「俺が隔離されてるのかよ!」
「そっちはどうだ?」
「連絡は終わりました。問題なく」
「そうか。なら……」
白亜が言い終わる前に、大きく地面が揺れる。
「地震かっ!?」
白亜は宙に体を浮かしながら窓に手をかける。
『マスター!避けて!』
頭のなかに大きくシアンの声が響き、条件反射で咄嗟に窓から離れる白亜。すると次の瞬間、甲高い音を立てながらガラスが粉々に砕け散る。
あのまま手を置いていたら確実に破片が手に突き刺さっていただろう。
「すまない。助かった」
『お役に立てて何よりです』
『魔眼を使って状況を確認したほうがいい』
「判ってる」
両目が違う色の光を放つ。
「全員無事だな。国王様の近くにジュードと朱雀が居たのが幸いしたか。皇女様はお付きの人が守ったみたいだし」
白亜は取りあえずの無事に安堵しながら手袋を創造者で作ってから腕に嵌めて、床に散乱するガラスを摘まむ。
「こんな砕け方する、普通?」
『振動でしょうね』
『一斉に他の窓も割れたところを見るとこの周辺全部がこうなっていそうだな』
とりあえず破片を袋に回収し、枠のみになってしまった窓から外に出る。
「おかしい……静かすぎる……?」
白亜も焦っていて気付かなかったのだが、風の声が一斉に止んでいるのだ。
あれほどまでに騒いでいたのが、ピタリとやんでいる。
『上を見ろ!』
アンノウンに言われるがままに空を見上げる。雲ひとつない快晴だ。だが、なにかおかしい。白亜はその違和感にすぐに気がついた。
「なんでここまで動物が見えないんだ……?」
先程の地震で人の声は煩すぎるほど聞こえるし、目に見えるところに沢山いる。だが、一匹の鳥も、虫も、白亜の目には見当たらない。
それと、決定的な点がもうひとつ。
「太陽が……ない」
見当たらないのだ。普段なら眩しすぎるほど輝いているそれが、視界のどこにもない。
『それでも明るいということは太陽以外の光源があるんでしょうか』
『そんなことなどあるのか?』
太陽が無い。それがどういうことなのか、想像もできない。
「とりあえず皆と合流しないと……!?」
走り出そうと視線を前に戻した白亜がピタリと足を止める。
『結界!?』
「城を出たのが仇になったか!」
白亜の右目が一層紅い光を放つ。
「なんだこの魔方陣……。解けないどころかどんな理論が使われてるのか判らない……」
触れるのは危険と判断し、取り合えず覆われているところがどこなのか先に把握しに行く白亜。
「ここから大きく曲がってる」
『マスター。これ、先が読めませんか?』
「……読める気がする」
ぐるっと1周して帰ってきた。
「俺が隔離されてるのかよ!」
珍しく白亜が叫んだのだった。
「大丈夫ですか、父上!」
「大丈夫だ……。これは、一体」
「僕にも判りません……。何かあるっていうのは師匠から聞いていましたが、これでしょうか……?」
白亜はなにかが落ちてくると言ったのだ。地震ではない。
「取り合えず師匠と連絡を取ってみます」
白亜に通信機で連絡をとる。
「………?」
が、全く繋がらない。白亜は面倒になっていたり電源入れ忘れていたりすることがあるので繋がらないことは割とあるのだがこの緊急事態で無視はないだろう。
「師匠に何かあったんじゃ……?」
「ジュード。取り合えず合流するぞ。某の方でリンとは連絡を取った。サロンへ行くぞ」
「はい」
きっと白亜もそこにいるだろうと思いながら国王、朱雀と、たまたま近くの廊下を歩いていたダイと一緒にサロンへ向かった。
サロンは避難所のような役割でもあり、かなり頑丈に作られている上に広いので大抵皆ここに集まる。
リン達と合流したジュードは使用人の中から白亜を探す。
「師匠がやっぱりいません」
庭師のクイアスは地震の直前にスコップを取りに行っていたらしく外にはいなかったそうだ。白亜、あの時点で無駄働き確定だったのである。
「師匠……!僕、外を見てきます!」
「私も!」
「なら、某も行こう」
「行く」
もしなにかあったときに誰もいなくなっては困るのでジュード、リン、ダイ、スターリの四人で白亜を探しにいった。
割とすぐに見つかった。
「師匠!大丈夫ですか!?」
「――――」
「え?」
ジュードは白亜が何をいっているのか殆ど聞き取れなかった。まるで分厚いガラス越しに話しているかのようにくぐもって聞こえる。
その理由は明らかだった。ジュード達と白亜を隔てるようにして大きなガラス板のようなものが立っている。結界は、実はあまり知られていない。
白亜は前世で覚えたのだが、この世界では殆どのことは魔法で済ませるので結界の考え方が殆ど無いのだ。
声が聞こえないと見るや、白亜が創造者で大きなノートとペンを出し、サラサラとなにかを書いていく。
【前にあるのは結界だ。それも相当ヤバイやつみたいだから絶対さわるなよ?】
白亜がそう書いた紙をこちらに見せてくる。ジュードは頷くことで肯定する。
「師匠は此方にこれないんですか?」
聞こえないとわかっていても、そう聞かずにはいられない。
白亜は暫くジュードの口元をじっと見てから紙に何かを書いて見せてくる。
【出られそうにない。だけど、幸いにも俺を隔離する結界みたいだったから俺以外はこの中にはいないみたいだ】
「じゃあハクア君はどうするの!?」
【判らない。上も囲われてるから飛べないし】
「では……む?聞こえているのか?」
【聞こえてないけど、口の動きで判断してる】
読唇術である。しかもほぼ完璧に理解できているようだ。
「地面の下とか」
【見てみたけどダメだった。球の中に閉じ込められてるみたいになってる】
「ボールの中みたいに?」
【そう思ってもらっていいと思う。それと、気付いたか?】
「なにを?」
【空をみてみろ】
全員が上を見ると、目を見開いて周囲を見回す。
「太陽が……ない!?」
「どういうこと!?」
【俺にも判らない。シアンでも、長く生きてるアンノウンでも判らないみたいだ】
ふるふると首を振りながらそう書いた紙を見せる白亜。
「これからどうするんです?」
【判らない。取り合えずこれの解析をしてみることにする。そっちでも太陽が無いことを調べてくれ】
「わかりました」
白亜に創造者の能力があって本当に良かっただろう。食べ物作り放題である。
「俺の知らない理論……。ちょっと不味いかもな」
『私もこんな規模の結界はみたことがないので』
『私もだな。太陽が消えるなど、聞いたこともない』
白亜は紙に魔方陣を写して何度も右目を光らせながら理論を読み解いていく。
「なぁ、シアン。ひとつ気になったんだけど」
『なんでしょうか?』
「この太陽が無い感じ、俺どっかで味わったことがある気がするんだよね」
『結界に閉じ込められたことか?』
「そっちははじめてだけど」
目を瞑って思考する。
「あ」
なにかを思い出した白亜が口を開いた瞬間、白亜の座っていた地面がぽっかりと空洞になり、立っていたときなら出来たはずの対処も出来ず、綺麗に落下していく白亜。
「ぁぁぁああああ!?」
最近、よく落ちるなぁ、等とこんなときにどうでもいいことを考えながら。