「ハクア。そなたに依頼を出したい」
「生きてた、のか……?」
「すみません。少し語弊がありました。そう呼ばれていた、とでも言いましょうか」
相手の反応を見て面白がる白亜。なかなか悪趣味だ。
「生まれ変わりとかそういうのか……?」
白亜はなにも言わずほんの少し首を傾ける。その態度が、それを肯定していることを示していた。
「マジか……漫画かよ」
「気力事態が漫画みたいな力だと思うんですけどね」
キセルを弄びながら興味のない声色でそう言う。
「突っ込みどころが多すぎるんだけど……」
「そうですね。私もそう思いますよ」
「ずっと気になってたこと、聞いていいか?」
「なんです?」
「この力……気力ってなんなんだ?あんたには生まれつきあったのか?」
「…………それ聞いちゃいますか」
ふぅっと煙を吹き出しながらポツリと言う。
「聞きたいですか?」
「聞きたい」
「後悔しませんか?」
「そのときにならないとわからない」
「それもそうですね」
くくっと小さく笑って、酷く孤独感が漂う笑みを見せる。
「これは、悪魔の力。私の寿命と引き換えで手にいれた諸刃の刃です。使えば使うほど体は壊れていき、寿命は削られていく。そんな力です」
「………」
白亜は小さく笑って、
「貴方が使うぶんには、問題ないです。寿命削るほど力がついていない」
「それは」
「寿命を使うのは私だけです。その分他の人より圧倒的にできることが多い。使いすぎなければ問題ないのですが」
手を握ったり開いたりしながら自分の掌を見つめる。
「他の誰も私の感覚は判らない。体が徐々に使い物にならなくなっていく実感もそうですし、寿命が減った瞬間の痛みも」
キセルをくわえて立ち上がる。
「そうだ。幾つか言っておきますね。身体強化は体の一部分だけで十分です。最悪攻撃する瞬間、一瞬腕にかけるだけでも十分な効果を発揮します。それと、気弾は形状を変化させて使った方がいいでしょう」
「形状を変化させて………?」
「こんな感じですね」
手の上に丸い気弾が出現する。すると、一瞬縮こまって輪のように形が代わり、突如回転し始める。
武器としてはチャクラのような形だ。
「こんな風にすれば少し狙いはつけにくくてもほぼ確実にダメージを与えることができます。イメージするだけでできると思いますので」
胸ポケットの懐中時計を一瞥し、気弾を消す。
「少し長話し過ぎました。最後にお名前を伺っても?」
「水口努です…………」
「では、努さん。後は真っ直ぐここを下るだけです。木が教えてくれるでしょう」
「は?木?」
「それでは。もう二度と会わないことを祈っています」
美しく模範的なお辞儀をして音もたてずに木を伝ってどこかに去ってしまった。
「木って何?どういうこと?」
白亜が先程指差した方を見ると、適当な位置に生えていた筈の木が一斉にある場所を空けている。
ここを通れと言わんばかりに。
「あの人ほんとになんなんだ………?」
不思議を通り越して不気味な白亜の事を思い浮かべながら恐る恐る木の避けた道を歩いていった。
数年後、この男性、水口が亜人戦闘機対策部隊の隊長に任命されるのだが、それの理由を知っているのは彼と白亜のみである。
「ただいま……」
「あ、師匠。おかえりなさい」
「ハクア君お帰り」
裏口から入ってきた白亜を偶然出迎える形になったリンとジュードは、少々疲れている様子の白亜にお茶を出す。
「お疲れ様。皆元気だった?」
「元気すぎるほど元気だったよ……」
「お疲れのご様子ですが」
「ああ、ちょっと帰ってくるときに魔力消費が多くてな……。今日はもう寝ようかな……」
「キキョウさん達に言っておこうか?」
「ありがとう。頼む」
そのまま部屋に入ってベッドに倒れ込むように入り、浄化を掛けてから寝てしまった。浄化はほぼ無意識である。流石はお風呂大好きな人である。
「んー………」
