「……残り香」
短めです。
「……?」
再び起きたときには、ベッドの上だった。
「起きたね」
「起きましたね」
背の高執事服の男性と背の低いメイド服の女性が白亜の方をみて同時に言ってきた。
白亜は、誰?と思いつつ、取り合えず見てみる。
「この人、目が怖いね」
「この方、目が不思議ですね」
同時に口を開く。タイミングはぴったりだし、終わるタイミングも同じ。話している内容さえも一致している。
「………」
「こっちをみてるね」
「こっちを見ていますね」
そう言われて白亜は初めて気が付く。なにも言わずにただじっと見つめていたことに。
「………何方ですか?」
白亜がそう訊くと、二人は顔を見合わせたあとに、
「あたし?」
「僕ですか?」
と訊き返す。白亜は頷くことで肯定した。
「ララ」
「ルルです」
メイド服がララ、執事服がルル。二人とも顔はも声もそっくりで、違うのは背丈だけだ。
「お幾つで?」
「女の子に年は聞いちゃ駄目なの」
「15歳です」
ララの訊いちゃダメ、という発言をさらっとスルーしてルルが答えた。
「ここはどこです?」
「こっちも質問するの。ずっとは駄目なの」
「?はい」
遠回しに質問攻めにするな、と言われた白亜。その真意に気がつかないまま白亜は首肯く。
「名前は?」
「白亜です」
「年は?」
「12」
「趣味は?」
「音楽……?」
「得意なことは?」
「え……計算?」
段々とずれていく会話。結局白亜の方が質問攻めにあっているが、白亜が止めないのを良いことにララの質問は止まらない。
「好きな食べ物は?」
「え……蜜柑?」
「嫌いな食べ物は?」
「多分、無いと思います……」
「ルルのことどう思う?」
「え?」
「どう思う?」
「………背が高いな、と」
返答に困る質問をされて、白亜が戸惑い始めたとき、軽い音がして扉が開く。二十代後半位の男性と、深くフードを被って顔がほとんど見えない男性が出てきた。
「ララ、ルル。二人とも、起きたのならちゃんと報告しに来なさい」
「ごめんなさーい」
「申し訳ございません」
男性に向かって100点満点のお辞儀をする二人。
白亜の前に歩いてきた。
「初めまして。リックと呼んでくれ」
「………どうも」
「名前を教えてもらえないかな?」
「………ノヴァ、です」
苗字の方を名乗ったのには、特に理由はない。寧ろ、こっちで名乗る方が多いくらいなのだ。
「後ろの彼は……私の護衛だと思ってくれれば良い」
白亜の視線が後ろの男性に注がれているのを気づいたリックがそう言う。
「ここは?」
「私の家だよ」
「……私の私物はどこにあるんでしょうか?」
「安心してくれ。ちゃんと別室にある」
「何故今返してもらえないのかお訊きしても?」
「君が噂通りの人だったら起きた瞬間に斬られると思ってね」
白亜の噂は年々酷くなっていく。目を会わせたら斬られるだの、声をかけられたら死ぬだの、あること無いこと言われている。ほとんど無いことだが。
「それで、君はここに来た経緯を覚えているかい?」
「落とし穴に落とされてよく判らない魔法に引きずり込まれた、と言えば良いでしょうか?」
「そうか。それで、君はそれを誰がやったのかわかっているかい?」
「………」
白亜の目線がリックに集中する。
「流石だね。理由を訊いても?」
「……残り香」
「残り香?なんのだい?」
「魔力には、香りがある。貴方から、あの魔法の残り香を感じる」
「そんな方法があるんだね」
なんだか嬉しそうに話すリック。
「何のために私をここへ?」
「そんなことより、口調なんとかならない?いつも友達に話すような感じで良いから」
なんだこいつ、と白亜が思うとシアンが頭のなかで、ですね、と答える。
「ほら。さ」
「はぁ………。で?どうなんだよ」
「おお!割りとワイルドだね!」
「そんな話しはしていない筈だが?」
「そうだったね。なんで君を呼んだか。だね?」
にいっとリックが笑う。
「異世界への行き方を教えてほしい。『象徴の灯』ハクア・テル・リドアル・ノヴァ」
白亜の目がほんの少し細くなる。
「………ああ。理解できた。その後ろの人が異世界人だろ?」
「…………ほぅ?」
感心したような小馬鹿にしたような声が聞こえて一瞬いらっとする白亜。
「異世界の存在を知っているんだね?」
「……まぁ、な」
「行き方は知ってるかい?」
「………知らないこともない」
ここで白亜が隠さなかったのは、後ろの人物が日本人であると最初から見抜いていたから。
それと、自信満々に白亜に異世界の話を持ち込んでくる男だから、なんとか話せばうまい具合に事が進むのではないかと考えたからだ。
「どうやっていくのかな?」
「俺が教える義理、あると思う?」
「ははは!ないね!」
魔眼を発動させて少し威圧してみる。
「俺は……行き方を知っているが、誰にも教えるつもりはない。最悪死ぬし。いや、良くて死、悪くて不老不死状態のまま世界線に引っ掛かることになる」
専門用語が入ってきて意味がわからなくなってきたが。
「で、なんでそんなことを?」
「行ってみたいってだけだよ」
「帰りたいとかそう言うんじゃなくてか?」
「彼はこの世界気に入ってるみたいだしね」
ここは日本より危険だが、繋がりが強い。
近所付き合いが生死に関わるような場所なのだ。それに刺激もあって日本人としては楽しいのだろう。
「それで、か……。言っておくが、俺は教えないぞ?というか、教えても多分無理」
「どうしてだい?」
「特別な血が必要になる。魔法を発動する物も用意が目茶苦茶大変だし」
「行ったこと、あるのかい?」
「………あるよ?」
さも当然のように白亜が答える。
「そうか」
後ろのフードの人がフードを勢いよくとって、白亜の胸ぐらをつかむ。
「おい、この世界ではどんなルールか知らねぇが、なんで教えてやんないんだよ!」
黒目黒髪にピアスや刺青。思わず、白亜が少し唸った。
「教えんのはタダだろうが。ぁあ?」
「………。情報は武器だ。魔法も情報。しかも攻撃性を持っている上に価値も高い」
「はぁ!?」
白亜がベッドに座ったまま男の足に自分の足をかけ、軸にしながら放り投げる。
「………弱い」
「なにすんだ、てめぇ!」
「こっちの台詞だ。魔法の価値も知らないでよくもまぁ生きてこられたものだよ」
わざと冷たい言葉を浴びせる白亜。
「この世界では力が物を言う。日本とは違うんだ。覚えておけ」
低い声で、日本語を話す白亜。その目は氷のように頑なで、冷たい輝きを放っていた。




