「祭りか何かでしょうか?」
「流石は姐御っ‼」
「いつもありがとうございます!」
ドーナツを口一杯に頬張りながら満足そうに白亜に話し掛ける男たち。
「どういうことか説明してくれ」
「はい。この人達は見てわかる通り貧民街の者でして、こんな風にたまに食べ物を提供する代わりに有事の際には防衛するように個人的に頼んでいるんです」
「お前がか?」
「ええ。何かあってからでは遅いですし。食べ物の方が金を直接渡すよりトラブルが少ないので合理的かと」
ある意味、白亜の手先だった。
白亜は以前ここに来たときにここの者達に食べ物を定期的に持ってくる代わりに何かあったら手伝え、と言っているのだ。
序でに何かあった時に処理すれば白亜がその都度食べ物を提供するので実は治安がよくなっている。
すべて連帯責任で、誰かが何か良いことをやったら食べ物は増えるがなにか仕出かした場合は全員無しである。その為に仲間意識が芽生えているこの頃である。
「姐御のご飯腹膨れるんスよねー!」
「カロリーとんでもないくらい増やしてるからな」
食べることができないので兎に角カロリー高い物を用意している白亜である。
「ところで姐御。後ろの人は?見たところ偉いところの坊っちゃんっすね」
「この方の護衛依頼中だ。この方のご厚意で今お前らはそれ食べれてるんだぞ。感謝しろ」
「「「ははー」」」
平伏する男たち。少しキルカが引いた。
「それで、本日のご用件は?」
「ああ、これを調べておいてくれないか」
「?俺らよりキキョウの姐御の方が調べるのは確実かと思うんすけど?」
「いや、調べるっていうのは噂の方だ。俺の仲間だと知られ過ぎててあんま噂が入ってこないんだよ」
「了解っす」
白亜のメモを見ながら敬礼をする。ちなみに、読めなかった男たちに文字を教えたのも白亜だ。
割りと色々貢献しているらしい。
「お時間をとらせてしまい、申し訳ありませんでした」
「い、いや、構わないが……お前本当に何者だ……?」
「?」
あらゆるところにコネクションがある白亜。ありすぎて逆に恐い。
「あれはなんだ」
「雑貨屋ですね。紙やペン、変わったところではこんなものも売ってます」
ベルトについているワイヤーを引っ張る。先端には鉤爪がついており、中のリールで釣竿のように巻き上げる仕組みだ。
「この先端部分が売ってます。ワイヤーその他はまた別で買って適当に作りましたが」
自作だったらしい。
「器用だな」
「器用でないと冒険者の上位ランカーなんてやってられないですよ」
小さく笑う白亜。キルカが見たいというので二人で雑貨屋に入っていく。
「いらっしゃ………ああ、象徴かい?もう壊れたの?」
「いえ。この方の護衛の途中でして」
「ああ、成る程ね」
ここも知り合い……というか鉤爪は此処で作って貰っているものだ。
「これは?」
「そいつは新商品だよ」
キルカが小さめで丈夫な生地で縫われたウエストポーチを持ち上げてまじまじと見る。
「見たことない鞄だな」
「象徴のアイデアさ。両手が空く上に必要なときに取り出しやすいし戦うとき邪魔になりにくいってんで売れ筋の商品なんだよ。本当に、色々考え付くもんだ」
「元々これに似たものはありましたから。それに色々と助言をしたら作っちゃったのは店主じゃないですか」
割りとありそうなのにウエストポーチは無かったのだ。それに似たものはあったのだが。白亜、自分が欲しいから取り合えず助言してみた感じである。
「ここに付けるのか……?」
「試してみるかい?」
キルカは興味津々である。白亜はその様子を見てキルカの腰にポーチを付けてやる。
「確かにこれは動きやすいな」
「象徴みたいに最近はマジックボックスに物を入れる人が多いからね。小さくても十分なんだよ」
軽く動くキルカ。どうやら気に入った様子だ。
「ふむ。これ、いただこうか」
「まいど!っと、色はそれでいいのかい?」