『私を外してから寝てほしいものだ』
「あ、ごめん……」
腰にアンノウンをつけたまま寝てしまっていた。
『魔力、気力、元に戻りました』
「ん。ありがと」
『いえ。それにしても不思議ですね。あっちにいると勝手に削られていくなんて』
「今までこんなこと無かったのにな」
首を捻りながら身支度をする白亜。
「それで、今日は?」
『特には。森の方に顔を出さないとミーシャ様方が怒るのではないかと思いますけど』
「行けってことね……」
腰にアンノウンと懐中時計にしまっていた村雨を挿して廊下に出る。
「ぶっ!?」
「え?」
扉の向こうに、メイド長のミクリが居た。何となく気づいては居たものの、特に確認せずに開けた白亜も白亜である。
「み、ミクリさん!すみません、居るとは思ってなくて……」
寝起きでボーッとしていたのもある。
「い、いえ……だいじょうぶでひゅ」
「す、すみません………」
鼻を押さえたミクリを回復させながら頭を下げる白亜。
「それで、どうされたんですか?」
「あ、そうです。謁見の間へ行っていただけませんか?」
「国王様ですか?」
「ええ。なんでも頼み事があるとか」
「了解しました。これお詫びにどうぞ」
懐中時計から以前作ったお菓子をミクリに詫びとして押し付けて謁見の間へ急ぐ白亜。白亜が呼ばれることはそう多くないのだが、呼ばれるときが毎回大事なので。
ジュードもそうだが、白亜を信用しすぎである。
数秒で謁見の間に到着し、滅茶苦茶豪華な扉をノックする。
「白亜です。お呼びでしょうか」
「はいれ」
グッと扉を引く。そこには、白亜と同じくらいの年代の男性が居た。国王はいつものように一番上の椅子である。
「ハクア。そなたに依頼を出したい」
「依頼、ですか」
「そうだ。この方の護衛を頼みたい。そなたの知る限り、最高のパーティで」
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リグラートに寄越されたのは第一王子だった。本来ならば第三王子が行く筈だったのだが、軽い風邪で休むこととなったからだ。
王室では、ただの風邪でも相当なまでの手当てを受ける。先先々代は単なる風邪を拗らせて死んでしまったからだ。
そのために無駄なほど心配される。
「僕がですか」
「そうだ。本来ならば休戦中とはいえ敵国に次の国王であるお前を行かせるわけには行かないのだが」
「いえ。問題ありません」
キッパリと第一王子はそう言った。
「そうか。では、頼んだぞ」
「はっ」
今日まで、数日この城に滞在した第一王子はあることを行おうとしていた。
目の前に居る、敵国のリグラートの国王、その一族を根絶やしにする。それが彼に与えられた使命だった。
驚異となりうるものを全てマークさせた。後は動くのみ。しかし、ここで新たな驚異、しかも今までマークさせた分を全てこちらに移してもその包囲網を簡単に掻い潜るような大物が突如現れたのだ。
「ハクア。そなたに依頼を出したい」
突然話し合いの場に入ってきた者にリグラートの王がそう言った。その相手は、自分とそう年の変わらないであろう者だった。一目見て、急激な寒気を感じた。圧倒的なまでの強者の感覚。
これ程までに濃い気配は感じたことがない。危うく後ずさりそうになるのを必死に耐える。
「依頼、ですか」
相手の声は澄んでいて、一点の曇りもない。低くもなく高くもない、静かに声を出しているのに周囲に響き渡っている。
「そうだ。この方の護衛を頼みたい。そなたの知る限り、最高のパーティで」
まるで死の宣告を受けたかのように体が固まる第一王子。白亜は少し首をかしげて、
「はい」
割りとあっさり答えた。
こうして、隣国ウィーバルの第一王子、キルカ・エリック・ウィーバルとハクア・テル・リドアル・ノヴァはリグラート滞在の残り一週間を共に過ごすことになったのだった。




