「何者だ、か?ただの冒険者だが」
「あんたにその感覚があるかは知らないが、魔法は財産そのものだ。拳銃なんかより殺傷力がある。核爆弾さえも凌ぐだろう。核は金がかかるから作らないが」
さらっと『核ぐらい作れる』発言をする白亜。実際作れるのだが。
「あんたが言ってんのは、『タダで核爆弾寄越せ』って言ってるようなもんだよ。いや、それよりずっと質が悪い」
顔をしかめながら突き放すように言う白亜。ちなみに今話しているのは日本語で、相手以外には理解不能である。
「俺は誰にも教えるつもりはない。弟子にだって言ってないしな。ああ、それと」
凶悪な笑みで、
「俺は見た目通りの年齢じゃない。どう思うもあんたの勝手だが……ガキだと思って馬鹿なことはしないことだ」
低く地を這うような声でそう言った。
「何を言ってるんだい?」
「さぁ、な?訊きたきゃそいつに訊け。もっとも、そいつが喋ったらどうなるかは知ったことではないが」
とことん脅しにかかる白亜。目が光っているので余計に怖い。
「お、まえ……一体」
「何者だ、か?ただの冒険者だが」
相当苛立っているのか鼻で嗤うようにあしらう。
「さて、俺としてはさっさと帰って城の修繕がしたいんだが」
「君をここから出すとでも?」
「……出るさ。これでも学はあってね。悪知恵が働くんだよ」
パン、と柏手を打つ白亜。
「アンノウン!」
声をあげる。今ここにはいない、仲間の名前を。
「無駄だよ。誰も来やしない」
「そりゃそうだろうな。だが、残念ながら俺が呼んだのは人間じゃない」
バゴッと何かが倒れる音がして、全員が扉の方に顔を向ける。
『全く。人使いが荒いぞ』
「人じゃないだろ?」
『問題はそこではないのだが』
老執事が入ってきた。手には白亜の私物が全て握られている。
「なぜ………!?誰だ!」
『私は貴様に捕らえられたのだがな』
「捕らえたって言うか、持ってかれたと言うか」
『問題はそこではないと言ってるだろう!』
白亜の微妙にずれた発言にいちいち突っ込みをいれる。
「でも助かった。ありがとう」
『私はそなたの武器なのだからな。そなた以外に使われたくもない』
『へぇ……成る程。これがツンデレですか』
『シアン!私はデレてなどいない!』
最近シアンがアンノウンを弄るようになってきた。白亜が気付くほどなので相当分かりやすく。
「はいはい。じゃ、こっから出るとしますか」
苦笑しながらアンノウンにそう言う白亜。すると、アンノウンから荷物を受け取ろうとした手に手錠がかけられる。
「…………」
白亜はもちろんこれぐらい避けることなど容易いのだが、あえて避けなかった。
「申し訳ございません、ハクア。ご主人様のご命令です」
「…………」
魔眼を発動させようとして、なにか引っ掛かる感覚を覚える。魔力が封じられている、と直感的に分かった。
「わかると思うけど、それは魔力を止める手錠だ。君が身体強化系の戦闘員と聞いているからね」
「……ふぅん」
カチャン、と鎖が揺れる。
「誰に聞いたか知らないけど、俺は身体強化なんて使わなくても手刀で岩でも鉄でも切断できるけど?」
グッと両手を引っ張ると、激しい金属音を響かせながら手錠が見事に砕け散る。アンノウン以外の全員の開いた口が塞がらない。
「ば、馬鹿な……!?ドラゴンでも千切れないんだぞ!?」
「ドラゴンよりも俺の方が力は強いと思うけど?」
片手でドラゴンの頭蓋骨握りつぶして笑ってられる人である。
「アンノウン」
『分かっている』
老執事の体が光り、一本の、否、四本の白い棒の繋がった武器に変化する。
「「「!?!?!?!?」」」
白亜は全員の反応をみてから盛大にため息をつく。
「はぁ……。俺の仲間は皆『はぐれ物』でね。武器も例外ではない。あんたがした計算違いは、武器に意思があることを気づけなかったこと、俺を完全に縛り上げなかったこと、少しばかり俺を怒らせたこと」
鋭すぎる目を向け、呟くように言う。