「それでは、此方にしようか」
さっさと買いそうなので白亜が止める。
「店主。恐らくこの方の腰の大きさではギリギリかと。少し直していただけませんか?」
「そうなのか?」
「ええ。一瞬見ただけで確証はありませんが、もう少しお体に合うようにした方が宜しいかと」
付けてもいなければ持ってもいない物をよくそこまで正確に測れるものである。
「はいよ。観察眼は流石だね」
「偶々他の人より見えるだけですよ」
煙を吹きながら小さく笑う白亜。キルカの採寸中、店主が突然こんなことを言い出した。
「そうだ、象徴。あんた結婚するんだって?」
「………?なんのお話でしょうか?」
「え?」
「?」
店主の動きが固まる。白亜も見に覚えのない話なので首をかしげている。つい先日にミーシャに同じこと言われていたが。
「しないのかい?」
「見に覚えがありません。それに………わかりますよね?」
「ああ、女っ気がないってことかい?」
「ええまあ。っていうか最近妙にそんな話出てますけど、何かあるんですか?」
この言葉にキルカも唖然とする。
「?」
気付かないのは白亜だけである。
「知らないのか?」
「申し訳ありません。会話の内容が判りません」
「え………象徴。あんた仮にも女だろうに」
「???」
全く判っていないと見て二人同時に溜め息をつく。
「今年はアンダーソンだろう?」
「人名ですか?」
「ここまで言われてもわからないのかい!?」
最早引かれ始めている白亜。
「300年に一度の……。知らないのか?」
「祭りか何かでしょうか?」
「まぁ、祭りと言われりゃ祭りだろうねぇ」
意味深にニヤリと笑う店主。
「神様……チカオラート様が加護を与えてくださる年なんだよ」
「…………」
「なんで苦々しい顔をする?」
「いえ………なんでもないです」
チカオラートにはいい思い出がない白亜である。
「それがなんでアンダーソンって言うんですか?」
「最初に加護を受けた人の名前さ。その人が結婚した時にチカオラート様が加護を与えてくださったんだよ」
「何故?」
「理由は誰にもわからない。神のみぞ知る、といったところだろうか」
キルカがそう補足する。
「それで300年周期で加護が、ってことですか?」
「そう言うことだね。だから今年結婚する人が相当増えるだろうよ」
「結婚した人のみなんですか?」
「そうだ。今のところ結婚式以外で加護が与えられた例はない。付け足すと、婿も嫁も加護が付くのだ」
そうなんですか、といいながら、
『シアン。加護ってなんだ?』
実は理解できていなかったらしい。
『簡単に言いますと、神から与えられる能力です。マスターの万物の呼吸もそれに似たものです……が、マスターの場合自力で力を得たので少し違いますね』
『創造者は違うのか?』
『創造者は加護ではなく祝福や特殊能力の類いですので』
『違うのか』
『違いますね』
シアンは少し考えてから、
『加護は他のものに干渉できない、と言えば判りますでしょうか』
『それこそ万物の呼吸みたいにか』
『そうです。神に直接与えられる、神聖な力です』
『そなたは与えることはできないのか?』
突然アンノウンが会話に割り込んできた。
『神の気があればいけるのか?そんな単純なものなのか』
『出来るとは思いますが、相当面倒な計算しないと無理だと思われます』
『じゃあいいや』
『いいのかそれで……』
面倒ならいいや。と。流石は白亜である。見事なまでにブレない。
「加護ってどんなものなんですか?」
「そうだな……。最初のアンダーソンは確か水の加護だったか」
「水ですか」
「水精霊と契約しやすくなったり、水中でも息が出来たり、水に触れるだけで回復出来たり、だな」
「便利ですね」
「その分疲労が溜まるらしいが」
白亜の場合、全部魔法で済ませてしまうので必要なかったりするのだが。




