「五分五分ってところだな」
150話ですね!いや、だから何って訳じゃないんですけど。
「おー、帰ってきたか」
「ああ。ただいま。朱雀いるか?」
「む……某より朱雀か」
「白虎に伝言頼まれてるんだよ」
「ふむ。先程サロンに居たぞ?」
ダイとそんなことを話す白亜。すると、ダイは後ろにいる二人に目を向ける。
「それで、その後ろの二人が?」
「ルギリアさんとヴォルカさんだ。話は聞いてるだろう?」
「ああ」
そう言って二人の前に行くダイ。
「某はダイ。黄龍、公爵位だ」
「ってことは一番権限が上なんやね?オレはヴォルカや。よろしくな」
「俺はルギリアだ。よろしく」
「うむ。よろしく頼む」
顔合わせも終わったとみた白亜が壁に額を付け、目を瞑る。
「何しとるんや?」
「音を聞いているのだ」
「音?」
暫くすると白亜は目を開けて壁から離れる。
「見付かったか?」
「ああ。自室に居たよ。俺今から行ってくる。少しだけここに居てくださいね」
ダイに話しかけたあとにルギリア達のほうを見てそう言い残し、風を残して消えた。
「消えた!?」
「いや、走っていっただけだ。あそこまで早く動けるとは……」
ルギリアが感心したようにそう言う。ほぼ白亜とルギリアは互角の身体能力を持っているのでしっかり確認できていたようだ。
「白亜も相変わらずだ……」
ポツリと呟いてからダイがその場を離れようとする。
「ちょっと待って!」
「なんだ?」
「ここに二人だけでいたら最悪侵入者だと思われるだろ!」
「むぅ、それもそうか」
もしそうなった場合は白亜が来るだろうが。
「ひとつ聞いても?」
「む?」
「シュナ……ハクアは貴族なのか?」
「いや、白亜は普通の農民の子だ。弟子が第二王子だからここに住まわしてもらっている。勿論、某等も」
「へぇ……凄いんだな、ハクアは」
すると、白亜が帰ってきた。
「渡せたか?」
「ああ。謁見先に済ませないと……。ルギリアさん、ヴォルカさん。此方へ」
二人を案内する白亜。たまにすれ違う人達に挨拶しながら謁見の間へ歩いていく。
謁見の間は入り口からそう遠くない場所にあるのだが、白亜達が入ってきたのは裏口なので少し遠いのだ。
ルギリア達は王城の調度品や飾られている絵画に興味津々である。
「これ綺麗な絵だな」
「………そうでしょうか?」
白亜はそれをまじまじと見て、そんなにいい出来じゃない気がするんだけどなぁ、と呟く。
「それは失礼じゃないか?描いた人に」
「そうですか?いや、これ私が描いたので………」
「「えっ」」
実は、部屋や謁見の間に飾ってあるものはともかく、こうした陽当たりの良い、本当は絵を飾らない方が良い場所に飾ってあるものは白亜の描いたものが何枚かある。
これは白亜が売ったわけではなく、以前バルコニーから外の景色を描いていたらそれが国王の目に留まり、飾らせてくれと逆に懇願されたからである。
白亜の絵のファンなのだ。
因みに白亜はたまに描きためた絵画を超格安で売ったりしている。コレクターもいる上にファンクラブの会員が買い占めていくので競争率はとんでもないくらい高い。
しかも1枚3エッタという下手したら材料費の方が高くつく値段なのだ。とりあえず買ってみよう、という人も多く、ファンが次々と生まれている。
本人全く気付いた様子がないが。
「ここから先は居住スペースを抜けるので誰に見られても良いように振る舞ってください」
「え、ああ」
「お、おう」
ルギリアとヴォルカが表情を固くする。畏まる必要はないんですけど、と小さく溢しながら白亜が先頭を歩いき、謁見の間に着く。
「それではこれから国王様に会いますので、身嗜み大丈夫でしょうか?」
「バッチリだ」
二人の様子を確認した白亜は掌をドアの上のほうに向ける。すると、勝手にドアノッカーが動いて硬質な音を響かせる。
「魔法使ったんか?」
「背が届かないので」
悲しい現実である。
「入れ」
「失礼いたします、国王様」
直ぐに中から声が聞こえたので一言声をかけてから中に足を踏み入れる白亜。
「「ふぁ………!」」
ルギリアとヴォルカは同じ反応をした。
飾ってある宝石や絵画をみて目を輝かせている。
「ハクア。一昨日は済まなかった」
「いえ。平民に対する態度としては当然のものだと感じましたし、私は何も思っていませんので」
「そう言ってもらえると助かるな」
国王に深くお辞儀をして後ろにいる二人を紹介する白亜。
「この方はルギリア・ファルセット。剣士です。そしてこちらがヴォルカ・リンブリッジ。シーフです」
「話は聞いている」
「怖い人じゃなくてよかった……」
「国王様は気さくな御方ですから」
「ハクアちゃんはここに残るんか?」
「ええ。そのつもりです。家の方はゴーレムに任せてありますので、何かあればご連絡ください」
そんなことを話していると、少し離れたところに皇女がいた。そういえば名前聞いたことないなと気が付きつつ、どうでもいいかととりあえず問題を放置する白亜。
「皇女様。おはようございます」
「ハクア君、今までどこにいたの?」
「休養をとっていました。何かありましたか?」
「いいえ。ただ、私堅苦しいの苦手だから」
「そうですか」
確かに大変そうだ、と周囲に潜む護衛の声を聞きながら思う白亜。
「今日は何かするの?」
「鍛練ですね。弟子を見る約束でして」
「ご一緒してもいいかしら?」
「構いませんが……面白いかどうか」
「気分転換したくて」
「こちらは構いませんよ。訓練場でやっておりますので、気が向いたらどうぞ」
深々とお辞儀をしてその場を去る白亜。そういえば皇女様この二人にはノーコメントだったなぁ、等と思いつつ。
訓練場には既にジュードとリンの姿があった。
「師匠、お疲れ様です」
「ハクア君、おはよう」
挨拶もそこそこにジュードと白亜がいつもの訓練を開始する。
「もっと踏み込め!力が入っていないぞ!」
「はい!」
「足音立てるな!」
「はい!」
ジュードが木剣を振り、白亜が回避しつつダメ出しをしていく。しかも全部紙一重で避けていくので白亜の体勢はほとんど変わっていない。
ジュードが荒く息を吐きながら白亜に向かっていくのを涼しげな顔で見ながら息ひとつ乱さずに的確に指導していく白亜。
やはり化け物である。
「ハクアちゃん、ルギよりも強いんとちゃうか……?」
「やってみないと判らないが、指示が全部的確だ。つまり、人の動きを熟知している。滅茶苦茶戦い慣れているやつの動きだ」
「ハクアちゃんとやって勝てるんか?」
「五分五分ってところだな」
「スゲェ」
白亜は魔神に教わったのだが、ルギリアはいったい誰に戦い方を教わったのか、知っているのはルギリアのみである。
それは、誰にも話そうとしないのだ。決して。




