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「………。菓子職人になっても僕疑いませんよ」

「これだけあれば十分かな」

「ん。お茶会楽しみ」


 袋に詰まったカモミールを持ち上げて懐中時計にしまう白亜。


「それじゃあ仕事に戻りますね」

「クイアスさん、ありがとうございました」

「いえいえ。お茶、楽しみにしてますね」

「はい」


 少し汚れてしまったので浄化をかけて部屋に戻る二人。すると、正門から数台、馬車が通っていった。かなり綺麗な馬車である。


「今お客さんが来たのかな」

「裏から入る?」

「そうだな。入り口で国王様が対応されてたらいけないし、裏口から入ろうか」

「ん」


 大回りして裏口に行く。たまにこういうことがあるので裏口の場所は皆よく知っている。


「師匠。お散歩ですか?」

「いや、カモミール収穫してきたんだ。また今度お茶にするから」

「本当ですか!僕、あの砂糖がかかった丸いお菓子食べたいです!」

「砂糖がかかった丸いお菓子………ああ、ドーナツ?」

「はい!」

「わかった。今度作るよ」


 ジュードは意外と甘いものに目がない。しかも好き嫌いしないのでなんでも食べる。


「やった」

「今日お客さんが来るんだって?」

「ええ。他国の皇女様らしいですよ」

「さっき馬車が通っていったからそろそろ城に入るかもな」

「相変わらずどんなスピードで移動してるんですか家の庭……」


 馬車よりも数倍は確実に速いのだ。どんな乗り物よりも自身の足の方が速いというとんでも身体能力のお陰なのだが。


「あ、ハクア様!」

「確か………ビードさん、でしたか?」

「はい。見習いのビードです」


 最近入った見習いの料理人である。あまり白亜と面識はないのだが。


「料理長がお呼びです」

「私を?」

「はい」

「なんでしょうか?」

「僕は呼んでこいとしか言われていないので……」

「そうですか」


 白亜がキッチンに行くと、ジュードとスターリも付いていく。いつものことなのだが、白亜に対して過保護すぎる。


「キアスさん?」

「ハクア、それと……何故第二王子様とスターリ様が?」

「「特に理由は」」

「そ、そうですか」


 白亜と料理長のキアスは一緒にレシピを開発するなど、かなり仲が良い。その為、この人は白亜に敬語を使わない。


「どうされましたか?」

「今日、皇女様がいらっしゃるだろ?」

「ええ。聞きました」

「ハクアの腕を見込んで頼みがある」

「?」

「皇女様の舌に合うデザートを作ってくれないか?」

「え」


 かなり突然だ。


「と言われても。好みなんて判りませんし」

「お前さんならなんとか出来るだろ?」

「私がなんでもかんでも出来る超人だと思ってませんか?」

「「「うん」」」

「全員答えるなよ」


 白亜へ無茶振りする料理長。


「年も近いから、さ。頼むよ。この城の中で一番菓子作り上手いのお前なんだからさ」

「私は菓子職人じゃないんですけど」


 凄い信頼である。


「それに、材料が………あるか。一応」

「だろ?」

「むぅ………。判りましたよ。どんなことになっても知りませんから」

「ありがとよ!」


 先ずは趣味嗜好くらい調べないとな、と溜め息をつく白亜だった。








「収穫があんま無いな……」

「酒をいれておけば大抵は」

「お前じゃないんだから。それに皇女様は未成年だ」

「む。そうなのか。某は酒があればそれで良いのだが」

「飲んだくれ龍はどっか行ってろ」


 ダイを放り出して紙にお菓子のデザインを書き出していく。


「どうせなら見た目にも良いものを出した方がいいだろうな」

「師匠って妙なところ几帳面ですよね」

「五月蠅い」


 カリカリと鉛筆を動かしていく。


「幸い甘いものは好きみたいだから。ただ、どんな果物が、とかは判らなかったから一種類は避けた方が良いだろうし。食感も大事だよな……。ここで飾りの飴を」

「本当に一回師匠の頭覗いてみたいです」

「何を見る気だ?」

「いえ、なに考えてるのかなぁ、って思っただけです」


 滅茶苦茶なほど計算とかしてそうである。


「んー……」

「もうそれで良くないですか?十分すぎると思うくらいなんですけど」

「いや、まだもう少し華やかにしたい」

「………。菓子職人になっても僕疑いませんよ」

「なんの話だよ」


 白亜は紙を新しいのに換え、再び鉛筆を走らせる。


 何度かそれを繰り返し、ピタリと手が止まる。


「これどう?」

「スッゴいですね。作れます?この浮いてるところとか」

「ああ、それは壊れないように太さを計算してるから問題ない」

「もう突っ込みませんよ」


