「それで師匠がどれだけ傷付くか判ってるんですか!?」
「わっ!?」
白亜の剣をひたすら受け続けるルギリア。ジュードの目にさえ映らない剣筋は迷いなく急所を狙っている。
たまにたたらを踏みながら斬りかかる白亜の目は焦点が定まっていないのでよく見えるものだと感心してしまうほど。
事実、白亜は目をほとんど使っていないので焦点が定まっていようが目を瞑っていようが、さして問題ない。
「ここまで速いとは思ってなかった……!」
これで魔法の類いを一切使ってないのが恐ろしい。
「まさかこれほどまでとは、ね……」
感心したように鼻をならすライム。ジュードは斬りかかってくる周囲の黒服集団を無力化しながら忌々しくライムを睨む。
「師匠に何をしたんですか、先生」
「簡単よ?ちょっと囁くだけ」
「………」
ジュードはふらつきながらも剣を振る白亜を見る。
「なんでこんなこと……!」
「考えればわかることじゃない。ハクア君は負けないって判ってるんだもの。味方につければ、最高の護衛になるじゃない」
「それで師匠がどれだけ傷付くか判ってるんですか!?」
「それは私の知ったことではないわ」
ジュードは怒りを露にするが、それで白亜を止めに行く力もない事を歯噛みする。
「っく……!」
ルギリアは白亜をシュナと重ねて見ている、というか本人なのでどうしても反撃する覚悟がない。
もしこれで十分に白亜とルギリアの実力差があればなんとかなるのかもしれないが、白亜とルギリアの実力差はほとんどない。
「このままじゃジリ貧やで!覚悟決めろや、ルギ!」
「……わーってるよ!」
それでもやはり抵抗があるのか直前で渋ってしまう。本気の白亜なら全然狙えるのだろうが、何故か反応しない。
「早く仕留めなさい!」
ライムが声をあげると、白亜が一瞬ピタリと止まって次の瞬間、爆発的に加速する。
「わっ!?あぶねっ!」
剣速が倍になり、ルギリアも対処できなくなってくる。細かく小さな傷が徐々に出来始めた。
「ルギ!」
「ルギリアさん!」
白亜はルギリアにかかりっきりなので他をジュード達が倒していく。最後の一人をジュードが魔法で昏倒させた時、白亜がそれまでとは違う動きを見せた。
剣以外は使わなかったのに、突然ルギリアを蹴り飛ばしたのだ。
「嘘だろぉぉぉ!?!?」
突然の攻撃に対処できず、壁の方に吹き飛んで止まった。
「ふふ。後の二人なら、直ぐやれるでしょ?」
ジュードとヴォルカの顔が青くなる。ルギリアならともかく、ジュード達が束になっても絶対に勝てない相手なのだ。敵に回るとこれほどまで厄介だとは、と頭を抱えるジュード。
「………え?」
次の瞬間、白亜の剣がライムの首筋にピタリと当てられていた。
「な……!?」
「なんで動けるか、か?馬鹿じゃねーの、ライム先生?俺がそう簡単に弟子を傷つけるかよ」
存分に怒気の籠った目でライムを睨む白亜。先程までの虚ろな感じは一切ない。
「師匠!大丈夫なんですか?」
「ああ。最初っから操られてさえいないけどな」
「へ?」
「いやー、ここまでキツい一発食らったの久々だわー」
「すみません、ルギリアさん。どうしても手を抜くとバレそうだったもので」
「へ?え?」
なんともなかったかのように起き上がるルギリア。ジュード達は混乱中である。
「なんで……!」
「なんでってそりゃ、最初から演技だったもん」
「はぇ?」
「情けない顔するなよ……」
どこからどこまでが?と考えるジュード。
「それにしても、人体に無理矢理コントローラー埋め込むとかたち悪すぎ。ちょっと抜くのに苦労したんだけど」
ポケットから血がこびりついた小さなケーブルのようなものを取り出す。
「シアンが気付いてくれなかったら本気で操られてた可能性あったけど、ね」
再びポケットにそれをしまって、創造者で魔力を封じる手錠を作る。
