「学校…………?」
「ハクアの様子は?」
「起きる気配がないです……」
「ダイたちまでああなってしまっておるからのう……原因もわからぬな」
白亜の目もとに冷したタオルを乗せ、小さく呟く。
「皆さんは?」
「ハクアと同じよの。妾もどうすればよいのか……」
もう日が沈まない状態から二日は経っている。皇女は白亜の看病を申し出たが、御付きの人達がそれを許すはずもなく、為す術無く国へ帰ることとなった。
本来ならば交渉をまだ続ける予定だったのだが、太陽がない上に夜が訪れない、それどころか数人が昏睡状態に陥るというどこからどう見ても危険な香りしかない国には立場的にも避けなければならないのだ。
全く動かない白亜。爆睡しているときでさえ、魔力の声を聞けば跳ね起きる人なのだ。かなり危険な状態であることは間違いないだろう。
「師匠……」
「ジュードももう休め。分かりにくいが今は夜中。休めるときに休むのも大切なこと」
「はい。わかってますけど……」
「チコも心配しておる。たまには向こうにも顔を出せ」
「はい」
下手に騒いで白亜の耳を聞こえなくするのも危険なので、この部屋に入るのは緊急時以外はキキョウとルナ、ジュードとリンだけである。
使用人もいれないのだ。
固く目を閉じ、人形のように動かない。胸が一定のタイミングで上下することだけが、白亜がまだ生きていると実感できることでしかないのがジュードにはひどく悲しく思える。
見た目からして、あまりにも整っているので超高性能のゴーレムと間違われることがあるほど人間離れしている。
力そのものも、そうなのだが。
「――――はっ!」
顔を上げ、時計に目をやると針は10時のところを指している。
「ね、寝すぎた………」
鏡で顔を確認してみると、頬に腕の痕がくっきりとついている。机に座ってなんやかんやしているうちに眠ってしまったようだ。
かなりの時間寝たのでスッキリしている。
何かあったらいけないのでジュードは白亜の寝ている部屋の隣に自分のベッドを持ってきて最近は寝泊まりしている。
白亜が寝ている部屋の戸を開けると、もぬけの殻だった。
「あれ?」
起きるのが遅かったから先に起きてどこかに行ったのだろうか、とジュードは考えるが、それにしてはベッドが使われた跡が残ったままだ。
基本、起きた後にベッドメイクを欠かさない白亜である。この状態で放置することは早々ない。
「っ!」
ジュードは部屋の外に飛び出した。アンノウンと村雨を手に持って。
嫌な予感がしたジュードはダイたちが寝ている部屋へ急ぐ。
「ジュード君?どうしたの?」
「師匠見ていませんか!?」
「ハクア君?起きたの?」
「居ないんです!それに武器まで置いていってるんです!」
白亜はどこに行くにもアンノウンは確実に持っていく。村雨より武器に見えないからというのもあるが、アンノウンが連れていけと煩いからである。
「わかんない」
「そうですか……」
ひょっこり出てくることもしょっちゅうある人なので焦っても仕方がないのだが。
「ダイさん達は?」
「まだ寝てるよ。たまに唸ってるけど」
「それならいいんですけど……」
ダイたちまでどこかにいってしまったら探すのが本当に大変になる。白亜ならこの国ではかなり有名なので見つけることもできるかもしれないが。
「私、ハクア君を見ていないか聞いてくる!」
「ありがとうございます」
ジュードも外に駆け出す。人混みが苦手な白亜が行く場所はそれなりに限られている。まずは、
「ルギリアさんなら……」
ルギリアとヴォルカが住む屋敷へ走るのだった。
「ルギリアさん!いらっしゃいますか!?」
「うぉっ!ビックリした……ジュード、でよかったか?」
「はい。師匠を知りませんか?」
「師匠……ああ、シュナ―――でもなくてハクアか。見てないが?」
ここ以外となると、予想できる場所が遠すぎて行くのに相当時間がかかる。キキョウが水を介して探してはいるが、文字通り光速で移動できる白亜には追い付けない。
「取り合えず中へ入ってくれ。急がば回れ、ってやつだよ」
「お言葉に甘えさせていただきます……」
全速力で屋根づたいに走ってきたのでかなり疲れている。それに、もし白亜の人格ではなくシュナの人格として行動していた場合はルギリア達の方が行動の予測ができるのではないかと考えたからである。
「――――というわけでして」
「なるほどなぁ。ハクアちゃんって普段からきっちりしとるイメージあるし、誰にも言わんで出てくんも変やし」
「ハクアが行きそうな場所は?」
「全部回ってみましたけど、見当たりませんでした。それに、この時間帯は人が多いので師匠はいつも外出を避けるんですけど……」
しかも服を着替えたような形跡もなかったので寝間着のまま出ていった可能性がある。懐中時計があるからそうとも限らないが。
「魔力で探さへんの?」
「魔力?」
思い出したかのように言われ、ジュードがポカンとする。
「せや。この時代には伝わってないんか?」
「聞いたことないです」
「魔力が極端に低いと使えないんだが、ハクアならば問題なく追跡できるだろう。どうする?俺がやろうか?」
「いいんですか?」
「シュナがいなくなるのはこちらも困るからな」
ルギリアは剣士だが、強化魔法なら使えるのだ。多少の魔力操作ならできる。
「………」
目を瞑ってなにかを呟くルギリア。暫くそうしていたかと思うと首をかしげる。
「これは……正直言って辿るしか方法は無さそうだ」
「どういうことです?」
「感覚でここにいるとわかる魔法なんだが、相手が妨害しているとこちらも把握できない。だが、残り香くらいはわかるから追跡するしかない」
地図で探すか、歩いて探すかの違いだ。勿論後者の方が面倒である。確実にたどり着くことは出来るが。
「お願いします」
「よしきた」
ルギリアが先導しながら三人で歩いていく。
「師匠が外に出たのは間違いないんですね」
「ああ。夜のうちかもしれないな」
「僕が目を離したから……」
「いや、逆にその寸前まで見ていたんは凄いと思うんやけど」
白亜、幼稚園児位の扱いである。
「この街の外に出ていってませんよね?」
「それは大丈夫だと思う。転移とかを使われていたら追跡は困難だが」
白亜は基本転移で移動するので買い物するときぐらいしか歩かない。人混みに入りたくないからである。
「ここで途切れてる……」
ルギリアが立ち止まった場所は、
「学校…………?」
一年だけ白亜達が通ったランバート学園だった。




