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「あの女は12、銀髪の方は……error」

「嘘だろ……?中級魔法を周囲に被害なく解除させるなんて不可能の筈じゃ……」

「あの男の子何者?」


 周囲がざわめいているが、白亜は二人の試合の行方を見て、


「それまで。勝者、スターリ」


 首もとに剣を押し当てているスターリに、そう言ったのだった。


「勝った。撫でて」

「妙に積極的だな……」


 そういいつつもスターリの頭を優しく撫でる白亜。スターリは心底嬉しそうにしている。


 剣聖は負けるとは思っていなかったようで地面に座り込んだまま立ち上がれずにいた。


「怪我は?」

「ない」

「そうか」


 呼吸ひとつ乱していないスターリ。白亜はいまだに光っている目を観客に向け、ある一点を見詰める。


「………」

「主?」

「いや、なんでもない」


 しばらく見ていたかと思ったらそのまま目を逸らした。


「ごめんなさい」

「なにかあったか?」

「主に戦わせないように私が出たのに、結局主は」

「気にすんな。次気づけば良い」

「ん」


 珍しく長文で喋ったスターリ。白亜は微塵も気にしていないが。


「ん。花頂戴」


 容赦なく手を前に付きだすスターリ。


「ああ、どうぞ。……君は本気でもなかったんだね」

「ん。本気は主と戦うときだけ。他にやったら壊れる」


 スターリは力の調節が苦手なので白亜に押さえながらやってもらわないと周囲が破壊されていくだけである。


「主。終わった」

「お疲れ。まだまだ時間はあるぞ?」

「もっととってくる!」


 白亜に褒められて意気揚々と獲物を探しに行った。


「スターリの心配はいらないようだな。……もし何かあっても、あれさえあれば何とか出来るだろうし」


 くぁ、と小さく欠伸をしながら他の参加者を見に歩いていった。








「なんで私の土大砲ストーン・キャノンがあんなにも簡単に落とされたの……?」


 白亜が去った後、剣聖ともう一人、土大砲ストーン・キャノンを撃った女性が話していた。


「それにしても、彼女もそうだがあの銀髪の魔眼の男の子……滅茶苦茶な強さを持ってるね。……数値は?」

「あの女は12、銀髪の方は……error」

「error!?そんなことってあるのか?」

「判らないけど、私の目はそう判断した」


 淡く白く光る右目を剣聖に向けながら、女性が溜め息をつく。


「こんなこと初めて……数値が高すぎて見えないなんて」


 この女性の魔眼は人や動物の強さを数値化して表示する魔眼で、常人が0,5~1である。10を越えると化け物レベル。ちなみに白亜の周囲、リンやジュード達は全員10越えである。


