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「戦争の理由とは?」

「それで、記憶の混濁っていうのはなんとかなりましたか?」

「ああ、それはなんとか……。ただ、まだ微妙なところがいくつかあるけど」


 もとに戻った白亜を見て少し安心するキキョウ。


「昨日起きてすぐの時は混濁が激しくて……白亜よりもシュナの方が前に出てたから……性格っていうか人格そのものが変わってたような感じがする……」


 面倒くさそうに白亜がいう。


「それで、どうするんですか?これから先、あの人達を受け入れるんですか?」

「勿論!」

「え?」

「……すまん、少しシュナの方が出てきた……」


 どうなっているのか非常に気になるところだが。


「今の俺には……その、すごい恥ずかしいんだが、ルギリアさん達に助けられた記憶とか………あの人が好きだって感情が上書きされてて……見捨てること、できないかもしれない」


 白亜が、大きくため息をつきながらそう言う。


「この家を貸すんですか?」

「ん。そうなると思う」


 くぁ、と欠伸をしつつ、白亜が伸びをする。


「………国王様に報告した方がいいかもしれんな」

「ですね」


 ルギリアなど白亜と同等の戦闘力を持っているのは確かなのだ。ここで報告せずに放っておいたらどこから狙われるか判ったものではない。


 それに、言葉は同じなのだが文字が大幅に違い、読むことがままならないのだ。


 白亜はそれなりに読めるが。


「今日は取り合えず休みにしよう……俺もちょっと疲れてるし、たまに勝手にシュナとしての人格が出てくるのはどうも慣れないしな……」


 滅多にない提案に、普段から白亜に休めと言っているキキョウでも不安になる。白亜は滅多に感情を表に出さない。


 言葉にするなど、もっと無い。つまり、白亜の、疲れた、という言葉は相当疲労が溜まっている証拠で、常人ならば倒れる寸前状態である。


 実際に白亜は本格的に寝ることに専念するのであながち間違いではないのだが。


「そうですか……。休まれるのなら良いのですが」

「ん。皆にも伝えておいてくれないか?」

「はい。お休みなさい」

「お休み」


 朝に言う言葉ではないが。








「あれ、シュナは?」

「シュナ……というかハクア様はお疲れのご様子で、今日は一日休息に専念するそうです」

「休息に専念するってあまり聞かないな……」

「ハクア様は普段から休んでいるところをほとんど見ないので寧ろ丁度良いくらいですよ」


 休日というものはあっても、結局全く休まないのであって無いようなものである。


「ふぁ………」


 欠伸をしながらヴォルカが起きてきた。


「シュナは?」

「同じこと聞くんですね……」


 第一に考えることは二人ともシュナらしい。一体彼女はどんな立ち位置だったのか。


「ハクア様は休息に専念するそうで、今日一日お休みになられるそうです」

「仕事とか大丈夫なんか?」

「元々、ハクア様の年齢は殆どがまだ一人立ちしていない位なので。それに、十分稼いでますよ?」

「一人立ちしていないって、ハクアちゃん幾つ?」

「12歳です」

「「12!?!?!?」」


 開いた口が塞がらないかのように二人揃って口を開けて驚く。


「12歳ってまだ全然子供じゃないか」

「ええ。子供ですよ?」

「あんなに大人びてるやんけ!」

「前世の記憶があるので。それに、シュナ様としての記憶も覚えているようですし」


 白亜には三人分の記憶がつまっているのだ。そう考えると相当年寄りみたいだが。


「まさかそんなに年下だったなんて……」

「ルギリア様はおいくつですか?」

「俺は24だな」

「お若いのですね」

「ハクアには負けるけどね……」


 逆に勝っていたら幾つだよ、という話になりそうだが。


「オレは27なんよ」

「ヴォルカ様の方が年上なのですね……え?しかし、リーダーはルギリア様なのですよね?」

「ああ。説明しようか?」

「ぜひ」


 ルギリアが傭兵団の説明を開始する。


「俺がリーダー、剣士のルギリア。それで、副リーダーが魔導士のシュリア」

「シュナ様は副リーダーだったんですね」

「せやで。世界一の魔法使いやったんやで?」


 白亜もそんな感じである。


「それで、シーフがヴォルカ。弓士がウリドナ」

「ウリドナ……?」

「あの絵でオレの後ろにいたエルフの女の子やで」

「ああ、あの帽子を被った」

「せや」


 にいっと笑って肯定するヴォルカ。


「槍士がアイン、回復役ヒールがツヴァイ。この二人は魔族の双子だ」

盾役シールダーがヒロト、二人目の剣士がニンフィ」

「ヒロト?」


 日本人のような名前が出てきた。


「ヒロトは別世界の人間なんよ」

「それって珍しくないんですか?」

「無かったな。割りといたぞ?」

「へ、へぇ………」


 白亜もその一人ではあるのだが、何億年も昔は頻繁に地球と繋がりがあったようだ。


「これがうちの傭兵団のメンバーだ」

「思ったより少ないんですね」

「あんまり多いと寝首かかれるやん?」

「物騒ですね……」


 まさに戦乱の時代だったためにその辺りには慎重なのだろう。


「それで、どうしてこの時代に?」

「それが……。シュナが戦争の理由を無くすために大規模魔法を使ったんだ。その時に、俺達を持っている限りの魔力で遠くに飛ばしてくれて……。多分、未来の自分が来る時に召喚されるようにしたんだろう」

「ハクア様、ですか」

「そうだ」


 ひとつ、キキョウには引っ掛かっているところがあった。


「戦争の理由とは?」

「種族の縄張り争い……って表向きにはなっていた」

「表向きには」

「せや。やつらが狙っていたんは、シュナの魔力と魔法やったんや」

「シュナ様の……?どういうことですか?」

「『優れた魔法使いはどんな手を使ってでも引き込むべきである』とかいう馬鹿げた話さ」


 大きくため息をつきながらルギリアが答える。


「この時代はどうか判らないが……俺達の時代では魔法使いは国の役人として直ぐに申し出なければならないっていうくらい貴重な存在なんだ。でも、申し出たところで奴隷のような生活が待っているんだけど」


 今でこそ属性魔法というものが確立され、かなりの人数が魔法を使えるのだが、古代魔法を見てわかるように、古代魔法を正しく使えるものは早々いない。


 しかも威力が半端ではないので一人いれば相当な戦力になる。


「それに、魔力は国中に配布しなければならないから魔法使いから搾り取るしかないんだ。……シュナはたった一人で二つの国の魔力を補えるほどの魔力量を持っていたから」


 この時代では、長く続いた乱戦のために水は汚れ、大気汚染も激しかったので魔力を使って水を作り、火をおこし、空気を清浄するので魔力は生活にかなり密接したものだったのだ。


 生命線とも言えるだろう。


「勿論、他にも狙われている魔法使いは沢山居た。だから、どちらかと言えばあの戦争は『魔法使いを奪い合う為』の戦争に近かったと思う」


 他者を寄せ付けないほどの圧倒的な魔力と魔法を行使する存在であったシュナはその力を隠して生きていたらしい。


「でも、魔力視の魔眼を持つやつに嵌められて一度拉致されかけたんだ」

「嵌められて……」

「そこを助けたんがルギやったんよ。その後にオレらが誘われてルギリア傭兵団ができたんや」


 白亜は昔から拐われやすい体質だったらしい。

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