。
テンションも上がるだろう。
「ルギリアさん、いらっしゃいますか」
コンコンとノックする白亜の横で顔を真っ赤にしながら深呼吸を繰り返すキルカ。
「……どれだけ好きなんですか」
「だって! あのルギリアだよ!」
「分かんないです、その感覚……」
封筒を手に持ったまま少しキルカの反応に困る白亜。こんな状態の人を本人に会わせて心臓発作でも起こさなければ良いのだが。
「シュナ……と誰や?」
「今度エリウラの方で働いてもらうことになったキルカさんよ」
「そうなんか。オレはヴォルカ。まぁ、好きに呼んでな」
「お、おお、俺は、き、キルカ・エリック・うぃ、ウィーバルとも、申します」
「なんや、そんな緊張せえへんでも」
ガッチガチである。本命のルギリアに会ったら本気で心臓止まってしまうのではないだろうか。
「ま、あがってき。ルギもリビングに居るで」
「ふふ。では、お言葉に甘えて。キルカさん。行きましょうか」
「………?」
「どうかしました?」
「雰囲気がハクアじゃない」
「今はシュナの記憶を表に持ってきているから、違和感あるでしょうけど」
シュナとして居た方が気が楽なのだ。
「じゃあ、今はシュリア・ファルセット……?」
「お好きに呼んでくださって結構です。ですが、この家にいるときは基本シュナですよ」
クスクスと笑いながら普通に靴を脱いで上がる白亜。
「靴を脱ぐのか」
「日本……異世界のある国ではこちらが主流でして、履き物を脱いで上がるのが礼儀なんですよ」
靴を脱いで一番近い部屋の戸を開けると、そこには剣の手入れをしていたルギリアが居た。
「こ、心の準備がぁ」
「ルギ!」
「シュナ! お帰り」
一人場違い感半端ないがルギリアとシュナが抱き合う。
「ところで、この人は?」
抱かれたまま、シュナはキルカを手で示して、
「この方は今度エリウラの方で働いてもらうことになったキルカさん。ウィーバルから来たのよ」
「前に言っていた人か。キルカさん。シュナがいつもお世話になってます」
突然話しかけられてキルカがオーバーヒートしている。顔全体を真っ赤に染めて動きが停止した。
「……どうしたんだ?」
「キルカさんはね、ルギリア傭兵団の御伽噺のファンなんですって」
「それは嬉しいな。ありがとう」
「ど、どど、どういたしまして……」
ガチガチ通り越してちょっとヤバイ領域に入ってきた。




