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「主、さっきからヘン」

「豪邸やん。ええとこ住んどるんやな」

「いえ、ここは空き家でして。私達は別のところに」

「これが空き家なんか!?」


 確かに空き家にしては豪華すぎる空き家である。


 日本組に持たせたお金で朱雀カーロが買った家なので最初から一応白亜の所有物である。


「どうぞ」

「お邪魔しま……凄いな」

「なんやあの魔導器。みたことないで」


 唖然とする二人をリビングに通し、スターリに状況説明をしに一旦王城に戻ってもらう。


「通信魔法具使わんのか?」

「通信魔法具も有りますが、ほとんど普及していないので……。なるべく使わないようにしているんです」

「なんでや?」

「狙われる確率が上がるでしょう?」

「そんなにマイナーなもんだったか?」


 首をかしげるルギリアとヴォルカ。その二人の反対側に白亜とキキョウが座る。


「さて。どこからお話ししましょうか……、よし。では質問させていただきます」

「なんや?」

「貴方達はここがどこか判っておられますか?」

「いや、判らない……。ここはニュトラか?」

「いいえ。もうその国は数億年前に滅びました」

「億……!?」


 あまりにも遠すぎる時間に二人が口を開けて固まった。


「もうお察しかも知れませんが、ここは戦争から10億年程たった時代で人間国、リグラートと言います」

「人間国………?」

「ええ。他にも獣人国や魔族国が有りますが」


 ルギリア達の生きていた時代では、ハッキリとは区別されていなかった。それ故にハーフも多かったという。


「ひとつ聞いても?」

「ええ」

「俺達は帰れるのか?」

「時魔法は?」

「使えない。俺達の中でも唯一使えたのがシュナだったんだ」


 時魔法は魔法の中でも最高位に難しい魔法で、白亜でも計算が面倒くさくてあまり使わない。


 使えないこともないが。


「持ち物ならすべて売ろう。それで宮廷魔導士の時魔法の使い手に頼んで……」

「無理だと思います」


 キキョウが食いぎみに答える。


「何故?金ならば……」

「金の問題ではありません。純粋にその魔法、今は廃れて誰も使えないんです」

「廃れた………?」


 古代魔法が主として使われている時代から来たのだ。おかしいと思うのも珍しくないだろう。


「私の知る限り、それを使える人間はこの世に存在しないでしょう……一人を除いて」

「その一人って」

「ハクア様です」

「ハクアちゃん!?」


 それまで右目を瞑って何かを考えていた白亜が溜め息をつきながら右目を開く。


「正直に言いますと……無理です」

「なんで」

「数年とかでも十分苦労するのに億単位なんて時間遡るのは不可能です。しかも自分じゃなくて他人なのも……」


 白亜は頭を振ってそう言う。


「取り合えず言いますと、現状では不可能です」

「じゃあいつか……?」

「資料が出てこれば、の話です。魔力も全然足りないですし」

「そうか……そうだよな」


 キキョウが目を丸くして白亜を見ている。感情を一切表に出さない白亜が表情を変え、イントネーションさえもフル活用している。


 もう超常現象並の異常な様子である。


「あの……ハクア様ですよね?」

「なにいってるんだ?」

「いえ、その……」


 答えの返し方も口調もちゃんと白亜なのだが、あの死にかけてる感じが一切ない。


「き、気分がよろしいのですか?」

「気分?なんの話だ?」

「い、いえ。なんだかいつもと違う感じがするので……」

「?……まぁ、普通だけど。何が悪いとか良いとかはない」

「そうですよね……」


 質問を失敗したな、と思いつつやはり違和感を感じるキキョウ。白亜なのだが、どこか違うのだ。


 キキョウが一所懸命になっていると、スターリが帰ってきた。


「スターリ。あっちはどうだ?」

「ん。説明終わった」

「ありがとう」

「?」


 頭を撫でる白亜。その動作はいつも通りなのだが、スターリは違和感しか感じない。そして、スターリは白亜と同じ、天然記念物だ。つまり、


「誰?」


 直球にそう聞いてしまった。


「誰って……何言ってるんだ?」

「主、さっきからヘン」

「さっきって」

「起きてから、なんか違う。キキョウもそう思ってた」

「俺が、ヘン?」


 怪訝な顔をしてそう訪ねる白亜。


「ほら、おかしい」

「どこが?」

「主は、そんなに顔変わらない。もっと静か。もっと目怖い」


 悪口に聞こえないこともないが、スターリがそう捲し立てる。


 すると、


「ふふふ……ははは」


 白亜が笑い始めたのだ。声を出して。


「やっぱり何か違います!」

「ん。主は笑わない」


 悪口を微妙に肯定する二人。白亜はその間も小さく声をあげながら笑っている。


 ルギリア達は完全に忘れられている。


「ははは………まさか、そこまで言われるとは思っていませんでしたね」


 表情が、がらりと変わる。いつも白亜がしている荒んだ顔とはうって変わって満面の笑みである。慈愛に満ち溢れた目からは、白亜の普段の圧迫感は微塵も感じられず、どこか包み込むような優しい雰囲気が漂っている。


「………シュナ……………?」


 ポツリとルギリアが呟くと、白亜が優しく微笑みながら、


「はい……。ただいま戻りました」


 はにかむように、そう言った。


「シュナやて……?どう言うことや……?」

「厳密に言えば、私はあの時術の代償で死にました。この子……この体は私の来世の来世に当たる存在で、ルギに会ってから思い出したんです……。昔の、自分を」


 白亜に前世の記憶があることは白亜の仲間ならば皆知っている事実である。実際に世界線まで越えて見せたのだからその信憑性もバッチリだ。


 しかし、そのまた前世があることは今はじめて出てきた新事実である。


「死んでから私は、異世界に転生するチャンスを得まして、揮卿台白亜として転生するに至りました……。その際、普通の輪廻転生と同じように記憶を全て削除して」

「削除……」

「ですが、この世界に再び生を受ける際に、私は白亜としての記憶を受け継いで転生することになりました。ですから、昔削除した部分がまた復活したのではないかと考えています」


 言い回し方も白亜、声も、容姿も。ただ、雰囲気が圧倒的に違うのだ。白亜を知っているものからみれば違和感しか感じないであろう。


 笑顔などとは縁遠い目付きをしているので。


「でも、ハクア様なんですよね……?」

「ああ、それは間違いない。単に記憶が追加されただけで……。白亜としての記憶やらなんやらは無事だ。安心しろ」

「なら、いいんですけど……」


 顔つきが一瞬で白亜に戻って、ぶっきらぼうにそう言う。


「思ったんやけど、ハクアちゃんってなんでそんな口調なん?」

「前世が男だったので」

「ああ、成る程……」


 察せよ、という空気が白亜の周囲を漂う。いつもの白亜だ。


「ちょっと急に思い出したもんだから記憶が混濁しててな……。所々俺っぽく無いかもしれん」

「シュナと今のハクアが混ざるのか?」

「ええ。簡単に言いますと、昨日ルギと王城で話したな、っていう意味判らないことになってるんです」


 昨日話したのは皇女である。


「ですから今日は休ませていただきます……。寝たほうが記憶の整理がつくので」

「ん。おやすみ」

「おやすみなさい」


 白亜、ここで寝るらしい。いや、それでいいのだろうが。

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