「ここで俺に向かってくるのなら俺は容赦なくあんたら全員を捕まえて海にでも放り投げる。どうする?」
答えがわかりきったような質問をする白亜の顔は、恐ろしいほど真顔だった。
「さて、出れた」
森のなか、かなり日が沈んで見えにくいが、転移できる白亜にとってはどうでも良いことだ。
「帰るか」
『何故捕まえなかったのだ?』
「何となく。特に理由はない」
白亜は欠伸をしながらそう言う。次の瞬間にはいつもの自室に飛んでいた。
「なんか忘れてる気がするんだよね………」
なんだったか、と思考する。
「あ。そういえば太陽がないとかなんとか言ってたんだった」
かなり大事なことを割りとあっさり忘れるところ、やはり白亜なのだろう。
窓の外をみると、まだ明るい。いや、暗くならないのだ。
「体内時計が狂いそうだな」
他人事のように言いながら割れた窓ガラスを修復しつつサロンに向かう。
「ですから、先にハクア様を見つけなければ―――」
「ですが―――」
声が聞こえたので取り合えず開けてみた。
「「「……………」」」
一同、無言である。
「?」
なんで静かになったのか理解できない白亜。
「師匠!?え!?」
「なんやかんやあって出てこれた」
「そ、そうですか……」
まぁ、白亜だし、と納得している周囲も、捕まえかけられて平然としていられる白亜も異常である。
「これで不安要素はひとつ消えましたね……」
白亜、どれだけ周囲に心配されているのか計り知れない。二年も監禁されていたので当たり前と言われれば当たり前なのだろうが。
白亜は懐中時計をみて、その針の位置に驚く。
「もう20時なんだ?」
一日日の沈まない白夜のようである。
「そうなんです。太陽も見えませんし……」
「この状況はリックが作ったものじゃないのか……?」
白亜にあそこまで脅されて魔法を解除しないのはおかしい。それに、ここまでのことができるようには見えなかった。
「日が落ちないのはこの街の周辺だけみたいだな」
白亜の左目が光る。
「なにか見えますか?」
「いや……なにもないな……」
探すも見付からず。白亜の目は遠くから一点を見るのには適しているが、サーチ機能は無いので人を探すなどという細かいことは見えにくい。
便利に見えて、微妙に使いづらいのだ。
「っ!?」
突然、白亜が目を見開いて耳を塞いでしゃがみこむ。
「ハクア君!?」
「白亜!」
ダイとリンが駆け寄るが、白亜は耳を塞ぐ手を離そうとしない。それどころか、
「ぁああああ!」
「痛い!痛い!」
「耳が……耳が!」
ダイをはじめ、白亜の契約獣達までが耳を塞いで叫び声をあげる。
「ぅぐ……ぁ」
中でも一番酷いのはやはり白亜だ。額から落ちる汗が地面に印をつけていく。
「どうなっている……!?」
皆耳を塞いでいるので音が関係しているのだろうが、ジュード達には聞こえない。
暫くそれが続き、とうとう白亜が床に倒れる。手が痙攣し、呼吸が浅く、速い。目は開いてはいるがどこを見ているのか不明なほどぼんやりしていて焦点があっていない。
「師匠……!師匠!」
ジュードが揺すっても反応しない。白亜が倒れた時から堰を切ったようにバタバタと倒れていく。
「取り合えず休憩させましょう!」
「妾は冷やすものを持ってこよう!」
尋常ではない状況に固まっていた者達はキキョウとルナの二人の動きを見て我を取り戻し、自分のすべきことを見付けて動き始める。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ピクピクと動く白亜の手をジュードが握り、休めるところまで運ぶ。もう、目は完全に閉じてしまっている。
「師匠が最初にやられるなんて……」
警戒を怠らない白亜が最初にダウンするとは思っていなかったジュードは白亜の汗を拭きながら驚きを隠せない表情をする。
原因が不明な以上、何をどうすればいいのか判らない。
「………早く起きてくださいよ、師匠……」
祈ることしか、今のジュードに出来ることはないのだ。