「一体どこから……!」
「はい、一旦おやすみ」
首に手刀を軽く入れて気絶させた。力加減間違えると首が吹っ飛ぶのだが、それは考慮しなかったようだ。
「師匠、本当に大丈夫なんですか?怪我とか……」
「心配ない。少し耳が聞こえ辛いが、その内治る」
「聞こえ辛いって」
「一昨日、だったか?寝てる間の記憶がないんでよくわからないが、俺が耳押さえてそのまま倒れただろ?」
「はい」
「その時に、普通の動物の耳には聞こえない高さの超音波が発されててな……。俺含め耳がいいやつらは相当キツかったんだよ」
トントン、と耳を軽く叩きながらそういう白亜。
「そのときから少し耳鳴りがしてな……。まぁ、その内治る」
「回復魔法とか」
「使っても効果無いって。それに、俺の体には効きにくいみたいだし……」
「え?」
「いや、なんでもない。そんなことよりここで行われてた実験資料を探さないと。少し気になることがあってな」
コキコキと首をならしながら別の部屋へ入っていく白亜。ライムが蔦でグルグル巻になっているが自業自得である。白亜はライムを引き摺るようにしながら部屋を漁る。
「これだ」
一束の資料を見せると、そこには魔方陣の書き方や使用方法などが細かく書かれていた。
「これは?」
「簡単に言えば、異世界から人を召喚する魔方陣です。こっちに来る日本人は結構いるのにこっちからあっちに行く人って見たことないですからね」
一人いるが、あれは例外である。白亜を介せば何時でも帰ってこられるので。
「異世界から召喚する魔方陣か。夢が膨らむな」
「夢って……。でも、一人呼び出すのに相当な量の血が必要みたいです」
「血?」
「ええ。私の場合は血の力が強いので数滴で十分なんですが、普通の人だと相当集めなければいけないみたいですね」
資料を速読しながら白亜が早口で言う。相変わらず凄い早さだ。見えているのか疑問である。
「さっき襲ってきた人達は護衛兼採血用の奴隷でしょうね」
顔色ひとつ変えずに淡々と言う白亜。
「それから、召喚する人がどこに現れるかさえ把握できないみたいです……。魔法としては欠陥品だな、これ」
白亜から見れば十分欠陥品だが、普通の人から見れば喉から手が出るほど欲しいものである。異世界人は世界線を渡る影響で能力や肉体が強化されていることが多いので、一人いれば相当な戦力になるのだ。
「これの研究をここでしてたんか?」
「そういうことですね。気持ち悪い研究ですよ」
不快感を露にしながら白亜がそういう。他にもいくつか資料を見付けてはシアンがコピーしていく。
そうこうしているうちにライムが目を覚ました。
「おはようございます、せんせ?」
「どうしてこんなことするの?」
「思いっきりこっちの台詞なんですが?」
恐ろしい笑顔で会話する二人。ルギリア達はヒヤヒヤしながらそれを見守る。
「それでは、ちゃんと説明してもらいましょうか、ライム先生……いや、ヘラ・ダンドレイウさん?」
「!」
「貴女が他国の間者ってことは大分前から知ってます。今更隠さなくても結構ですよ?」
これに驚くのはジュードである。
「師匠、どういうことですか」
「そのまんまさ。この人、スパイだよ。どこの国ってところは伏せておくことにするけど」
どこまで知っているのだろうか、と我が師ながらゾッとするジュード。白亜はそんなこと気にもせず赤と緑の目で睨むように見据える。
「ヘラさん。貴女には投降してもらいます。何が起ころうと、ね」
「ふふふ……恐いわね。いつから気付いていたの?」
「この学校入って割りと直ぐに。ここの学校の教師の裏事情くらい把握してます」
流石というか、調べすぎていて恐いが白亜のいうことだ。本当に全員分調べあげているだろう。
それで間者だと気づいても誰にもバラさないところも白亜らしいが。




