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「そう言われると思って既に申し立ててますよ」

「おはようございます。ハクア様」

「おはよう」

「お体の調子は?」

「まぁまぁだな……。あの二人は?」

「まだ起きていらっしゃいませんが?」

「そうか……いや、別に何かある訳じゃないんだが」


 白亜が懐中時計を見ながらそう言う。


「国王様に話した方がいいだろうな……」

「では、本日お帰りになられますか?」

「ああ。だが、あの二人は多分ここだ。流石に得たいの知れない人間泊める訳にはいかないだろうから」

「了解いたしました」


 白亜は耳にイヤホンのようなものを付け、ボタンを押す。耳元に真珠石のピアスが揺れて、ほんの少し光った。


「ジュード?」

「師匠!大丈夫ですか?」

「なにが?」

「お疲れだと聞いて」

「ああ、もう大丈夫だ。それで、国王様との謁見は可能か?」

「そう言われると思って既に申し立ててますよ」

「………」


 出来すぎる弟子で怖い。


 正確には、人外過ぎる白亜を支えるためには相当出来ないといけないだけなのだが。


「後で向かう。裏から入った方が良いか?」

「ええ。そっちの方が有り難いです」

「判った。それじゃあ、また後で」


 通信機を切って懐中時計にしまう。白亜は腰のアンノウンに触れながら今日の予定を頭の中で組み上げていくのだった。









「ハクア君?」

「はい。やはり謁見の話でしたよ」

「先に言っておいて良かったね」

「ですね」


 慧眼すぎる仲間達である。


「それよりも、まさかあの絵本のルギリア傭兵団が現実に居るなんて驚きましたよ」

「だねー。ただの想像の人物みたいなものだったし」

「師匠もそこに所属していたというのは、まぁ、何となく想像できますけど」


 正確には白亜ではなくシュナなのだがもう混同してもいいだろうか。


「ハクア君、ルギリアさんって人が好きなのかな」

「な、何でそんな話に!?」

「だってそんなことキキョウさんが言ってたよ?ハクア君、記憶が混じってるからあの人のこと好きだって」

「…………」


 思春期真っ盛りの会話と言えばこんな感じだろう。性別云々は置いておいて。


「ねぇ。ルギリアさんって人にハクア君が付いていっちゃったらどうする?」

「どうするって言われましても………師匠について行くのが僕ですから」

「だよね」


 師匠大好きなジュードなのでこの返しは意外でも何でもない。日常に近いものである。


「ハクアの話か?」

「あ、ルナさん」

「妾も聞いたぞ、ハクアが前々世を思い出したとか言っていたらしいの?」

「シュナさんですよ。ルナさん。それで、ルギリアさんって人のことが好きになってるって」

「ハクアが恋!?」


 その話は聞いていなかったようだ。しかし、ルナの目は心配な顔ではない。寧ろ輝かせて好奇心に溢れている。


「それはまた面白そうな」

「いや、好きなのはシュナさんですよ?師匠は記憶が混ざってる関係でそうなってるってだけです」

「それぐらいわかっておる。しかし、面白そうよの」


 くつくつと笑うルナの顔は少し怖い。滅多に弄れない白亜の面白い話を聞けたからだろうか。


「し、師匠なら何とかしますよね、多分……」

「う、うん」


 そのあまりに凶悪な顔にただただ引いていたリンとジュードだった。









「旨そう!」


 白亜が作った朝食をルギリア、ヴォルカ、キキョウ、そして白亜が食べていた。


「凄い腕やな……料理人、なれるんやないか?」

「誘われはしますけど……本業は冒険者なんで」


 いつもの白亜のテンションである。寧ろ悪くない方だ。それでもやはり普通の人から見ると明らかに低い。


「なんや、調子悪いんか?」

「いえ、これが普段ですので……」

「え」


 ヴォルカがキキョウに目線を移すとキキョウが首肯いた。これが普段ならば本当に低いときはどんなものだろう、と二人は気になりつつも朝食を摂る。


 因みに、後日本当にテンションが低いときを目の当たりにした二人は揃って『死んでいる』と言ったらしい。


「それじゃ、いきましょうか」

「殺されたりしないよな?」

「余程馬鹿なことしない限りは大丈夫だと思いますよ」


