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「俺には、雲をつかむなんて出来ない」

「それじゃ、また来ます」

「気を付けて帰ってねー」

「車に轢かれるなよ」

「車の方がぺしゃんこになると思いますが……?」

「こえぇ………」


 白亜が強いのは力だけではない。怪力に耐えられる体も相当強いのだ。それこそ、電車に轢かれても電車の方が壊れるほどに。


「さよならー」


 フッと消えるように去っていった白亜。


「毎度毎度あの帰り方は物理法則無視してるよな……」


 今更である。








「っと。確かここだったか」

『この奥です』


 小さなトンネルのようなところに入っていく白亜。ピチャン、と水の音がどこからか聞こえる。


『そこを左だ』


 アンノウンとシアンに案内されながら道を進むと、声が聞こえてきた。白亜にとっては少し懐かしい声。


「あ、白亜さん」

「やっときましたねー」


 日本組、白亜の弟子達である。


「久し振り。これで良かったか?」

「おおー!ありがとうございます!」


 大学生や、既に就職したメンバーもいるので全員ではないがかなりの人数が集まっている。


 白亜が取り出したのは、大粒のルビーやサファイアである。実は白亜のいる世界ではあまり色がついた宝石は価値が高くない。


 魔石の方がよっぽど高いのだ。


 白亜は自分用のポーションを作る際に使う魔石を自分で取りに行くのだが、そのときに大量に見付かるのがこの宝石達である。価値も低いので放置していたのだが、日本組が欲しがったのでとってきている。


「これが500円だなんて、あり得ないよねー」

「売ったら10万にはなるかも」


 大体5エッタほどで買える。子供のおもちゃ感覚だ。白亜がとってくるのはもっと純度の高い大粒の物なのだが。


「あっちじゃゴロゴロ落ちてるからな」

「勿体ないよね」


 白亜がキセルを取り出して口にくわえるのを見た日本組が唖然とする。


「え、いつから吸うようになったんですか」

「1年前だな。これ、煙草じゃないぞ?」

「「「???」」」


 宗久に言ったことをそのまま再び言う。


「そんなヤバイんですか」

「ヤバイ……んだと思うけど。自覚ないから」

『何度血が吹き出したか覚えていらっしゃいますか?』

「あ、シアンさん。こんにちは」


 突然全員の脳に響く声が聞こえてきた。続いて、男性の声がする。


『私達がどれ程言っても聞かないからな………』

「俺そんなに言うこと聞かないかな………?」


 自覚がないのだから、恐ろしい。


「それで、そっちは?なにかあったか?」

「あったら報告しますよ。まぁ、みんな元気ですし、ちゃんと働いてますしね」

「……へぇ」

「なんですか、その間」


 白亜は煙を軽く吹きながら懐中時計から小箱を数箱出す。


「あ、それって」

「転移箱だ。ストックができたから持ってきたんだよ。これが今回こっちに来た理由」

「ありがとうございます」


 数人が箱を受け取り、自分の鞄に仕舞う。


「あ、そういえば、さっきから使ってるの見ますけど、魔法って使えるんですか?」

「前来たときは全員分運ぶために魔力を大幅に使ったからってだけで、一人なら問題ない。魔石も一応持ってきてるし」


 前、というのは二年半前に来たときである。ダイたちが行きたいと駄々をこね始めたので連れてきたのだ。


「よっし、箱は渡せたし、後は部品買って帰るだけだな」

「部品?」

「ちょっとやりたいことがあってな。日本の物を使いたいんだ」

「それ、使っても大丈夫なんですか」

「ネジとかだから問題ない。流石に目に入るところには使わないさ」


 その後も暫く話し合い、別れた。









「久し振り。遅れてごめんなさい」


 その場に座り込んで懐中時計から酒と花、乾燥させたフルーツを出して目の前に置く。


「この花俺が育てたんだよ……。国王様に花壇借りて」


 ポツリポツリと誰も居ないはずの場所に語りかける。


「俺、19になったよ。このまま死ななければ初めて20歳越えれるかな」


 小さく笑いながらキセルを口にくわえ、煙を吐き出す。


「……母さん、父さん。なんであんな早くに逝ったんだよ……。話したいことも、やりたいことだって……沢山、沢山あったはずなのに……全部、忘れちゃった」


 拳を握り締めながら俯く。


「夢なんて綺麗なもの……俺はもう、見ることもできない」


 白亜の夢。ジュード達には種族間の蟠りを無くしたいと言ってはいるが、それは正しくもあり、間違ってもいる。


 白亜の目標ではあるのだ。しかし、夢ではない。


 目標は『成功させると決めたもの』であり、夢は『叶わないと知っていながらそれでも足掻けるもの』と白亜は考えている。


 足掻いてまで何かをしようという気持ちに、全くと言っていいほどなれないのだ。


 それは、白亜がなんでも出来てしまうからでもあり、同時に諦めてしまっているからである。


「俺には、雲をつかむなんて出来ない」


 確信が持てないことをなんとしてでも成し遂げようとする意志がない。それを自覚しているのに何かしようとしても長続きしないのだ。


「強くなってなんになる。結局、やりたいことは何一つ出来てないじゃん……」


 最初から相当強かった白亜だ。それを鍛えるのは暇潰しに近いものがあり、それで何をするだとかまったく考えていない。


「父さんなら、何て言うかな……。もう、ほとんど覚えてないけどさ………」


 時間をおけば置くほど記憶には靄がかかっていく。しかし、二人が死んだ瞬間だけは嫌らしいほどに鮮明に思い出せてしまう。


「……………」


 そこから先は何を言うでもなく、ただただ座って煙を吹いていた。


「誰か、来る………?」


 白亜が耳に意識を集中させると声が一斉に耳に飛び込んでくる。一定のテンポで地面が擦れる音がする。


 熊かなにかかと一瞬思ったが、体重はそこまで重くないようだし、歩幅からして人間の男性だと判断した白亜は、何となく動く気がしなかったのでその場で座っていた。


 ガサガサ、と茂みから出てきたのは登山の格好をした泥や葉っぱだらけの男性だった。


「人がいた!」

「…………?」


 何となく見覚えがあるような気がして首をかしげるが、記憶の誰とも一致しないので取り合えず放っておく。


「あの、山登りしてたら道がわからなくなっちゃって。教えてもらえませんか?」

「山登り……?この辺りはあんまり適しませんけど……?」

「ちょっとした理由もあって。道だけでも教えてもらえませんか?」

「それはいいですけど、どこから来たんです?」

「国道の……」

「あ、判りました。けど、山の反対側ですよ?」

「えええええ」


 方向音痴が山登りとか悲惨なことをしたものである。


「近道なら知ってますけど」

「!教えてください!」

「じゃあこっちにどうぞ」


 キセルを口にくわえて立ち上がる白亜。


「キセルって珍しいやつ吸ってるんですね」

「え、ええ。知り合いが勧めてきて」


 これを勧めたのはシアンである。どんな形にするかシアンと白亜で決めたのだが、シアンは煙管の一点張りだったために白亜が折れたのだ。


「此方です」

「あの、なんでこんなところにいたのか教えてもらっても?」

「………ここ、両親が死んだ場所でして。墓参りです。墓無いですけど………」

「ご、ごめんなさい」

「いえ。もう何年もまえの話です」

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