「人間誰しも不完全であれ」
昨日更新できなかったですね……。すみません。
皇女は次の日、庭に出て散歩をしていた。
「綺麗……!家もちゃんと手入れすればいいのに……」
皇女の家は庭は綺麗ではないらしい。実際、林みたいになっている。
白亜が城の警備に手を貸しているので、余程の事がなければ危険はない。寧ろ襲いに来た方が重症どころではすまない怪我を負うことになる。
綺麗にグラデーションになっている花々を見ていると、遠くに人がいた。白亜と朱雀である。皇女は近づいてみることにした。
「それで、どうなってる?」
「順調です。もう少しで調べ終わるかと」
「ん。コロポックル………あの小人は?」
「なんとか翻訳機を使いながら意思疏通を図っている所です」
「そうか。そのまま頼んだ」
「了解いたしました」
白亜はその場にしゃがみ、生えている草に手を触れる。
「レモングラスですか」
「ん。もうそろそろいい時期かな」
ツンツンとつついて葉を裏返し、状態を確認する。
「今日は1日こちらに?」
「いや、少し出掛けようかと思う」
「そうですか。それではなにか進展がありましたらお部屋に書き置きをしておきます」
「ああ、頼む」
話し終えた朱雀が去っていく。姿が見えなくなったところで白亜が皇女に目を向けた。
「どうされましたか?」
昨日と同じ様に、そう聞く。
「盗み聞きしてたわけじゃないんだけど……」
「わかってたので大丈夫ですよ」
「昨日もそんなこと言ってたわね」
「私、人よりも耳がいいんです」
「耳?」
「五感もそうですけど、聞いたこと無いでしょうか?万物の呼吸という力を」
皇女の目が大きく見開かれる。
「お伽噺の………?」
「お伽噺ですね」
「だから王子様の師に……?」
「いいえ。これが使えるようになったの、最近ですので」
銀色の髪をかきあげて、隠れかけていた目が露になる。左目がぼんやりと輝きを放っていた。が、それも直ぐに消えてしまう。
「皇女様、以前お会いしたときもそうでしたが、貴女は平民の私をどう思いますか?」
「え?……お世辞なしで、凄いと思うよ?」
「いえ、そういうことではなく……。私は元々ただの農民ですので、そんな者が王城に住んでいることはおかしいと、昨日初めて実感しまして」
国王様も弟子も、そういうの気にしないので……と少し遠くをみながら話す。
「私の住んでる皇国では有り得ないかな」
「ですよね……。それで、質問なのですが」
「?」
「もし私が領土を得て、自分の町なり国なりを作ったと知ったら、貴族の方は、やはり私を潰しに来るでしょうか?」
皇女は白亜の言葉にぎょっとする。
「え?」
「いえ、この国の貴族と言えば国王様なので……。国王様が私を邪険にしていらっしゃらないので普通なら、どんな反応をするのかな、と」
あくまで参考ですし、皇女様が何を言ったかとかも秘匿します。と付け加えながら白亜が皇女を見る。
「潰しにかかるでしょうね」
「やはりそうですか……」
「領地、もらうの?」
「開拓しようかなと」
「自分の国が欲しいの?お金とか?」
「まさか」
軽く白亜が笑う。
「お金ならそれこそ魔物倒していればいくらでもつくれますし」
「冒険者は言うことが違うわね」
「これでも一応腕はある方なので」
地面の花やハーブをみながら、
「差別って、どうしても無くせないんですよね」
「差別?」
「ええ。人間……魔族でも獣人でも同じですが、意思疏通が可能なもの同士が集まると確実に差別ってできてしまうんですよね。資産、仕事、種族。一人だけ浮いてしまうとその人の力が弱くなる」
悲しそうな目をしながら、独り言のように話していく。
「私は、種族と身分の隔たりを感じさせない場所を作りたいんです。子供が武器を持たずとも安心して生きていける場を」
「武器を持たない……?絶対に不可能よ」
「不可能ではないんです。実際に武器なんて一度も触れたことすらない子供ばかりの国を私は知っていますから」
甘い考えだということは白亜が一番わかっている。
「人間誰しも不完全であれ」
