「あ、もしかして眠れないんですか?」
眠くて短いです。すみません……。
白亜は再びピアノを弾き始める。周囲のリクエストを聞きながら、クラシック曲にアレンジを加えて。
「ハクア様は……本当は何がしたいのでしょうかね」
キキョウがマカロンを齧りながらダイに話しかける。
「さあな。白亜の考えることは一歩どころか百歩は先に行っている。某等では考えもつかぬ」
「そうですけど……。最近はよく笑うようになりましたが、私が初めてあったときは、それはそれは目がお亡くなりになられていて」
その表現があまりにも言い得て妙だったのでダイが酒を噴き出しそうになる。
「ぶっ………クアハハ!そうだな。某があったときもそんな感じではあったが」
「雲泥の差ですよね」
「だな。今でもあまり笑わないが」
ほぼほぼ真顔(目はひどくやる気無い)状態ではあるが、大分笑うようになった。一週間に一度、フッと口を緩ませる程度だが。愛想笑いは除く。
「やはり、昔の事を忘れられないのでしょうか」
「そうだろうな………。それで一生を使い果たしたのだから、忘れることも出来ないだろうしな」
少し酒を口に含んでゆっくり飲み込むダイ。
「楽しい記憶で塗りつぶせるほど甘くはないのだ。深く悩んでも仕方がな―――」
「その話、聞かせてもらっても良い?」
「「え?」」
キキョウとダイの間に皇女が後ろから回り込んで来た。
「こ、皇女様?何故ハクア様のことを?」
「あの目とか気になっててね」
「魔眼ですか。確かに稀少価値は―――」
「違うわ。目付きよ」
「そっちですか……」
今でこそ大分柔らかくなった目付きだが、転生直後など死人以上に目が死んでいた。それは改善されきってはいないので、酷く人目についてしまう。
「それは……私たちが言うことはできません」
「どうして?他言しないわよ?」
「ハクア様の過去を話すことになってしまいますし……ハクア様自身が自分が信用できる者にしか話さないので」
「そんなに不味いことなの?禁術とか?」
「いえ、ハクア様の気分の問題です」
禁術。白亜はたまに使ってしまうのだが。その名の通り、使用を禁止されている魔法である。
白亜がたまに使ってしまうものの中に、鍵解除がある。これは鍵を開ける魔法なのだが、犯罪に使えてしまうので禁術指定されている。
基本、最新式の魔力認証で開く鍵等は例え鍵解除でも開かないのだが、白亜はそれに改良を加えてしまっているのでどんな鍵でも開けることが可能になるというとんでも性能にパワーアップしている。
「それって私が直接訊いた方がいい?」
「ええ。その方がいいかと。………話すかどうかはまた別の話ですが」
夜、12時頃。
皇女があてがわれた部屋の窓を開ける。とくに何ということはない。ただ単に眠れないだけだ。
まだ少し暑い空気が窓の外から吹いてくる。皇女はそれを顔に感じながら外を見る。電気がない世界なので殆ど真っ暗である。
たまに魔法の光がポツポツと見えるが、夜景というものはほぼ存在しない。
「明かりがついてる………?」
ふと下を見ると、少し離れた部屋に明かりがついている。窓も開いているようで、カーテンが風に吹かれて外にとびだしている。
興味本意でその場所に向かってみた。ほんの少し戸が開いていて、そこから光が漏れている。
「っ」
「動かないでください。治るものも治りませんよ」
「痛いって……」
「我慢です」
白亜とキキョウの声が聞こえてくる。皇女は少し開いている戸から中を覗く。
「ん?」
その瞬間、奥からガタッと音がして扉が開け放たれる。
「皇女様?どうされました?あ、トイレならそこですよ」
「ハクア様。多分違うと思われます」
「?」
上半身下着の白亜と小瓶を持ったキキョウが出てきて、いろんな意味で混乱する皇女。
「どうされました?」
「えっと、その」
「あ、もしかして眠れないんですか?」
「そ、そうなの」
「宜しかったら中……入りますか?廊下じゃ声も響きますし」
「え、ええ。お邪魔するわ」
白亜は中に皇女を招き入れる。上半身下着だが。
「どうしてそんな格好を?というか、暗かったからわからなかったけど……身体が」
「ええ。継ぎ接ぎ状態なんですよね。内蔵もこんな感じでして、全身ボロボロで」
至って軽い口調でそういう白亜。
「ですから、毎晩薬を塗ってるんです」
「薬?」
「これです」
キキョウが小瓶を掲げる。青くぼんやりと光っている液体で満たされていて、なんだか塗りたくない。
「これまさか……上級!?」
「ええ。毎晩塗ってるのに全然身体も治りませんし、凄い沁みるんですよ、それ」
「これで治らないって、どんな怪我!?」
上級ポーションは最低でも一本1000エッタはする高級な薬である。白亜が量産したのだが。
これを塗れば失った四肢さえも生えるというファンタジー感満載のとんでもなお薬である。
「私の怪我はもう全身やられてまして。上級のポーションでも効かないんです。気休め程度にしかならなくて」
普通ならポーション代で大変なことになるが、白亜がいつでも作れるので。しかも最悪の場合創造者使ってしまえば材料代すら無料である。
「はい、塗りますよ」
「わ」
後ろからキキョウにやさしくタックルされて白亜がベッドに倒れこむ。そのままキキョウはポーションに手を突っ込んで白亜の身体をマッサージしながら塗っていく。
「痛」
「我慢です」
「沁みる……もう少し、優しくしてくれ………」
「十分やさしくやってます。我慢ですよ」
白亜がピクピクしながら必死に耐えている。痛みに強い白亜でこれなので常人ならば叫びだすだろう。
良薬は口に苦しというが、白亜の場合良薬は身体に痛し、だろう。
「あ、皇女様。宜しければこれどうぞ」
白亜が手を出して指を指す。すると、そこから蔦が生えてきてシュルシュルと少し離れた部屋に入っていき、何かを皿に乗せて持ってきた。
「あそこ、給湯室で。眠気をそそるハーブティーくらいならありますので、どうぞ……っ!」
その様子で言われても、という感じだが、白亜が頑張って淹れたので一口飲んでみる。
「美味しい……!」
「それ、私が育てたハーブのブレンドで………痛」
「だ、大丈夫?」
説明しながらたまに悲鳴をあげる白亜。説明を中断しないのは流石というべきか。
「大丈夫です………。夜更かしは肌に悪いので、お早めにお休みになられた方がいいと思いますよ」
「あ、ありがとう」
ベッドでマッサージされながらたまに悲鳴をあげる白亜に少し苦笑して皇女は自分の部屋へ白亜に貰った紅茶を持って歩いていく。
コツコツと、誰もいない、暗い廊下を。




