「シュナの魔力を間違わないはずがない!」
「ここ、勝手に入って良いのか?」
「王族特権で大丈夫なんです。それに今日は休みなので」
「王族凄いな……」
三人の足音が響く廊下を見渡しつつ、ジュードが床になにかが落ちていることに気づく。
「これ……」
拾い上げると、最近流行っているマスコットのストラップだった。端に少しだけ血がついている。
「血が」
「これ、引き返した方がええんちゃうかなぁ……?」
ただの落とし物では済まない気がする、と三人が直感する。しかし、ここまで来て引き返すのも気が引けるので取り合えず進むことにした。
「あれ……?もう全部回ったはずですけど……?」
やはり転移してしまったのだろうか、そんな考えが頭をよぎる。
「いや、まだあった……」
白亜達が一度も足を踏み入れたことのない場所が一ヶ所だけある。本来ならば知られてもいなければ地図にも載っていない場所だ。
ジュードは王族だからうっすら知らされていたようなものである。
「研究所……!一番可能性があるところを忘れていた!」
ジュードが一人呟いて反対の方向へ走っていったのでルギリア達が戸惑うが、ここに一番詳しいのはジュードなので二人揃って顔を見合わせて後をついていく。
「ハクアちゃん、ホントにここにおるんか?」
「俺の魔力探知が間違うはずないだろ」
「自信満々やな……」
「シュナの魔力を間違わないはずがない!」
「うっわぁ……」
重たい愛だ、と心のなかで呟きながら口には出さないヴォルカ。ルギリアの扱いにこなれている感じが凄い。
「ここだと思うんですが……」
キョロキョロと見回しながら戸に手をかける。
「ここって、掃除用具入れやん」
「ここの奥を改造して地下室に入れるようになってるはずなんですよね……」
「何をそんなに隠そうとしているんだ……?」
「古代魔法の研究です。盗まれると危険な技術なので隠れて行うのが鉄則らしいんです」
本来ならばこうやって研究されるものを白亜は勉強机で本を開くという実にお手軽な方法で古代魔法を習得しているのだ。
原理さえ知ってしまえば割りと簡単なのかもしれない。
「あった!で、ここを、こう……開いた!」
バケツの下にあるネジを暫く弄ったら隠し扉が開いた。
「面白いしかけだな」
「行きましょう」
ルギリア、ジュード、ヴォルカの順で中に入っていく。ルギリアが先頭なのは接近戦が得意で、勘がいいから。本来ならば、罠の解除や斥候をするシーフのヴォルカが前に出る筈なのだが、ルギリア達は少し変わっているらしい。
各々の手には武器が握られていて、準備万端のように見えるが、ジュードはチコが居ないために火力不足、ヴォルカは極力魔法具を使わないようにして戦っているのであまり戦闘慣れしていない。
本気で敵が強かった場合かなり危険である。
「………」
いくつかある部屋を順番に開けて人がいないか確認していく。アイコンタクトで指示を出すルギリアの動きはこなれていて、はじめて一緒に動くジュードでも戸惑うことなく進めた。
三番目の部屋を開けた瞬間、三人の目に飛び込んできたのは何人かの男女だった。首や手を繋がれている所を見ると奴隷なのだろう。
ジュード達をみて酷く怯えている。
「これ、助けた方がええんか……?」
「この国では奴隷は禁止されていませんから………僕達罪人になっちゃいます。この人たちが本気で捕まってる感じだったら逃がしましょう。いまは……駄目です」
「そうか……」
可哀想だが今はどうしようもない、というのがジュードの見解である。
「取り合えず師匠を探しましょう」
申し訳なさを感じながら扉を開けて閉めてを何度も繰り返す。すると、金属でできた重々しい扉が見えてきた。
「なんやヤバそうなもんがでてきたなぁ?」
「行きます?」
「ああ。行くぞ」
ガシャン、とロックを外してから中にはいる三人。
すると、ひとりでに扉が閉まった。
「閉じ込められた!?」
「いや、蹴破れば問題ないよ。問題なのは……」
ルギリアの視線の先には勝ち誇ったような笑みを浮かべる人物がいた。ジュードには見覚えのある顔立ち。その人物が、何かを抱えて此方を見ている。
その人物の腕の中でピクリとも動かず、ぐったりとしているのは、今まさにジュード達が探している行方不明者だった。
「師匠!」
両手を下に垂らすようにして眠っている白亜を抱えているのは、ジュードや白亜達、腕のいいものだけが集められたクラスの担任、
「なんで、ライム先生が……?」
「久し振り、ジュード君」
悪戯っ子のような笑みを浮かべ、軽く舌を出すライム。
「なんや、知り合いなん?」
「僕達がここに通っていたときの担任の先生です」
「どうしてシュナを……」
ライムは一向に起きる気配のない白亜の前髪を撫でる。すると、白亜が少し呼吸を荒くした。手を離すと静かなものに戻っていく。
「いま、何を……?」
「簡単な事よ。ちょっと生気を貰ってるの」
「生気……?」
ジュードが剣を構えたまま意味のわからない単語に首をかしげる。
「そう。その名の通り、生きるのに必要なエネルギーよ。魔力と似たようなものだけどこっちは無くなったら死ぬわね」
「っ!?」
死ぬ、という言葉を軽々しく口にするライム。実際に白亜が苦しそうにしていたのであれが続いたら殺される、というのも何となく理解できる。
「それにしても、どうしてここがわかったの?その人達は何方?訊きたいことがとても多いのだけれど?」
「ここを知っていたのはジュードだ。俺達は傭兵……じゃなくて冒険者だ。ハクアの友人でね」
食い気味に答えるルギリア。
「そう。じゃあ……死んでもらわないとね」
底冷えするような威圧感が十分に籠った声を発し、パチン、と指をならす。すると、奥の部屋から奴隷が5、6人武器をもって入ってくる。
「戦わないかん雰囲気やで」
「判ってる。俺が片付けるからハクアは頼んだ」
「「はい(おう)」」
言うが早いが、ルギリアは即座に周囲の奴隷達の意識を一瞬で刈り取っていく。
「これは……まさか、こんな人がいたなんて」
「これでも傭兵団を率いてるんでね。腕には自信があるんだよ」
ライムが白亜を抱いたまま後ずさる。すると突然、扉が盛大な音をたてながら開き、黒服集団が流れ込んでくる。
「いくら数を増やそうが変わらない」
ルギリアがそう言い放った瞬間、部屋の空気が変わった。ルギリアが度々感じたことのある死の気配。それが濃密なまでに圧縮されて部屋の中に充満している。
「っ!?」
半歩その場から引くと、今まで足があったところが大きく抉れている。
「これは……!?」
「逃がしたらいけませんよ、ハクア君」
白亜がその場に立っていた。細身の剣を持って、だらりと腕を垂らして聞こえているのか判らないような目で前を見ている。
明らかに正気ではない目だ。輝きがなく、焦点があっていない。何より、足元がふらついていて地面に確り立てていない。自分の意思で動いている感じが全くしないのだ。
「師匠……?」
「違うで、ジュード君。あれはハクアちゃんやない。呪術なんて使うやつは初めて見たんやけど」
「この場合ハクアと戦えるのは俺だけか」
ルギリアが正面に剣を構える。白亜は覚束無い足取りで、それでも体が覚えているのか構えだけは美しく洗練されている。
「ごめんよ、ハクア!」
「…………」
互いに踏みこみ、金属音が響き渡った。