 この人を殺せるほどの腕を持った人間が白亜以外でいるかどうかは完全に謎でしかないが。


 街道を歩く四人。因みにルギリアとヴォルカの服は白亜が用意したものだ。あまりにもデザインが古くて一周回って新しい服装になっていたので。


「あれなんや?」

「?」


 指差した方を見ると、吟遊詩人が道端でギターの劣化版のような楽器をもって歌っていた。


「吟遊詩人ですよ?」

「吟遊詩人って音魔法の?」

「あ………それじゃないですね」


 古代では、吟遊詩人というのは今とは違ってパーティーの中に居る、ちゃんとした役割だったのだ。


 役割り的には、回復役ヒール支援役サポーターの中間のようなもので、音魔法という古代魔法を使って簡単な清めをしたり傷を癒したりするのだ。


 ただ、多彩なだけに一つ一つの威力はそんなに強くないのが特徴である。


「あれは、御伽噺とかを歌にしてああやって歌ってお金を集めるお仕事です……。意外と需要があるんですよ」

「凄いなぁ」


 白亜も同じことが出来るのであまり凄さが判らないが。


「あんな音出す箱見たことないな」

「箱……ああ、楽器ですか」

「あれは何て言うんだ?」

「いや、ギター……なのか?」


 疑問系である。


「判らないのか?」

「似た楽器はよく知ってますけどね」

「どんなやつや?」

「それは………ぁ」


 話ながら歩いていくと、見知った顔に出くわした。


「若旦那。調子は良くなったのか?」

「ああ。大分な」


 配下の公爵位、白虎エスペーロである。白亜の後ろの二人を見て一瞬目を細くした後、小さく感心したように頷いた。


「あんたらがルギリアってのとヴォルカってやつ?」

「せやで?あんたは?」

「俺はエスペーロだ。若旦那の配下、公爵位の白虎だ」

「「???」」


 名前以外が通じなかったようだ。


「公爵位?」

「ああ、若旦那の契約獣は尋常じゃないくらい多いからな。爵位で上下関係を決めているんだ」

「契約獣?」

「若旦那、言ってないのか?」

「………かもしれない」

「おいおい」


 少し抜けている白亜に苦笑しながら白虎エスペーロが説明をする。


「俺は白虎。四神の一柱だ。人間の姿をとっているのは若旦那の魔力を借りてるからだな」

「契約獣が人間に化けられるとは、時代が変われば物凄い魔法も出てくるものだな」

「いや、人型になれるのは俺らだけだけど」


 正確には、スターリやダイ達契約獣は白亜と契約をした際に白亜から膨大な量の魔力を契約金として受け取っている。


 その魔力を使い、人間になっているのだ。勿論永久に減らないわけではないので何年かに一度は補充が必要であるが、白亜が魔力が有るときに受け渡しているのでもう最初より数倍に膨れ上がっている。


「そんなことより若旦那。開拓の方はもうすぐ終わるぜ」

「思ったより早かったな」

「ま。若旦那が魔眼で見た方が早かった気もするけどな」

「それじゃあ何かあったときに直ぐに対処できないだろうが。お前らに頼むのはそれ相応の理由がある」

「わかってるよ。ちゃんとやってるしな」

「ん。引き続き頼むぞ」

「はいよ」


 言葉だけにすると分かりにくいが、実際は白亜の目線に白虎エスペーロが合わせるようにして話しているのでしゃがんで話している図だ。


 小さい子供に目線を会わせるそれである。


「若旦那はこれからあっちに戻るんだよな?」

「ああ。何かあったのか?」

朱雀カーロにこれ渡しておいてくれねぇか?」

「ん。わかった」


 小さく折り畳まれた紙を渡された白亜は無くさないように直ぐに懐中時計にしまう。


「それじゃあ、また」

「じゃ」


 え?一緒に行かないの?という顔をしながら後ろからルギリアとヴォルカが付いてくる。


 因みにキキョウは白亜の肩に乗っている。


「一緒に行かなくていいのか?」

「ええ。基本仕事以外の時は自由ですので」

「契約獣なんやろ?ええんか?」

「一緒にいるってなると正直人数が半端じゃない上に個人の自由がないとつまらないだけですし」

「そういうもんなのか?」


 イマイチよくわかっていない二人だった。

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