 個々が強すぎるパーティなのだ。


「あの男の子は、無理だね」

「無理ね。高すぎて装置に負担がかかるでしょうし、根本的に捕まえることもできないでしょうし」

「彼女は?」

「いけないこともないけど、あの銀髪が一緒にいると考えるとちょっとね……」


 そんな話をしながら、剣聖と女性……『強視』のキリエ・アンダインがいつの間にか姿を消していた。


 剣聖の首には、三種類の模様が象られたペンダントがぶら下がっていた。








「ふぁ……もう少し寝とけば良かったかな……」

『当たり前ですよ。なんであんな夜中まで古文書解析してるんですか』

『シアン。そなたも魔方陣を見ていたではないか。五十歩百歩だぞ』

『それもそうでしたね……』


 ベルトについているアンノウンを指先で弄りながら白亜は町の中心の掲示板まで歩く。


『おお、なんかファンタジーだ』

『あなたがそれを言いますか』


 シアンの突っ込みを一旦無視して、白亜が掲示板を見る。そこにはリアルタイムで誰が何のペンダントを持っているのか判り、今も尚、忙しなく文字が行き来する。


「スターリは……へぇ」


 にやっと悪戯を成功させた子供のように笑みを浮かべる白亜。そこには、スターリの名前の後ろに水が6枚、花が8枚、木が7枚と表記されていた。


『やりますね』

『やはりそなたも参加すれば良かっただろうな』

『本気で周囲に止められそうだからな……。また次の機会にするさ』


 掲示板に載っている名前を一瞬で全て見終わり、直ぐにその場を離れた。面倒くさそうな目をほんの少しだけ、細めながら。


「さてと、そろそろ昼時だからな……。ご飯、どうしようか」


 ポツリと、そう言った。








「はぁぁっ!」

「遅」


 スターリは突き出された剣をほんの少し首を動かすだけで回避し、短剣の鞘で首を叩いて気絶させる。


 白亜からもらった鈴が、チリリン、と涼やかに音を奏で、スターリの勝利が確定する。


「これで、8。主、褒めてくれるかな」


 頬をほんのり赤く染め、嬉しそうにペンダントを奪う。


「次。誰か」


 スターリの過激すぎる戦いぶりは相当なもので、周囲には巻き込まれたくないからと人が殆どいなかった。


 その事実に少し頬を膨らませながら次の試合相手……というより、白亜に撫でてもらうための生贄を探しにいくスターリ。


「……?」


 突然立ち止まって周囲を見渡すスターリ。なにか違和感を感じたらしく、しきりに首をかしげている。


 そのまま歩きだし、走る。腑に落ちない顔をしながらもそのまま走っていった。後には、『強視』の手下だけがスターリの足の速さに付いていけず、置いてきぼりになっていた。


「いた。人」

「なんだお前!?何個持ってるんだよ!」

「集めてる。集めて、主に褒めてもらう」

「は?それだけ?」

「それ以外に、何がある?」

「え?」

「?」


 15歳程の成人したてのような男の子だった。短く、少しボサボサの黒髪だ。


「黒髪、珍しい」

「……苛められるんだよ。魔族の色だって」

「?魔族、もっと赤っぽい」

「会ったことあるのか!?」

「ん」


 一緒に住んでいるが、それはなにも言わない方がいいだろう。


「それに、黒髪が珍しくない国もある」

「そうなのか!?」

「ん。主が言ってた。全員が黒くて、他の色はない」

「ないのか!?」

「ん。だから寧ろ他の色は変らしい」

「いいなぁ……。その国に産まれたかった」


 ポツリと言葉を溢す男の子。


「なんで、大会に出た?」

「なんでって……。皆オレのこと変だとか弱いとか言うから……ここで勝って見直させる」

「ふーん」

「興味無さそうだな」

「ない」


 話振っておいて興味ないとは、流石はスターリ。白亜の配下だ。


「主も、苛めあってた」

「本当か?」

「ん。主、気にしなかった」

「気にしないなんて無理だよ」

「主はできた」

「君の主が強すぎるんでしょ」

「ん。主は至高。この世の誰よりも強い」


 スターリはうっとりした顔で話し続ける。白亜のことになると途端に饒舌になるのだ。


「私が会ったとき、まだ主は6歳だった。でも、主は誰にも負けなかった」

「それはその人が特別だからでしょ」

「それもある。けど、それ以上に主は努力した」

「努力?」

「ん。主の手、固い。全身傷だらけ」

「オレも傷いっぱいあるよ?」

「主は継ぎ接ぎ。生きてられるのが不思議なくらい」


 白亜の魔力で継ぎ接ぎされた体は配下組は当然知っている。だからこそ、皆白亜には無理をさせないようにと最低限の報告しかしない。


「継ぎ接ぎ?」

「見ればわかるけど、いつ千切れてもおかしくない」

「ちぎっ………!?」

「主は最初から強かった。だから努力した」

「なんで?強いなら努力なんてしなくても」

「違う。強いからこそ、自分を強くした。中途半端で終わらせたくないってよく言ってる」


 中途半端。前世で白亜が一番に感じていた事だった。なにもかも中途半端で出来た心地がしない。


 誰かに合格をもらえても、自分が納得いかない。そんなことが多々あった。時間がなかったからというのもあって、白亜は中途半端だと思っていても一旦切り上げるようにしていた。


 それが、嫌いだったのだ。


 残り時間をどう有効に活用するか、それだけを考えて生きていた白亜にとって、今世、つまり転生してからは何をしたら良いのかさえ判らなかった。


 ただひたすら剣を振り、体を鍛え続けた。やることを、捜すための第一段階として、白亜は強くなることを選択した。


 スターリはそれをよく知っていた。だからこそ、白亜には無理してほしくないと考えており。つい、勢いに任せて自分が拳闘大会に出ると言ってしまったのだが。


「主は強い。だから、私も安心してついていける」


 そう、これで良い。と心の中で唱えながら男の子に向かって言ったのだった。

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