 世界レベルのコンクールに出すようなクレープが登場である。


「でもこれなら大丈夫だと思います。というか、十分通り越して師匠の万能さが怖いです」

「そこまでじゃないだろ。じゃ、作ってみるか」


 キッチンに入って懐中時計に入っている果物やらなんやらを高速で調理し始める。


「ん。どうさ」

「実物みると半端ないですよ」

「おいし」

「スターリさん食べるの早いですね……」


 好評だったのでフルーツクレープのバニラアイス添えをデザートに提供することになった。








「おお……俺より旨いとかどうなってるんだ。これで世界最強とか凄すぎるだろ」

「世界最強って……。そんなに強くないですよ」

「いや、最強だろ。少なくともお前さんに勝てるやつは俺の記憶には存在しないね」

「どうでしょうか………?」


 白亜は首をかしげ、懐中時計を見る。


「そろそろ夕食の時間ですね」

「おう!今日はいつも以上に旨いの作ってやる!」

「ふふ。期待してます」


 白亜の作るデザートは食べる直前でないと温かいクレープ生地がアイスを溶かしてしまうので今出来るのは準備である。


「それでは、失礼します」


 料理長や見習い達に頭を下げてからキッチンを出ていった。


「ハクア。菓子を作ると聞いたが?」

「ああ、ルナ。作るけど?」

「そうか。ハクアの菓子は上等だからの。期待しているぞ」

「あんまり煽らないでくれよ。そんなに良いもんじゃないし」


 手抜きはしないが、白亜は職人でもない。素人の域………でないことも確かだが白亜は精々素人に毛が生えた程度だと思っているので。


 もし本当に白亜が素人に毛が生えた程度ならば職人の大半は素人だろうが。


 もう既に皇女様ご一行は食堂に入っているようなので、白亜達も中に入っていく。


「ああああああ!」

「え?…………あ」


 一番奥……所謂お誕生日席に座った皇女らしき人物が叫びながら白亜を指差して立ち上がる。


 白亜も一瞬なにがなんだかわかっていなかったが暫く考えを巡らせ、思い出した。


「え?え?師匠のお知り合いでしたか?」

「いや、知りあい………というかなんというか………」


 勝負を止められた。というのが一番正しいのだろうが、それを話しても意味不明である。


「君、王族だったの!?」

「いえ、平民ですけど………!」


 白亜がそう言った瞬間、皇女の左隣の席から銀色に光るナイフが飛んできた。テーブルに置いてあるやつである。とはいえ、かなり鋭い。普通に壁に刺さるレベルである。


 白亜は人差し指と中指でナイフを挟んで止める。反応速度が半端ではない。


「平民風情が!出ていけ!ここは貴族の場だ!」


 太った男が白亜に向かって怒鳴り付ける。


「待て、玄武スターリユニコーン(シャンス)アジ・ダハーカ(シュヴェルツェ)

「主を侮辱された」

「構わない。落ち着け」

「しかし!」

「二度も言わせるな。俺の言葉が通じないのか?放り出されたくなければ止まれ。国王様方の御前だぞ」


 声が一段と低くなった白亜から異様なまでのオーラが立ち込める。殺気とはまた別だが、圧迫感は相当なものだ。


「………御意に」

「…………はい」


 各々が俯いて行動を止める。


「申し訳ございません。部下が無礼を」

「良い。許そう」


 国王がそう言うが、皇女の横の貴族は白亜を睨み付けている。


「やめなさい、コラップ。当たらなかったから良かったものの、当たっていたら死んでしまうかも知れなかったわ」

「平民と同じ場所で食事など、私は反対です!国王、お考えを」

「コラップ殿。ハクアは私の息子の師だ。使用人も共に食事をする決まりでな」

「なんと!国王はこんな下賎な者と食事を!?」

「口を慎みなさい、コラップ!」


 雰囲気は最悪である。白亜は一瞬目を瞑り、


「いえ、国王様。私のような平民が共に食事をするなど、普通ならば嫌悪されるもの。それにこんな雰囲気では折角のお食事もつまらないものになってしまうでしょう。私は退席させていただきます」

「そんな!別に私はなんとも思ってないわよ!」

「皇女様がそうでも、他の方が全員そうとは限りませんので。国王様。宜しいでしょうか?」

「ハクアが良いと言うのなら………」

「では、失礼させていただきます」


 静かにお辞儀をして、その場から立ち去った。その後ろを配下組が付いていく。ジュードも含まれているが。


「何故行くのだ?」

「師匠が行くのなら僕も行きます」

「そうか」

「失礼します」


 かなりの人数が減って、一気に寂しくなってしまった。一番可哀想なのはキッチンでこんな状況とも知らずに一所懸命に料理を作っているキアスだろうが。

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