「?」
「私の……師の言葉です。完全で完璧になってしまったら何も始まらない。何も終わらない。どんな者も先に進むことを忘れるな、と」
「へぇ………なんか凄いわね」
その曖昧な感想に少し表情を和らげ、その場から歩き出す白亜。
「課題はたくさんあっても、楽しめればこっちのものですから」
徐にポケットから丸く筒が繋がっている笛……ヴォットを取り出す。そして歩きながら息を吹き込んで大きくもなく、小さくもなく、それでいて響き渡る音が奏でられる。
心なしか、白亜の周囲の草が青々として、艶が出てきた。否、気のせいではないのだ。
白亜は音に魔法を乗せて周囲の花に栄養分を行き渡らせている。肥料を追加していっているような効果が出るのだ。
勿論、気分転換も兼ねている。
一曲吹き終わると、ヴォットから口を離してポケットにしまった。
「出来ることは限られていても、やるだけやってみる。それが私の使命みたいなものです」
どこか哀しげな目を遠くに向けて、そう言うのだった。
「ハクア様。お出掛けですか?」
「ああ。ちょっとな」
「私も行きます」
「私も行く」
「……どこから出てきた?」
キキョウとスターリを連れて転移した先は、
「遺跡ですか」
「前来たことあるだろ。なんか少し引っ掛かるんだよな……」
「なにが?」
『壁画です』
白亜の代わりにシアンが答える。
『ここに以前来たときに、不自然な壁画を確認しました。何なのか判らず、放置していましたが』
「そういうことだ……。これかな」
白亜が指差したところを見ると、ボロボロの壁の一部に傷のような線が見える。
「これ、傷じゃないんですか?」
「いや、ちゃんと絵の具で書かれてるんだ」
白亜がライトで照らしながら壁を見続ける。たまに叩いたり埃を払ったりしながら、じっと見詰める。一時間ほどずっと見ていた。すると、
「ん?」
ペタペタとあるところを触り、首をかしげる。
「どうしたの」
「声が聞こえる」
「声?」
「風だな。奥に吹き込んでる……ってことは続いてるって……」
ぶつぶつと独り言を言っていた白亜だが、突然なにかに弾かれたかのように顔をあげる。
「もしかして………」
指先に魔力を集め、壁になにかを描くようにして指を動かしていく。すると、指でなぞった一部分が淡く光だした。
「いけるかも」
魔力で指先を灯らせながら壁に指を押し付けていく。動かす度に徐々に光る部分が出てきて、次第に形を作っていく。
「ハクア様。それは?」
「学校の資料にあったやつだ。その紋章が出てきてる」
白亜の手が止まった。白亜が一歩引いて壁を確認すると、壁一面に淡く光る紋様が浮かび上がっていた。
『下に何かあるぞ』
アンノウンに言われ、視線を下にもっていく。すると、ぽっかりと壁に穴が開いていた。
「こんなのあったか?」
『いえ、今出てきたものかと』
「何か嵌めるみたい」
スターリが穴を触りながらそう言う。
「そういわれてもそんなもの持ってないしな……」
「適当にそれぐらいの大きさのものを嵌めればいいのでは?」
「それでいいのかな……?」
白亜は地面に落ちている石を穴にぴったり嵌まる大きさでカットし、穴に嵌めてみた。
「案の定反応なしか」
「なんでしょうね?」
「主に貰った鈴入りそう」
「もしそれが嵌まって抜けれなくなったら俺一生ここから出られないからやめてくれよ」
白亜の一部でもあるのであまりに離れすぎると互いに存在が消滅する。とはいっても滅多なことがないのでそれなりに離れていても死にはしないのだが。
「なんなんだろ」
『私が入りそうだな』
「アンノウンが?」
白亜は腰から一本引き抜いて筒の大きさを穴と比べてみる。
「ぴったりだな。試してみるか」
『えぇ』
「何かあったら助けるから」
言うが早いがズボッとアンノウンを穴に突っ込む白亜。すると、
『魔力を送ってみろ』
「?」
『いいから』
言われた通りに魔力を送ってみる。すると、淡く光っていた紋様が徐々に複雑に強く輝いていく。
「おぉ」
相変わらずリアクションが薄い白亜だった。